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事実婚を解消 法律婚と大きく異なるマネー事情

最終回 男と女のマネー学

最近、結婚という形にとらわれず、あえて籍を入れず一緒に暮らす男女のカップルが増えてきているようです。いわゆる「事実婚」です。NHK放送文化研究所の世論調査「第9回日本人の意識調査(2013年)」によると、「人は結婚するのが当たり前だ」と考えている人は1993年から20年間で12%も低下し、2013年には33%になりました。結婚という形が少しずつ形骸化しているように思えます。

しかし、結婚していない男女の間に生まれた「婚外子」が全体に占める割合は日本ではまだ2%程度にすぎず、98%は結婚している夫婦の間に産まれた子どもです。諸外国をみると婚外子の割合は増加していて、フランスは52.6%、英国は43.7%、米国は40.6%に達しています。欧米諸国では約半数に達している国が多いというのが現状なのです。

日本では価値観の多様化、非正規雇用の拡大、そして出会いの場の減少などによって非婚化、晩婚化、そして少子化がますます進んでいます。「結婚へのハードルが高すぎると感じる若者が多いこと」が背景にあるのではないかという議論も行われ、「結婚へのハードル」を解消する策として事実婚を推奨しようという機運も高まっているようです。

この連載ではこれまで、「籍を入れている夫婦(法律婚)」のケースを取り上げてきましたが、実際のところ、私のところに相談しに来る人のなかには、必ずしも法律婚だけではなく、事実婚の男女も一定数、存在しています。そして、その数はここ2、3年で増えているという印象です。

籍を入れずに夫婦同然の生活をしている事実婚だけでなく、妊娠をきっかけに結婚の約束をしたものの、籍を入れる前にけんか別れをしてしまった女性、男性が既婚者なので籍を入れることができない内縁関係にある女性、妊娠が分かったら男性が同居先から逃げてしまった女性――。事実婚の内情は多種多様だという印象です。

今後、日本でも他国のように事実婚が増えていく可能性があります。そして、事実婚の数が増えれば増えるほど関係解消にまつわるトラブルも増えていきます。今回は事実婚のなかでも男女間に子どもがいるケースについて紹介しましょう。

相談者はA子さん(32歳)。A子さんは彼氏(B男さん、42歳)と付き合っていて、今年で交際3年目です。3年の間に何度となく結婚の話が出たそうですが、B男さんの両親が2人の結婚に反対していて、いまだに入籍できずにいました。B男さんが「親を何とか説得する」というので、その言葉を信じ、A子さんはB男さんのマンションに引っ越し、同居を始めました。

しかし、B男さんはなかなか両親を説得できず、先の見通しが立たないまま、ずるずると時間ばかりが過ぎていきました。そのせいでA子さんの不安は日増しに大きくなり、2人の関係にも悪影響を及ぼすようになりました。ささいなけんかがたびたび起こるようになってしまったのです。

ある日のけんかで、A子さんは思わず「出て行ってよ!」と怒りを爆発させてしまいました。結果、B男さんは実家に戻ってしまい、A子さんは取り残されてしまったのです。そんなタイミングでA子さんは妊娠していることに気が付きました。本当なら一刻も早く、B男さんに「戻ってきてほしい」と頼まなければなりませんが、自分が追い出した手前、連絡を取れずにいました。

どうしたらいいのか迷い続けたまま、A子さんは妊娠6カ月を迎え、出産する以外の選択肢がなくなりました。その段階になって、A子さんは私のところに相談に来たのです。A子さんがB男さんに求められるものは、「子どもの認知」「養育費」「出産費用」の3つです。

まず認知です。法律婚と事実婚では子どもの扱いが異なります。法律婚の夫婦に子どもが生まれると、子どもは夫婦の戸籍に入り、父親欄には夫、母親欄には妻の名前が記載されます。必要な手続きは役所に出生届を提出するだけです。

事実婚の場合、戸籍に父親の名前を記載するには、男性が役所に「認知届」を提出する必要がある

一方、事実婚の場合、男性と女性の戸籍は1つではなく別々です。役所に出生届を提出したら、子どもは母親(今回はA子さん)の戸籍に入りますが、この段階では父親欄は空欄です。父親欄にB男さんの名前を記載するには、「認知」という手続きが必要なのです。具体的にはB男さんが認知届に署名をし、役所へ提出しなければなりません。A子さんがB男さんに連絡をしたところ、B男さんは認知はすると言ったそうです。万が一、B男さんが「本当に俺の子なのか」と言い出したら、出産後に親子関係を確認するためのDNA鑑定などの手続きが必要になるところでした。

次に養育費です。法律婚であれ事実婚であれ、父親は子に対して扶養義務を負っています。認知によってB男さんと子どもは親子関係になったため、B男さんは養育費を支払わなければいけません。これは法律婚の夫婦が離婚するのと同じ考え方です。

