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「試験管内の太陽」 似非科学のレッテル外れ再び熱気

日経BPクリーンテック研究所

2015年5月14日、東京都目黒区の東京工業大学蔵前会館で、「凝集系核科学の現状と将来」と題したセミナーが開かれた。100人近い参加者のうち、約3割が企業に所属する研究者が占めた。「今日の発表が本当なら、これまでの物理学を覆す革命的な現象だ。なぜ、これまで世間で騒がれなかったのか」。初めて研究成果を知った参加者からは、こんな驚きの声が上がった。

「凝集系核科学」とは、金属内のように原子や電子が多数、集積した状態で、元素が変換する現象を研究する分野。1989年3月に米ユタ大学で、二人の研究者が「常温核融合(コールド・フュージョン)」として発表したことに端を発する。

この時の発表では、パラジウムの電極を重水素の溶液中で電解したところ、化学反応では説明できない大量の熱(過剰熱)が発生したという実験結果を報告し、世界中にセンセーションを巻き起こした。

軽い元素が融合して重い核種に変わる「核融合」は、その際に膨大なエネルギーを放出する。太陽の輝きの源泉だ。それを発電システムに活用する「核融合炉」の実用化を目指し、フランスや日本などは、国際協力の下で「ITER(国際熱核融合実験炉)」の建設を進めている。核融合炉を実現するには、1億℃以上のプラズマ状態の反応場が必要になる。研究の主力は、巨大なコイルによって磁場で閉じ込めておく手法だが、当初の目標に比べ実用化は大幅に遅れている。

「試験管の中の太陽」

常温核融合では、こうした大がかりな施設が不要で、基本的には水の電気分解と同じような簡単な装置で核融合が実現できるとされ、「試験管の中の太陽」とも呼ばれた。

だが、ユタ大学での報告を受け、各国で一斉に追試が行われた結果、米欧の主要研究機関が1989年末までに否定的な見解を発表、日本でも経済産業省が立ち上げた検証プロジェクトの報告書で、1993年に「過剰熱を実証できない」との見解を示した。何よりも、実験の多くで、ほとんど中性子や放射線を出さないことも含め、現在の物理学で説明できないことが、懐疑的な見方の根底にある。

こうしたなか、常温核融合は似非科学とのレッテルを張られ、ほとんどの研究が打ち切られた。しかし、一部の研究者たちはその可能性を信じ、「固体内核反応」「低エネルギー核反応」、そして「凝集系核反応」などの名称で地道な研究を国内外で続けてきた。その結果、徐々にこの現象の再現性が高まり、2010年頃から、米国やイタリア、イスラエルなどに、エネルギー利用を目的としたベンチャー企業が次々と生まれている。

研究を牽引してきた2グループが融合

この分野の研究者が成果を発表する「凝集系核科学国際会議(ICCF)」が、1~2年に1回開かれている。2012年に開かれた第17回会議の頃から企業に所属する研究者の参加が増え始めた。2013年7月に米ミズーリ大学での第18回会議では、4割以上が凝集系核反応を利用した「熱出力装置」の開発を進める企業などからの参加者だったという。

2015年5月14日に開催された冒頭のセミナーは、こうした世界の流れに触発されたクリーンプラネット(東京都港区)の吉野英樹社長などが主催したものだ。「世界では、凝集系核科学の成果をビジネスにつなげる動きが活発化している。この分野では日本の研究者が世界的な業績を上げてきたのに、このままでは事業化で海外に遅れてしまう」と吉野社長は危機感を持つ。同社は、吉野社長が企業経営で得た資金を元手にクリーンエネルギー分野の大学研究室やベンチャー企業を支援している。

実は、ほぼ同様のセミナーが仙台市にある東北大学電子光理学研究センターで、5月13日に開催された。こちらは「凝集系核反応共同研究部門の設置記念シンポジウム」と銘打って開かれた。同研究部門は、クリーンプラネットが資金を支援し、東北大学が施設や人材を提供する形で2015年4月に発足した。凝集系核科学を掲げた研究部門は国内で初めて。「この分野の研究を牽引してきた国内の2つの研究グループを融合させた」と吉野社長は言う。

2つのグループとは、三菱重工業で凝集系核反応を研究してきたチームと、元北海道大学の研究者だった水野忠彦氏が設立した水素技術応用開発(札幌市)のことだ。クリーンプラネットは、水素技術応用開発に出資してグループ企業とした。一方、三菱重工では、「新元素変換」という呼び名で、放射性廃棄物を核種変換することで、無害化する装置の実用化を目指している。東北大学の凝集系核反応共同研究部門には、三菱重工で新元素変換を主導してきた岩村康弘氏が特任教授として移籍した(図1)。

図1 東北大学・電子光理学研究センターに設置した凝集系核反応共同研究部門の実験室。岩村康弘特任教授(左)と伊藤岳彦客員准教授(右)。両研究者とも三菱重工業から移籍した(出所:日経BP)

