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大荒れ、定額音楽配信 アップル迎え撃つ国内勢

アップルは定額聴き放題サービス「アップルミュージック」を発表。多数の有名ミュージシャンを招待し、音楽業界との近さをアピールした(米サンフランシスコ市)

定額制の音楽配信サービスが脚光を浴びている。米アップルは8日(日本時間の9日未明)、新サービス「アップルミュージック」を30日から始めると発表した。月9.99ドル(約1200円)で3000万曲が聴き放題になる。サイバーエージェントもエイベックス・グループ・ホールディングスとの提携で参入。無料対話アプリのLINEも11日にサービスを始めた。目立つのはゲームや漫画などの伝統的な業界秩序を破壊してきたIT(情報技術)企業の姿。インターネットの力で音楽業界のパンドラの箱をこじあける。

聴きたい曲をストリーミング再生

定額制サービスの特長はストリーミングだ。1曲ずつ購入してスマートフォン(スマホ)などのデバイスに保存するダウンロード型と違い、聴きたい音楽をサーバーから読み込んで逐次再生する仕組み。CDなどの所有権ではなく、クラウド上の楽曲データに接続するためのアクセス権に対価を支払う考え方だ。

「定額制で音楽の聴き方は大きく変わる」。サイバーエージェントの藤田晋社長は言い切る。エイベックスとの折半出資で設立した新会社が5月27日に定額制サービス「AWA(アワ)」を立ち上げた。月額360円と1080円の2プランを用意。操作感やデザインが好評を博し、今月10日時点でダウンロードが100万件を突破した。

好みの楽曲を選んで編成したプレイリストを作って公開できるのが特徴。プレイリストを名刺代わりに、自分と似た嗜好を持つユーザーと出会ったり、別のユーザーからお薦め曲を教えてもらったりする。「音楽を楽しむのに知り合いである必要はない」(藤田社長)と、無料対話アプリと連動したサービスを志向するLINEをけん制する。

エイベックスの松浦勝人社長も自ら楽曲調達に奔走する力の入れようだ。配信に慎重な姿勢を見せるレコード会社の担当者たちも「松浦さんに言われたらかなわない」と腰砕け。藤田社長は「松浦社長の存在が競合サービスとの差別化要素」と笑う。エイベックスとの折衝にあたった大手レコード会社の幹部は「当初は新譜の提供も要求してきたが、途中から旧譜だけでもいいと条件を変えてきた」と打ち明ける。松浦社長は「楽曲が集まらないためにサービスが始まらないのは本末転倒」と話し、品ぞろえの拡充を優先したという。

 松浦社長を突き動かすのは、縮みゆく日本の音楽市場への危機感だ。日本レコード協会によると、CDなどの音楽ソフト市場は2014年に2541億円と、ピーク(1998年)の半分以下に減った。「このままいけば、1000億円規模まで減少する」と松浦社長は警鐘を鳴らす。一方、成長を期待したい有料配信もダウンロード配信の不振で減少傾向にある。

外資系サービスの影もちらついた。海外の定額制サービスをけん引する英スポティファイが国内のレコード各社と交渉入りし、日本上陸が現実味を帯びてきた。シングルCD1枚分に相当する9.99ドルで3000万曲以上が聴き放題になるスポティファイは、広告や音質を気にしなければ無料で使い続けられる「フリーミアム」モデルだ。「音楽はタダではない」と考える松浦社長。日本の音楽事情に寄り添ったサービスの立ち上げで業界標準作りを急ぐなか、かねて釣り仲間だった藤田社長に船上で相談を持ちかけたのが事の発端になった。

定額制サービスで音楽市場全体を押し上げる

気になるのは、定額制サービスが音楽市場の救世主になりえるのかどうか。この点について、松浦社長と藤田社長の意見は微妙に食い違う。「既存のCD販売に大きな影響はない」と断言するのは松浦社長。今でもCDを買うのは一部の愛好家であるため、定額制が普及してもCD購入は続くと予想する。一方、藤田社長は「CD販売に影響があるのは間違いないだろう」という。定額制サービスがCD市場の衰退に拍車をかけるとの見方だ。

ただ、CD市場という各論を巡って錯綜(さくそう)する2人の思惑は、定額制サービスがCD販売の減少分を吸収し、音楽市場全体を押し上げるとの総論で一致する。「いま、音楽を聴く習慣がない人々の方が圧倒的に多い。試算したところ、定額制が普及すれば音楽市場は2000年代の姿を取り戻せるとわかった」と松浦社長は自信を見せる。

アワという共同事業の真価が問われるのはこれからだ。今月はアップルミュージックや「LINEミュージック」が次々にサービスを開始する。先行するUSENの「スマホでUSEN」やNTTドコモの「dヒッツ」も侮れない。強敵ぞろいの激戦地でアワが王者に君臨できるという保証はどこにもない。

「エイベックスが得意なダンスミュージックに特化するなど、自分にはいくつかのシナリオがある」と藤田社長。年内にも競合サービスとの優劣が鮮明になるため、アワが進むべき方向性を決めるという。生き馬の目を抜くIT業界で生き残ってきたしたたかさが垣間見える。異業種のカリスマが乗り合わせた船。「レッドオーシャン」を渡る宝船か、呉越同舟か。

主な定額配信サービス
サービス名AWA(アワ)スマホでUSENdヒッツLINEミュージックアップルミュージックスポティファイ
運営サイバーエージェントとエイベックス・グループ・ホールディングスUSENNTTドコモとレコチョクLINEやソニー・ミュージックエンタテインメントなど米アップル英スポティファイ
月額利用料360円または1080円529円540円500円程度無料利用も可。有料版は約1200円。家族向けは約1800円無料利用も可。有料版は米国で9.99ドル
日本でのサービス開始時期2015年5月2013年12月2012年7月2015年6月2015年6月未定
配信曲数2015年末までに約500万曲150万曲以上約200万曲不明3000万曲以上3000万曲以上
オフライン再生××不明有料版のみ有料版のみ
オンデマンドサービス1080円プランのみ×不明

(企業報道部 新田祐司)

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