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竜頭蛇尾のサッカー日本 終盤もペースアップ必要

サッカージャーナリスト 大住良之

ワールドカップ2018ロシア大会のアジア2次予選初戦のシンガポール戦(埼玉スタジアム、午後7時30分キックオフ)を5日後に控えた11日、サッカー日本代表は横浜でイラクと親善試合を行い、4-0で勝った。

前半20分までは圧巻だった。

日本はボールを奪うと前へ前へと出し、そこに2人、3人と絡んでイラクの守備ラインを突破、シュートの雨を降らせたのだ。そして5分にMF柴崎岳のパスで抜け出したFW本田圭佑が先制点、9分にはMF香川真司の左CKからDF槙野智章が決めて早々と2点を奪った。

この間、イラクは日本のスピードにまったくついていくことができず、ただピンボールのように速いテンポでつながるパスに首を振るだけで妨害もできなかった。イラクとの対戦では、これまで多くの試合で苦労をさせられてきた。それがうそのような展開だった。

20分間で終わったハイテンポな展開

だがそのハイテンポな試合は、20分間で終わった。その後の70分間は、DFから大きく前に蹴る攻撃に終始し、20分までのリズムはまったく出なかった。バヒド・ハリルホジッチ監督は65分すぎから攻撃ラインの選手をほぼ「全取り換え」し、リズムの回復を狙ったが、交代で出た選手たちは自分がアピールしようとするだけでチームとしてのスピードは出ずじまいだった。

こうした時間帯のなかで唯一光ったのが、32分の3点目のときに見せたFW宇佐美貴史のきらめくような才能だった。

相手のゴールライン近くからのFKを中盤左でMF長谷部誠がはね返したところから始まった攻撃は、長谷部―柴崎―本田―香川―柴崎とワンタッチで細かくパスが回り、左から入ってきた宇佐美に柴崎からパスが出る。

相手2人に囲まれながら見事なコントロールを見せた宇佐美が一気にスピードを上げる。ファウルぎみの当たりをされるが倒れない。そして前進することで4人ものイラク選手を引きつけると、ドリブルのステップのままで左に流れたFW岡崎慎司にパス。岡崎はボールに触れずに少し左に流し、GKを動かしておいてその動きの逆をつくようにゴール右隅にシュート。GKは手に当てたが、シュートを防ぎきることはできなかった。

「違い」見せた宇佐美、大きな収穫

スペースに進んでいく宇佐美のドリブル、そしてそのドリブルからのパスの流れは、天才そのものだった。チームとしてのスピードに乗った突破ではなかった。しかし、これまでは本田と香川の専売特許だった「違い」を見せるプレーの源が日本代表にもう一つ増えたのは、この試合の大きな収穫だった。

話をチームに戻そう。

試合後、ハリルホジッチ監督は「非常にいい試合ができて、満足している」と語ったが、ハイテンポのサッカーが20分間しか続かなかったことを指摘されると、「90分間あのテンポでプレーするのは難しい。(欧州組は)シーズンが終了したばかりで疲労もある。このリズムを保つにはもう数カ月間必要だ」と、「竜頭蛇尾」の試合であったことを認めた。

記録の上からも明らかだ。この試合、日本は20本のシュートを放った。イラクに許したのはわずか3本で、枠内に打たれたものは1本もなかった。

しかしその20本のうち9本は、18分までに記録されているのだ。すなわち、試合の残り72分間(プラス前後半の追加タイム計3分、合計75分間)のシュート数は11本で、ボール保持の時間はイラクとほぼ五分五分だった。

私は20分までの試合を90分間続けなければだめだ、と言っているのではない。しかしハリルホジッチ監督が宣言したようにすべての試合で勝とうというなら、90分のうち最初の20分間しか高いレベルのプレーができないのであれば、大きな問題がある。

前後半ともアップ―ダウン―アップ

クラブでも代表でも、世界のトップクラスのチームには、共通した試合の「ペース配分のようなもの」がある。ランニングにたとえれば、スタートは全力ダッシュし、20分前後で一度ペースを落とすが、30分ごろからまたペースを上げてそのまま前半終了。後半もこのリズムを繰り返す。

私はこの現象を意図的な「ペース配分」というより、「90分間で自分のエネルギーを最大限使い切るための行動習慣」のようなものではないかと考えているのだが、とにかく現象としては「アップ―ダウン―アップ」を前後半で繰り返す形となる。

そして本当に強いチームは、「ダウン」になるときにも相手にペースを握らせないようプレーをコントロールする。たとえばかつてのバルセロナは、「ダウン」の時間帯になると圧倒的な個人技をもつロナウジーニョにボールを預ける回数が極端に増え、ロナウジーニョもよく理解したもので、この時間帯には個人技を披露しまくってボールを奪われまいとした。

日本代表が「ダウン」のときにも試合をコントロールできるようになるには、ハリルホジッチ監督の言うように時間が必要だろう。当面は、そうした時間帯であることを全員が理解し、守備でスキをつくらないよう集中し、忍耐強くプレーすることが必要だ。

「アップダウン」意識、全員で共有を

しかし少なくとも、試合開始時のペースを前半の終盤に、そして後半の立ち上がりと終盤にも出すよう、チームとして意識する必要がある。この試合の20分以降、そして宇佐美の個人技で美しい3点目が生まれた後にも出せなかった(こうしたプレーがテンポを上げるきっかけになるはずなのだが……)のは、ハリルホジッチ監督がやろうとしている攻撃、すなわち何人もの選手が連動し、ワンタッチやツータッチでパスをつなぎながらスピードを上げるというサッカーから一度離れたら、立ち戻ることができないということを示している。それは問題だ。

ワールドカップのアジア2次予選は、日本がイラクと戦った11日にすでに火蓋を切り、日本が属するE組ではシンガポールがアウェーでカンボジアを4-0で下し、シリアもアウェー(といっても第三国イランの北東部マシュハドでの試合だったが)でアフガニスタンを6-0で一蹴した。

イラク戦の20分までの日本は、文句なしのアジアチャンピオンだった。だがその後の70分間は、2次予選でもひやひやさせるのではないかと思えるチームだった。

試合のなかで息づく「アップダウン」をチーム全員が理解し、共有し、アップの時間帯を取り戻し、さらに長くするとともに、ダウンの時間帯でいかに試合をコントロールするか。意識を高めていかなければならない。

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