凝集系核反応の応用研究には、発生する熱をエネルギーとして活用する方向性と、核種変換によって放射性廃棄物の無害化や希少元素の生成を目的とする2つの流れがある。水野氏は熱発生の分野で多くの成果を上げた一方、三菱重工は岩村氏を中心にセシウムの他元素への変換など、選択的な元素変換で世界的に注目されてきた。

また東北大学では、笠木治郎太名誉教授を中心に、低エネルギービームによる凝集系核反応率の研究で成果を挙げてきた。新設した凝集系核反応共同研究部門では、笠木名誉教授と岩村特任教授を中心に、クリーンプラネットと共同研究する。大学では、凝集系核反応のメカニズム解明を目指した基礎研究、クリーンプラネットが熱発生への応用、三菱重工が放射性廃棄物の無害化を想定した応用研究を担当する。メカニズムの解明による成果を応用研究に生かしつつ、実用化を加速させるのが狙いだ。

低コスト化の可能性が浮上

大学に専門の研究部門を設置する動きは、米国でも始まっている。2012年にミズーリ大学が、凝集系核反応ベンチャーの研究者が移籍して研究センターを設置したのに続き、2015年にはテキサス工科大学がイタリアの研究機関などと連携した研究センターを設置する。いずれも過剰熱の発生起源を探求して、その成果を工学に生かすのが目的だ。

1989年のユタ大学での発表以来、長らく色眼鏡で見られてきた「常温核融合」が、ここにきて凝集系核科学として産学で復権しつつあるのは、地道な研究によって熱発生や核種変換の再現性が飛躍的に向上するとともに、実用化を念頭にした低コストの可能性も出てきたからだ。

凝集系核反応では、一般的にパラジウムと重水素が使われている。反応場としては、重水素の溶液中にパラジウム電極を浸して電解する方式と、パラジウムを担持した膜などに重水素ガスを透過させる方法の2タイプがある。

2010年頃から、ベンチャー企業がニッケルと軽水素を使った電解法で、メガワットクラスの過剰熱を発生させたという成果がインターネット上で話題となるなど、より低コストの反応系での成果が出てきた。ベンチャー企業の実験結果は、正式な論文にならないため、真偽は明らかでないが、商用化を見据えた研究が進んでいるのは確かだ。水野氏の研究でも、ニッケルを主体にするなど、パラジウムの使用量を減らせる可能性を見出している。

三菱重工の新元素変換では、パラジウムと酸化カルシウムを交互に積層した多層膜に、変換したい金属を付け、重水素を透過するという方法で、元素番号が2か4か6多い元素に変わる。例えば、セシウムはプラセオジウムに、ストロンチウムはモリブデンに、カルシウムはチタンに、タングステンは白金かオスミウムに変わる。この実験は、複数の大学や研究機関で追試に成功している。「定性的な再現性は100%、実用化を念頭にいかに変換率を高めるか、という段階に入っている」と岩村氏は言う。

巨大資本も注目

すでに三菱重工では、重水素の濃度や圧力を高めることで、1cm2(平方センチメートル)当たりの新元素の収量がナノグラムからマイクログラムへと、2~3ケタ増やすことに成功したという(図2)。こうした成果もあって、内閣府による革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の「核変換による高レベル放射性廃棄物の大幅な低減・資源化」に東北大学との共同研究の形で採択された。

図2 三菱重工の実験結果。バッチ式から溶液循環型装置に変えたことで、セシウムからプラセオジウムへの変換率は2~3ケタ向上した(出所:東北大学・岩村康弘特任教授)

三菱重工では、新元素変換の研究を一時、縮小したこともあったが、東日本大震災後の原子力発電所の事故で広範囲に放射性物質による汚染が広がる中、研究体制を強化している。

5月13日と14日に開かれた凝集系核科学のセミナーでは、両日で約150人が訪れ、多くの企業関係者も参加した。そのなかには、大手自動車メーカーや機械メーカーも含まれていた。海外でも、ドイツ・シーメンスやフランス・エアバスなど、巨大資本による凝縮核反応ベンチャー買収のうわさが絶えないという。「試験管の中の太陽」が実現すれば、CO2(二酸化炭素)を排出しない分散電源やモビリティーへの応用が現実味を帯びる。

笠木名誉教授は、「凝集系核科学の研究では、本来、核融合を阻止するクーロン反発力(同じ電荷の粒子同士が反発する力)をどう乗り越えるのか、粒子・放射線を放出しない核反応は可能か、という重要な問いかけに回答しなければならない」と話す。こうしたメカニズムの追求を通じ、「新しい物理」が見出され、それが産業構造を変革する可能性も秘める。

(日経BPクリーンテック研究所 金子憲治)

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