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強敵・留学組がやってくる 「後ろ倒し」で就活参戦

 初めての就職活動は分からないことだらけ。直接企業に質問しづらいことも多いし、口コミ情報がどこまで信用できるかも不安だ。そんな悩みを解決する「就活探偵団」。就活生の疑問に答えるべく、あなたに代わって日経記者が企業に突撃取材します。
海外大生は経団連の「規制」の対象外に?

 5月から、海外留学を終えた学生たちの帰国ラッシュが始まった。例年なら春採用ももう終わり。帰国した学生たちは就活に大きく乗り遅れていた。しかし、就活スケジュールが後ろ倒しになった今年は、話は別だ。留学帰国生にチャンス到来、国内大生に強敵現る――。いま、就活戦線に異変が起きている。

去年まではとにかく不利だった

「留学帰国生にチャンスは増えたと思います」。法政大学キャリアセンター主任の栗山豊太さんはこう話す。

欧米や中国の大学の卒業式は大半が5~6月。昨年までは企業の採用は春がメーンだったため、帰国生はエントリーできる企業が限られていた。「昨年まではあきらかに不利で、帰国生たちがかわいそうでした。大手優良企業は、春で採用枠の9割を埋めて、残り1割を秋でとるくらいでした」(栗山さん)

昨年留学から帰国した川野守さん(23、仮名)は、そのために留年せざるを得なかった。「帰国したときに残っていたのは夏採用か秋採用だけ。急いで夏採用をやっている企業をうけるよりは、時間をかけて準備をして、自分の行きたい企業が採用をやる時期に就活をしたかった」と言う。

アメリカの大学に在籍していた神村珠代さん(26)は、昨年大学の授業を休んで就活のためにわざわざ日本に戻った。神村さんは「秋は採用人数が極端に少なくて、形式的なものだと聞いていたので、仕方なく授業を休んで一時帰国して面接に挑みました」と話す。

だが、状況は変わった。今年は就活後ろ倒しによって、昨年だったら春採用に間に合わなかった留学帰国生たちが、国内大生に混じって就活戦線に乗り込むことになる。

「外来種」の強敵参入

「今帰ってきてもまだエントリーできる企業はあるし、就活チャンスが圧倒的に増えたと思う」。こう話すのは5月に米メリーランド州の大学を卒業したばかりの輪島佑紀さん(24)。「就活後ろ倒しをメリットとして感じているか」という質問に、「そう思う」と即答した。

企業側も、留学帰国生には期待する。日立製作所人事部の大竹由希子さんは、「海外大生の採用は増やしたいです。グローバルなビジネス展開において、多様な人材の確保に力を入れたいというのは社長の強い思いです」と話す。

味の素人事部の宮川隆史さんも、「海外では勉強がとても大変なのに、他の事にもチャレンジしたり、エネルギー量がすごい学生は魅力的です」と留学帰国生の採用に積極的だ。

「合宿免許」の猛者も

ディスコの夏井丈俊社長は、「海外で味わうマイノリティー感が大事」と指摘する

海外経験のある学生の就活サポートに力を入れるディスコの夏井丈俊社長は、企業に留学帰国生の採用を促す。「今、日本企業に必要なのは、"break through(道を切り開くことが)"できる人。既存のビジネスモデルではなく、新しい価値観を生み出すことで企業がサバイバルに勝つことができる」と語る。留学帰国生の需要はじわじわと高まりつつあるようだ。

実際、海外留学組はこれまで情報が少なかったこともあり、貪欲でアグレッシブだ。国内就活生にとっては想定しなかった「外来種」の参入になる。

都内私立大学に通う小野武史さん(22、仮名)は、幼少期からアメリカやヨーロッパを回り12年間を海外で過ごした帰国子女。大学3年夏から1年間、独ベルリンに留学し、外国語の面接もなんなくこなせる。小野さんが就活の最速手段として利用したのが「ボストン・キャリア・フォーラム」だ。海外経験のある学生を求めて、約200社もの企業が参加する就職イベントである。毎年11月に米ボストンで開催される。

「飛行機代と滞在費で数十万円かかりましたが、国内で長々と就活するよりは、コスト・パフォーマンスは良かったですよ」(小野さん)。英語力と海外経験を生かし、まるで「合宿免許」のように内定をかっさらってくる要領の良さは、国内の就活生にはなかなかまねできないだろう。

