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開業わずか8年、全米オープン抜擢の公営コース

スポーツライター 丹羽政善

18日から始まる男子ゴルフの今季海外メジャー第2戦、第115回全米オープン選手権の会場となる米ワシントン州チェンバーズベイGCは我が家に近く、プレーしたこともあるコース。大会の約1週間前に訪れてみた。

まだ、通常の駐車場に車をとめられたが、プロショップの前まで行くと、数人のボランティアに囲まれ、コースの方には行けないこと、立ち入りができるエリアを詳細に伝えられる。制限は予想通り。でも、プロショップに併設されたレストランを出たところから、30メートル以上の打ち下ろしとなる9番ホール(パー3)のティーボックス付近から、全体を眺めることができた。

海から風が吹き上げる9番ホール

9番のティーボックスからの風景

内海から、風が吹き上げてくる。ちょうど、練習ラウンドをしていた選手が、220ヤード前後に設定された9番のティーグラウンドに立った。全米オープン史上最高の約30メートルからの打ち下ろし。風は下から吹き上がってくる。1球目、その選手の打った球は、風に負けて、右にふけていった。おそらく落ちたのは、写真右側のラフ。本番なら大トラブルになるだろう。2球目は1球目より低い球を打った。ボールはピンの左で跳ねた。

写真ではどこまでイメージできるか分からないが、9番のグリーンは、左から右に大きく傾斜している。マウンドが2つ。あのピンの位置なら、グリーンの左を狙って落とし、ピンに向かってどこまで転がってくれるか、という攻め方をするのかと思ったが、デッドだった。

実はここで、同じようなピンポジションでプレーしたことがある。レギュラーは180ヤード程度だが、左の斜面に打つと、ボールは右へ下り、ちょうどピンの奥で止まったことがあった。ただ、その攻め方にはリスクがある。左奥に行き過ぎれば、傾斜に沿って転がりながら、グリーン奥のバンカーに吸い込まれる。短いと、手前のバンカーまで転がり落ちる。練習ラウンドで回っていた選手はそういうリスクをそぎ落とした結果、あそこに打ったのかもしれない。13日に練習ラウンドを回った川村昌弘も、「左から転がすのは、(奥の)バンカーが気になる」と話した。「手前から行くのが正解かもしれません」

まるで全英オープンのようなコース

最後にチェンバーズベイを回ったのは昨年10月だが、様相が多少変わっていた。まず、グリーンとフェアウエーの区別が、上から見た感じではほとんどつかなくなっていた。まるでフエアウエーからグリーンが一続きになっているよう。おそらくこれは、短く刈り込めるフェスキュー芝だからこそだろう。全英オープンを開催するようなスコットランド、アイルランド、イングランドのリンクスコースではおなじみのフェスキュー芝が使われているが、115回目となる全米オープンでは今回が初めて。2010年に同コースで全米アマチュア選手権が行われたときに出場した、今年のマスターズ覇者ジョーダン・スピース(米国)は、「まるで、全英オープンのよう」と米メディアに話していたが、練習ラウンドをした多くの選手が同じような感想を口にするのは、そうした芝がもたらすコース設定もその一因だろう。

いずれにしてもあれだけ短く刈ってあれば、コースにはしばらく雨が降っておらず、大会前に降る予定もなさそうだから、相当なランが出るのではないか。ただ、その逆もしかり。例えば川村は、パー4の7番ホールを警戒していた。「右ドックの打ち上げですが、2打目がショートしたら、70ヤードぐらい下に落ちるんじゃないですか」。グリーン手前100ヤードぐらいまでは緩やかな上りだが、そこから、グリーンの表面が全く見えないほどの打ち上げになる。見えるのはおそらく、フラッグだけ。奥はラフなので、大きめには打ちたくない。かといって手前に打ってグリーンをショートすれば、川村が言うように70ヤードは落ちる。「ダブル(ボギー)、トリプル(ボギー)もあるかもしれませんね」

01年まで砂利の採掘場だった

しかしながら、斜面のラフに関しては、短かった。例えば1番は右側に、10番は両サイドに斜面があるが、山肌が見えるほど。昨秋に回ったときは、膝までラフが伸び、ボールが入ったら、もう見つからないと諦めるしかなかったのとは対照的。しばらく雨も降らず、気温も上がるので、ラフは伸びることはなく、あのままだろう。

相変わらず崖の上にあるレストランからの長めは壮観だったが、2001年までここは、砂と砂利の採掘場だった。全米オープンといえば、100年の歴史を持つコースで開催されることも珍しくないが、歴史の浅いチェンバーズベイで大会が行われることは、異例中の異例といえる。開場は07年6月23日。それから8年しかたっていないことにも驚くが、全米オープンのコースに選ばれたのは、開業からわずか8カ月後の08年2月のことだった。

始まりは01年、ピアース郡の長官となったジョン・ラデンバーグ氏が、チェンバーズベイがあるユニバーシティープレース市の市政担当官から受けた電話だった。ピュージェット湾に面した広大な土地が、採掘業者がいなくなって、そのまま放置されている。このとき、50年計画で公園などを建設する予定と聞かされたが、ラデンバーグ長官は、現場を視察した後、50年ではなく8年でその場所を利用できるように指示。さらに、ゴルフコースを造ることを思いつき、それも平凡なパブリックコースではなく、どうせなら全米オープンを目指せるような、と壮大な夢を描いた。ラデンバーグ長官は、02年にニューヨークのベスページ州立公園ブラックコースが、全米オープンを開催した最初のパブリックコースになったときの経緯を書いた本に刺激を受け、それに倣えないか、と模索していた。

