造船ニッポン、環境技術で再興 専業が大同団結
船舶技術の開発会社「マリタイムイノベーションジャパン」(MIJAC、東京・品川)。造船専業各社などがライバル関係を越えて2年前に共同出資で設立したこの会社が軌道に乗り出した。騒音対策など一部で研究の成果が出始め、当初の目的の環境技術から発展し、海洋開発や生産技術など第2・第3の柱を模索し始めた。
今後は開発人材の採用にも力を入れるなど、次の段階に入る。規模で勝負する中韓勢の台頭に直面する日本の造船各社にとり、技術力の維持向上は生命線だ。MIJACは造船技術の向上にどこまで貢献できるか。真価が問われる。
国際機関の相次ぐ規制に対応 海運や機器メーカーも結集

「少しずつ研究の成果も見え始めた。さらにスピード感をあげて取り組んでいきたい」。4月22日、日本財団ビル(東京・港)の会議室。設立後に初めて開いた研究成果報告会で、集まった多くの造船・海運関係者を前に、MIJACの信原真人社長は意気込んだ。
MIJACは大島造船所や常石造船など造船専業を中心に、2013年4月に設立された。背景にあったのは、国際海事機関(IMO)が主導する相次ぐ環境規制の強化。研究内容の多様化などを受け、一社では難しい十分な研究人員や資金の確保を共同出資会社の設立により推し進めていく狙いがあった。
さらにシェアでは既に日本勢を超えた中韓勢の存在もあった。規模の大きい中韓勢に技術力で追いつかれず、さらに突き放すためにも、連携が必要だった。
造船最大手の今治造船も参画したことで、年間数百隻程度を建造する企業連合体ができた。「これだけの建造量があれば、様々なデータも早く集まり実証試験も進めやすい」(信原社長)
参画するのは造船業だけにとどまらない。発足当初から日本郵船や日本海事協会が参加。現在はヤンマーやナブテスコといった舶用機械メーカー、さらに日本政策投資銀行も参画する。出資企業は設立時の6社から16社に増え、研究開発費も13年度の2億5000万円から15年度には6億円まで拡大する見通しだ。
規模だけでなく、期待通りの研究開発成果もあげ始めた。各社の知見の持ち寄りにより、従来に比べ大幅に研究スピードが高まったという。たとえば船内の騒音規制への対応では、設計段階で騒音を予測するプログラムを開発。着手から1年で技術の確立にこぎ着けた。研究成果報告会の来場者からは「短期間で具体的な成果が上がるのは評価できる」との声が上がった。
環境規制への対応という当初の目的は、「もちろん実船試験はこれからだが、メドが立った部分も大きい」(信原社長)。発足時に30%の燃費改善を打ち出したが、足元で基礎研究を終えた技術の合算で既に16%分の削減を可能にした。そこで、企業として永続するため第2・第3の柱づくりに乗り出そうとしている。
海洋資源開発を視野 造船省人化にロボット研究も着手
まず狙うのが、世界的に拡大すると期待される海洋開発分野。原油安やブラジル・ペトロブラスの汚職問題のあおりで一時的に停滞しているが、長期的に成長市場とみる。浮体式洋上石油・ガス生産貯蔵積み出し設備(FPSO)や様々な作業船の建造などを視野に入れ、近く研究を始める考えだ。信原社長は「10年先を見据えた研究開発も進めていきたい」と話す。

さらに生産技術の研究にも着手する。造船業はかねて省人化が叫ばれた時期もあったが、「結果として優先順位が高まらず進んでこなかった」(信原社長)。ただ、足元で造船業は建築現場との人材争奪戦の様相を呈しており、十分な人手確保がままならない。ロボットやセンサー技術の活用による省人化を進める機運が高まっている。
省人化に必要な技術の洗い出しなどを進める考えだ。従来ドックの大きさや形状、設備などが異なると「カイゼン」の効果を違う現場に適用しにくいとされてきた。MIJACは新しく各造船所が共通で使えるような技術の開発を目指す。
研究開発を目的とする会社だけに、優秀な人材の確保がカギとなる。出向者だけに頼らず、自社での採用も進めている。既に2人の外国人研究者を採用。新分野への進出では違った知見を持つ人材も必要となり、今後も人員の拡充を続ける方針だ。「オールジャパンのプラットフォーム」(信原社長)を自負する会社の維持拡大には、研究者をひきつけ続ける会社づくりが欠かせない。
(企業報道部 岩戸寿)