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スバル、走りより家族 生活・安心で売り込み

富士重工業の自動車ブランド「スバル」の売り方が変わった。熱烈なファンを相手に「走り」を誇示するような姿勢は消えた。メーカーが自ら釣りやスキーなどのアウトドアイベントを企画し、「スバル車で出かける愉(たの)しさ」を訴える。売り場や接客手法を変え、クルマではなく、クルマのある生活を売る――。国産の高い安全性能や信頼感を背景に「家族を乗せる車」を狙い始めたスバルの変身ぶりを追った。

親子釣りイベントや「安全」体験

「やった、釣れた」。5月末の日曜日、千葉県木更津市近くで7組17人の親子が釣りを楽しんだ。大半が初心者。イシモチやキスなど17匹を釣った茨城県牛久市の稲葉響くん(12)は「楽しかった。また行きたい」と話した。スバル主催でも車の話は無し。静岡県三島市の佐野有一さん(48)は「スバルに親近感がわいた」と笑顔をみせた。

「車の売り方」の常識でいえば異例だ。ディーラー(販売店)が顧客向けにゴルフ大会や宴会を開くことはある。しかし社会貢献を除けば、メーカーが車と無関係のイベントを開くのは珍しい。

米コンサルティング会社インターブランドによるとスバルのブランド価値は19億9800万ドル(2460億円)。トヨタ自動車などに比べて1ケタ小さい日本勢13位だったが、上昇率は前年比72%増で首位。「ぶつからないクルマ」の技術「アイサイト」が認知され、輸入車とも競い始めた。

5月からは新しい販促活動「スバルネクストストーリー」(SNS)を始めた。自転車や登山などのイベントも企画。「出かける愉しさ」を訴える。カヌーや天体観測など顧客から40件以上提案があり、「販売店と連携して地方に広げる」(小島敦SNS推進室長)。

「走り屋」の愛車か、商用の軽自動車――。固定的な印象が強いスバル車だが、家族向きのワゴン「レヴォーグ」(277万5600円~)を昨年購入した客の下取り車は51%がスバル車以外。半分以上が乗り換えだ。

輸入車からの乗り換えも5%。じわり増えている。2006年ごろ主力「レガシィ」(現在はセダン「B4」が286万2千円~)は輸入車からの乗り換えが3%程度だった。

仏プジョーの「206CC」から昨年、レヴォーグに乗り換えた東京都江東区に住む男性経営者(55)は「山によく行くのでスバルの四輪駆動技術が気に入っている。アイサイトは渋滞でも楽で満足」と言う。

販売店も変わった。スバル車で来店するとナンバーを自動で読み取る「ナンバーキャッチシステム」を14店で導入(予定含む)。来店動機や入庫予約を照会し、「○○様」と声を掛けて迎える。

「技術」は客が納得するまで訴える。全国30店で今春、高速道路での試乗を本格的に始めた。通常は店の近くを回る程度だが、アイサイトは車線や車間距離を保つ機能が売りもの。時速65キロメートル以上で作動する機能もあり、高速試乗で納得し、成約に至る例が増えた。

スバルのあるアウトドアライフを提案している(東京・渋谷の富士重工業本社)

接客も変わった。6月半ばの週末、群馬県太田市のスバル店を訪ねた。駐車場に入ると4~5人の担当者が待機。「お車をお探しですか?」と声をかけてきた。近くの国産車と輸入車の販売店も訪ねたが、担当者が店外に待機していたのはスバル店だけだった。

調査会社のマイボイスコム(東京・千代田)の14年3月の調査でも「安心感・信頼感がある」でトヨタ自動車、ホンダ、日産自動車に続く4位。上位3社が3年前より評価を下げたのに対し、スバルは2.4ポイント増えた。

 テレビCMのトーンも昨年から大きく変えた。「クルマは人生を乗せるものだから」。ミニカー好きの少年が大きくなり父親とけんかに。大人になって恋人を連れてスバル車で帰り、父親とスバル車に乗って仲直りする――。車を介した家族や友人との絆を訴える。

スバルのCMといえば、「私は、レガシィと走っている。」など車種や技術を連呼。「アイサイト」後も機能の話ばかりだった。しかし他社も「自動ブレーキなら日産」などと打ち出し、「他社と違いを出しにくい上に、CM量では大手に勝てない」(上野修マーケティング推進部長)と判断。「笑顔を前面に出す」(吉永泰之社長)CMに変えた。

14年度の国内新車販売でスバルは排気量660cc超の登録車が17年ぶりに13万台を超えた。「『(車種でなく)スバル車が欲しい』と言われたい」(吉永社長)。ブランドを磨いて輝けるか。スバルが賭けに出た。

アウトドアPR、成功体験を逆輸入

スバル変身の背景には、北米の成功と国内の人口減少がある。車好きの個人客と商用の軽自動車が主力だったスバル。軽は採算悪化で自社生産から撤退(ダイハツ工業がOEM=相手先ブランドによる生産=供給)し、かつて国内販売の6割を占めた軽は14年度に約2割に減った。熱烈なファンはいるが、このままではじり貧だ。そんな折、北米で販売が急増した。

北米の消費者は中古価格に直結する品質やブランド価値にうるさい。寒冷地に強いスバル車はもともと人気があったが、リーマン・ショック後に家族愛を訴えるCMやスバル車購入時に一定額を寄付する活動を展開。品質でつまずく他社を横目にイメージを高めた。

北米で得た自信と資金は国内の変身につぎ込んだ。5月、富士重工業本社(東京・渋谷)1階に大きな「屋外」を設けた。人工芝を敷き、木やテント、カヌーなどを車近くに配した。30代男性は「SUV(多目的スポーツ車)が好き。この雰囲気はいい」と話した。

利用シーンを演出する同様の取り組みは国内スバル店の4割に当たる180店で展開する。「岩や川の演出が必要か」と異論も出たが、吉永社長は「試行錯誤でいい。若手中心にどんどんやってほしい」と鼓舞する。15~17年度に300億円規模を投じ、三大都市圏を中心に140店を大幅改装する計画だ。

スバルは営業利益率は約15%と世界トップクラスだが、世界シェアは1%。環境対応の開発費負担は重く、「ブランドを磨くしか生き残る道はない」(吉永社長)。米国頼みはリスクが大きい。母国で存在感を保つために、少子化が進むなか、あえて「家族」や「アウトドア」を追い、大手と違う道を行く。(松本正伸)

[日経MJ2015年6月22日付]

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