夢は30年までに全米オープン開催

ラデンバーグ長官の構想に多くの会社が入札したが、最終的に採用されたのは、著名なゴルフデザイナー、ロバート・トレント・ジョーンズJr.氏の案。ジョーンズ氏には「2030年に全米オープンを開きたい」というラデンバーグ長官と共通した夢があった。ジョーンズ氏自身、多くのコースを設計し、そこで様々な大会が開かれてきたが、全米オープンが行われたことはなく、悲願でもあったのだ。

夢に向けて着々と進むなか、全米ゴルフ協会の西海岸を担当するロン・リード氏が、チェンバーズベイの立地条件に魅了されると、全米オープンのコース選定において影響力を持つ、マイク・デイビス氏に報告。デイビス氏がチェンバーズベイを視察すると、やはりポテンシャルの高さを見抜いた。決め手は、採掘場だったという履歴、砂が豊富にあったことだという。デイビス氏は、「砂の上に造るコースは、フエアウエーが硬く、速い」と話し、その土地が持つ特色に入れ込んだ。

ある日突如ポットバンカー登場

ラデンバーグ長官は、「全米オープンを開催するのに必要なことはすべてする」と約束。オープン後も度々、手が加えられているのはそのためだ。あるとき18番ホールの2打目のランディングエリアに、突如深さ3メートルのポットバンカーが登場。ティーボックスにも傾斜をつけ、グリーンの大きさも毎年のように変えていった。

さて、そもそも最初から全米オープンの招致を意識して造られたコースだが、ここまで早く、その機会が訪れるとは誰も考えていなかった。デザイナーのジョーンズ氏も2030年を考えていたのだ。しかし、15年の開催コースとして有力だったニューヨーク州のウイングフットGCが、06年に開催したばかりであることを理由に、選考委員から懸念が出た。このときデイビス氏は、ラデンバーグ長官に、「すぐに正式な申請書を提出するように」とアドバイスを送る。08年2月、ウイングフットGCともう一つの有力候補だったニューヨーク州シネコックヒルズGCも立候補を取り下げると、チェンバーズベイが大抜擢(ばってき)されたのである。それまで、ラデンバーグ長官は多くの批判にさらされていた。全米オープンのコースになど選ばれるわけなどない、約26億円の税金を無駄遣いした、と。しかし、全米オープンはやってきた。

一般人も2万円程度で回れる

開催が決まるや否や、ゴルファーが集まり始め、今回の全米オープンでは、ホテル、レストランなど、選手、観客、メディアなどが落とすお金の総額は、少なく見積もって200億円程度という。26億円の投資は、8倍近くになって返ってくる見込みだ。しかも、全米オープンを開催すれば、終わってからもゴルファーが途切れることなく訪れると予想される。時期にもよるが、予約さえとれれば2万円程度で回れる全米オープンのコースなど無いに等しいのだ。ゴルフ場を中心と地域活性化をもくろんだラデンバーグ長官の執念が、実ろうとしている。

18番の深いポットバンカーは、はしごのような階段で上り下りする。2010年の全米アマチュア選手権終了後、もうひとひねりを求め、あそこにバンカーを造ることを思いついたデイビス氏は大会前の会見で、「プロが打ち込むとは思わない。でも、あれを避けるために、いろいろなことを考えるだろう。そこに戦術が生まれ、どう攻めるのか、ファンは興味を持つのではないか」とその狙いを口にした。

川村は、13日の練習ラウンドでは、「2オンを狙ったので、グローン手前のバンカーに入れました」と話したが、本番が始まったらどう攻めるかと聞くと、答えはちょっと違った。「うーん、まだ決めてないですが、多分、バンカーの右に落とすと思います。左側だと傾斜があって、そのままバンカーに落ちてしまうかもしれないから」。もう少し練習ラウンドを重ねながら、攻め方を詰めていくようだ。デイビス氏のもくろみ通り、いろいろ考えている。

海沿いの上がり4ホールは絶景

ちなみに初日の練習を終えた段階で一番印象に残ったホールを聞けば、川村は15番のショートホールを挙げた。「打ち下ろしのパー3ですが、雰囲気があるというか、グリーンの奥に木があって、さらに奥には海がある。その間には線路もあるんですが、海沿いにある上がり4ホールは、全部気持ちよかった」

個人的に注目したいのは、12番(パー4)。両サイドに斜面があるが、普段は260ヤード程度。打ち上げだが、しっかり打てばグリーンエッジまでは届く。問題はそこから。細長い巨大グリーンが待ち構え、手前に向かってきつい傾斜がある。それは、ボールが止まった瞬間にマークしなければ、ちょっとした風で動き出すほど。川村も、「あそこは、ワンオンを狙える」と話したが、「グリーンが……」と電話の向こうで苦笑した。

もう一つは17番である。ここもパー3だが、右のバンカーの奥にカップが切られた場合、ピンをデッドに狙っても、まず、止まらない。左ならバーディーを狙えるが……。

4500人のボランティアは2日で集まる

さて、地元住民が待ち焦がれて来た全米オープンがいよいよ始まる。コースの入り口にいたボランティアによれば、今回は4500人がボランティアとして参加するそう。165ドルの登録料(2枚のゴルフシャツ、ジャケット、帽子のボランティアウエア込み)を払うが、通常は枠が埋まるのに2~3カ月はかかるが、今回はわずか2日間で定員に達したという。個人的には何度もプレーしたなじみのコースをプロはどう攻めるのか、興味深く見ている。

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