海外大生採用は「抜け道」

留学帰国生の就活状況を調査するうちに、興味深い情報を入手した。大手企業の採用担当から聞いた話だ。

「経団連の倫理憲章で、選考は8月以降になりましたが、海外大生は対象外になるようです」

倫理憲章対象外とはどういうことか。経団連の「採用選考に関する指針」を見てみると、「選考開始時期に関する規定は、日本国内の大学・大学院等に在籍する学生を対象とするものとする」と書いてある。ということは、海外の大学に通う学生には就活後ろ倒しに関係なく、チャンスがあればいつでも選考、内定をうけられることになる。つまり、企業の海外大生への内定早出しは事実上、経団連の倫理憲章にひっかからない。

実は、小野さんが参加した「ボスキャリ」と同様のイベントが6月27.28日に東京で開催される。留学生が夏休みに帰国する時期を狙って企業が開催する「東京サマー・キャリア・フォーラム」だ。こうしたイベントは、8月の面接解禁を待つ企業にとって、海外大生のみ採用を狙える「抜け道」にもなりうる。これまでは、就活戦線に出遅れた留学帰国生の受け皿でしかなかった就活イベントが、今年からは内定早出しの道として、立場が逆転するのだ。

短期留学組からは悲鳴も

ボストン・キャリアフォーラムの開始と同時に、学生たちは目当ての企業へ一気に走り出す

海外留学生にとって就活のチャンスの場は確実に増えそうだ。だが細かく見ていくと、同じ留学生といっても温度差がある。

都内国立大学に通う山本麻由さん(23、仮名)は昨年ドイツでの留学を終えて今年から就活に励んでいる。だが就活後ろ倒しについては、「メリットでは絶対にないです」と断言する。「逆に学業とかぶって大変になりました。単位をとらなきゃ卒業できないし、卒論も書かなきゃいけない。でも説明会と授業が重なったら、授業には参加できないです」(山本さん)

ひとえに留学生といっても様々なタイプがいる。海外の大学に在籍する正規留学生や、国内大学から1年ほどの留学をして戻ってくる学生、そして休みなどを使って数週間や数カ月のみの短期留学するケースもある。

5月に卒業したり、夏休みに入る海外大生と違い、国内大学から1年程度の留学をした学生からは、就活後ろ倒しに対して不満の声が多い。就活と日本に戻ってからの学期が重なり両立が難しくなるからだ。

いずれにせよ、これまでライバルとは感じていなかった大量の留学帰国組が、同じ土俵に参入してくることには変わりない。国内就活組はどう対抗したらいいいのだろうか。ポイントは、企業が求めているのが単純な留学の実績ではなく、留学で得られる「ずぶとい心」にあることだ。

ディスコの夏井社長は「海外生活の中で大事な経験は、『マイノリティー感』を味わうこと。そのショックを乗り越えることでタフさとサバイバル力が身につく」と語る。日立の大竹さんは「ビジネス上の交渉力はTOEICの点数では表せない。チャレンジ精神とバイタリティーです」と話す。

バブル期以来、長い氷河期の後に訪れた売り手市場で、就活も採用も画一化が進んでいる。企業が海外留学生に投影しているのは、そういった枠に閉じこもらない独創的な若者たちのようだ。週末だけでもいいから、リクルートスーツを脱いで、街に飛び出してみては。

(中山美里)

 次回は6月18日(木)に掲載予定です。
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読者からのコメント
20歳代女性
私は、海外に正規留学して日本で就職した組ですが、後ろ倒し以前の就活においても、応募した企業で書類選考はほぼ通っていて、確かに留学経験者は比較的有利だったと感じます。 ただ、選考を進んでいく中で、どうしても面接がうまくいかない人などは周りの留学経験者にもいましたし、企業が求めている人物像や働き方と、留学帰国生が求めている働き方・経験の活かし方にミスマッチがあり、最終的に縁がある企業はそれほど多くないのではないかなと思います。 また、「独創的な」留学経験者を採用したとしても、その独創性を社内で受け入れる・理解する土壌がなく、うまく活用できていないという企業も、まだまだ日本には多いのではないでしょうか。

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