B男さんは公務員で、年収は822万円とのこと。一方、A子さんは出産後は、仕事を制限せざるを得ず、年収は200万円まで落ち込みます。家庭裁判所が公表している養育費算定表によると、B男さんの年収が822万円、A子さんが200万円の場合、子どもの養育費は月6万~8万円が妥当な金額です。A子さんが算定表を示し、B男さんと話しあった結果、養育費は「毎月7万円を子どもが22歳に達する翌年の3月まで」支払うという条件でまとまりました。

最後に出産費用です。A子さんによると、妊娠中・出産後の検診費用、入院や分娩費用などを合わせて45万円かかるということ。B男さんは出産費用についてもA子さんと連帯して責任を負わなければなりません。自治体から出産一時金として支給される金額を差し引いた額を2人の年収に応じて案分し、B男さんは4万8000円を支払うと約束しました。そして最終的に、養育費と出産費用の約束については公正証書という書面に残すことにしたのです。文面は以下に示しましたので、参考にしてください。

【子の監護に関する契約公正証書】
 ○○B男(以下、甲という)と△△A子(以下、乙という)が両者の間にいる子の監護について以下の通り、合意する。

第1条 甲は甲乙間の未成年の子(本証書作成時点では胎児、以下、丙という)が自分の子だと認めたので、速やかに□□区役所へ認知届を提出すること。

第2条 甲は乙に対し丙の養育費として平成25年11月から丙が満22歳に達する翌年の3月まで毎月20日に金70,000円を乙が指定する金融機関の口座へ振込入金にて支払う。振込手数料は甲が負担する。

第3条 甲は乙に対し平成25年11月末日までに出産費用として金48,000円を乙が指定する金融機関の口座へ振込入金にて支払う。振込手数料は甲が負担する。

第4条 乙が丙を出産した後、甲から連絡があった場合、丙の体調や情緒、気持ちなどを調整し、丙の福祉に反しないよう面会の実現に向けて、乙は最大限の努力をすること。

第5条 甲は連絡先(住所、電話番号、携帯電話番号、電子メールアドレスなど名称を問わない)に変更があった場合は直ちに乙に通知すること。

第6条 甲は本証書の金銭債務の弁済が遅延した場合は強制執行を受けることを承諾した。

平成25年6月19日
甲 ※※県※※市※※区※※ ◎―◎―◎
公務員 ○○B男

乙 ※※県※※市※※区※※ ◎―◎―◎
会社員 △△A子
事実婚と法律婚のメリット・デメリットについて把握しておきたい

事実婚は法律婚と比べ、手続きがいらない分、始めるのもやめるのも心理的なハードルが低いという印象があります。しかし、「簡単に始められ、簡単にやめられる」というのは、当事者にとっては善しあしです。法律婚の場合、婚姻届を提出するにも、離婚届を提出するにもお互いの同意が必要です。でも、事実婚はというと、始めるときには同意が必要でも、解消するときはA子さんのケースのように、片方が勝手に家を出て行ってしまうこともあるわけです。そうなれば、相手が戻ってこない以上、事実婚を継続することは難しくなります。

また法律婚の夫婦が離婚する場合、離婚の条件(養育費や慰謝料、財産分与など)が決まるまで離婚を拒むことが可能ですが、事実婚の男女が別れる場合、解消するための条件が決まっていなくても「別れる」ことができてしまいます。A子さんのケースでも、B男さんが出て行ってしまった後に、子どもの認知や養育費の支払いなどの条件を決めるという、不安定な状況に追い込まれてしまいました。

日本には欧米諸国と違い、戸籍という独特の制度があります。法律婚と事実婚を比べると、戸籍はいい意味でも悪い意味でも当事者を縛る手かせ足かせになっている側面があります。その縛りをどう解釈するのかは個々人によるでしょうが、もし、交際相手と籍を入れようかどうか迷っている人がいたら、今回の話を予備知識として役立ててもらえればと思います。

露木幸彦(つゆき・ゆきひこ) 1980年生まれ。国学院大学法学部卒。行政書士・AFP。金融機関の住宅ローン担当を経て2005年に独立。離婚相談に特化し、相談件数は8年間で1万件を突破。四半期に1度、相談会を行っており、東京、大阪、福岡のほか、被災地(仙台)でも開催。テレビ朝日「スーパーJチャンネル」、フジテレビ「とくダネ」「ノンストップ」などに離婚専門家として出演。主な著書に「男のための最強離婚術」「男の離婚」「人生がガラリと好転する男の離婚術」(メタモル出版)、「離婚のことばハンドブック」(小学館)、「婚活貧乏」(中央公論新社)などがある。公式ブログはhttp://ameblo.jp/yukihiko55/

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