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知られざるAOL、買収決断したベライゾンの思惑

米通信大手ベライゾン・コミュニケーションズがネット大手AOLを44億ドル(約5450億円)で買収した。AOLといえば、1980~90年代に「パソコン通信業者として使っていた」として、その名前に懐かしさを覚える読者は多いはず。だが、今、どのような事業を手掛けているのかはあまり知られていない。現在の姿は、電子メールやインスタント・メッセージ(IM)の代名詞的存在だった当時の姿とは大きく異なる。米国最大の携帯事業を傘下に抱える「米通信の勝ち組=ベライゾン」が欲しがったAOLとはどんな企業なのか。その最新の姿を追った。

ネット広告で稼ぐAOL

現在でもダイヤルアップ接続などの形でAOLを有料で利用している会員が、3月末時点で全米に215万人存在する。だが、こうした有料会員から徴収するメンバーシップ収入はAOLの総売上高の2割超にすぎず、縮小傾向が続いている。代わりに、残りの約8割の収入を支えているのがネット広告の分野だ。

ベライゾンがAOLに注目したのも、このネット広告の分野で独特の存在感を見せ始めているからだ。これまでベライゾンの主な収入源は、携帯電話とインターネットのブロードバンド(大容量)接続の利用者から得る通信料収入だったが、AOLを傘下に収めることで収入源を多様化できる。これからは、人々がネットを使えば使うほどデータ通信料収入が増えるだけでなく、ネット広告収入も増えるというワケだ。

AOLがネット広告収入を稼ぐ方法は2つある。1つ目は、自社が抱えるサイトや独自製作のネット動画の広告スペースを販売して、企業から広告収入を得る方法だ。AOLは、2011年に買収した米ニュースサイト「ハフィントンポスト」を筆頭に、IT(情報技術)業界情報の「テッククランチ」やハイテク機器情報の「エンガジェット」、映画情報の「ムービーフォン」などの人気サイトを傘下に抱える。また最近は、ハリウッドの有名俳優スティーブ・ブシェミ氏やジェームズ・フランコ氏などを採用した独自の動画コンテンツの製作にも力を入れる。充実した独自コンテンツの提供を通じて、安定した読者層や視聴者層を獲得することに成功しており、こうしたコンテンツに付属する広告スペースをより高価な価格で販売できるようになる可能性を秘める。

広告収入とは一旦話がそれるが、AOLが独自の動画コンテンツ製作に注力していることもベライゾンがAOLに魅力を感じたもう一つの理由となった。米国では、最近、若者層を中心に月額30ドル以上かかる有料テレビを解約して、月額10ドル以下のネット動画配信サービスに切り替える動きが盛んになっている。ベライゾンはこうした動きに対抗するため、現在、ネット配信に特化した動画配信サービスを準備中で、AOLが抱える独自コンテンツ製作のノウハウが新サービス立ち上げに大いに役立つとみられている。

ネット広告に話を戻そう。

AOLが手掛ける2つ目のネット広告事業が代理店業務だ。といっても、人が行っているわけではない。AOLはソフトウエアを使って、ネット上の空き広告スペースの情報を収集し、顧客企業の広告を自動的に出稿する仕組みを持っている。「プログラマティック」と呼ばれるネット広告の手法で、「広告スペースが埋まらない」というサイトやブログなどの運営者の悩みと、「広告をより多くの人の目に触れさせたい」という企業側の要求を同時に解決する仕組みとして広告業界で注目を集めている。

特に、13年に動画広告の挿入に強みを持つ米アダプティービーを買収し、上記の自動の広告配信の仕組みに動画広告を組み込んだことへの評価は高い。ネットを通じた動画視聴が急速に広がるなかで、同分野に対する需要が急拡大すると期待されているからだ。プログラマティック広告の分野は、1~3月期の決算で売上高が前年同期比で21%増加。AOLの売上高全体の約4割を占める稼ぎ頭に成長している。

ダイヤルアップ接続の衰退とともに契約者離れが進み、業績が悪化していたAOLを、現在のネット広告会社に生まれ変わらせたのは、ティム・アームストロング最高経営責任者(CEO)だ。09年、当時AOLの親会社だったタイムワーナーのジェフ・ビューケスCEOに口説かれてグーグルから転職してきた。

アームストロング氏は、90年代のネット広告黎明(れいめい)期から同業界に関わり、00年にグーグルに入社。同氏がグーグル創業者2人に出した入社条件は「ニューヨークから引っ越さないこと」だったといわれている。以降、西海岸に本社を構えるグーグルとニューヨークの広告業界の橋渡し役を務め、グーグルが「ネット広告の巨人」に成長する一役を担った人物だ。

09年にAOLのCEOに就任してからは、有望なネット広告技術を持つベンチャー企業や著名サイトを相次いで買収、現在のAOLを作り上げた。ネット広告業界の生き字引ともいえるアームストロング氏の才能をベライゾンは高く評価しており、買収手続き完了後も同氏が社内に残ることに強いこだわりも持っているという。

大型合併に失敗した過去を持つAOL

AOLには、過去に大型合併に失敗した経験がある。筆者は5年前、00年にタイムワーナー側のトップを務めAOLとの合併を仕切ったジェラルド・レビンCEO(当時)と、話す機会を得た。レビン氏は「世紀の合併」がうまくいかなかった理由を、「スーパーマーケットではなく、ショッピングモールになってしまった」と悔しそうに語ってくれた。合併後も社員が出身母体にしがみつき、社内で共通の目標を持つことができなかったという。別々の店舗がたまたま同じ場所に共存するだけのモール状態を抜け出せず、様々なブランドの品を並べても店名は1つのスーパーマーケットになれなかったというのだ。

今度こそ、AOLはベライゾンとうまく融合できるのか。答えが出るのは、これからだ。

(ニューヨーク=清水石珠実)

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