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デジワザNAVI 「まず作る」「きれいに作る」の愚 資料作りの鉄則

外資系/コンサルの出世する資料作成術(上)

日経パソコン
ピントのずれたビジネス資料は、どんなに時間を費やして作成しても誰からも評価されない。資料作りには正しい方法論がある。その作法を、外資系コンサルティング企業で数多くのコンサルティングを手掛ける吉澤準特氏が解説する。今回は、資料作りで陥りがちな「まず作ってみる」「きれいに作る」という行動が評価されない理由を述べる。

資料作成で最初にやることは何であるかと尋ねたとき、多くの人は「内容を考えること」だと答える。間違ってはいないが、具体的にどうするのかさらに尋ねると、「PowerPointを開いて目次を作り始める」「Excelを開いて表を作り始める」といった資料そのものを作る行為を述べる人が少なくない。

しかし、この発言が完全に間違いであることをまず述べておきたい(図1)。

ノーゲスで手戻りを避ける

資料作成に取り掛かった段階で、多くの人が経験する非常に残念なトラブル。それは、作成者の勝手な思い込みにより、依頼した側の意図とは違った形で資料が作成されてしまうことだ。

資料作成側の努力によってこうしたトラブルを避けるためには、作成依頼を受けた時点で、「次に相手に資料を見せる時にはどのような形になっていればよいか」を確かめておく必要がある。

外資系企業では「ノーゲス」(NoGuess:推測しない)という言葉で語られることがある。相手から確認できていないことは自分自身で勝手に推測してはいけない、というルールだ。

ゲスによって相手の意図するところと異なる方向に努力してしまえば、それだけ手戻りの手間が増える。だから、ゲスをしないこと、すなわちノーゲスの姿勢で資料を作成するように心掛けること。そうすれば、曖昧な点をあやふやにしたままで資料作りに着手してしまうミスはなくなる。

きちんと相手に確認しながら資料を作成することは、ゲスをしながら自分本位で資料を作るよりも時間を要すると思う人がいるかもしれない。だが、相手の意図に沿った資料作りを心がければ、手戻りによる再作業の時間も不要になり、結果として効率は高まる。

これ以外にもよく聞くのが、良かれと思ってやったことが無駄だったという「ゴールドプレーティング」である。金メッキを意味するこの言葉は、過剰品質を意味する決まり文句だ。

良かれと思っていろいろな情報を資料に盛り込んだが議論では使われなかった、そんな「やらなくてもよかった」というゴールドプレーティングは、前述のゲスによっても発生する。しかし、それよりも圧倒的に多いのが、自己満足を満たすためのこだわりによって引き起こされるゴールドプレーティングである。

品質過剰は非効率と心得よ

簡単な表に内容をまとめるだけであるはずが、表や文字の色、影の付け方、インデントの微妙な調整など、資料の内容とは無関係な部分にこだわってしまい、結果として資料作成時間が長くなってしまう。こうした例は典型的な自己満足型のゴールドプレーティングといえる。資料を依頼した立場からすると、全く本質的ではない、余計な作業だ。

ゴールドプレーティングは「品質は高いほど良い」と考える組織でよく見られる。しかし、コストパフォーマンスという言葉がある通り、高すぎる品質は多くの場面でムダになる。品質を高めるために使った手間を別のことに振り向ければ、もっと多くのことができただろう。

もちろん例外はある。読み手を感動させるくらいのきれいな資料は、役員向けのプレゼンテーションでは高く評価されることも多い。しかし、そうした資料はあなたが作る資料のごく一部であり、大抵のビジネスシーンでは資料の見た目よりも内容そのものに目を向けられるだろう。ゆえに、ゴールドプレーティングによる品質向上より非効率さを気にすべきだ。

資料作成に取り組む前提として、そもそもの仕事に対する姿勢に気を付けておきたい。ゲスやゴールドプレーティングが発生する理由は、資料の完成イメージに対して、依頼側(または資料の読み手)と、作成側の間に認識相違があるからだ。この相違を埋めるためには、図2のように、資料に期待するものを最初にすり合わせる作業が不可欠となる。

相手・狙い・妥当性を確認する

相手が資料に期待することとは何だろうか。メッセージの伝え方や分かりやすいグラフなど、人によって求めるものは違う。しかし実は、WHO、WHAT、WHYの3点さえ確認できていれば、資料作成におけるゲスとゴールドプレーティングの発生を予防でき、手戻りのリスクはぐっと小さくなる。

WHOは資料を見せる「相手」を意味する。例えば、業務の効率性を高めるITシステムを導入する場合であれば、投資の判断をする人は費用と効果の情報を知りたがるだろう。一方、実務を担当する人はその使い方と作業の軽減度合いを知りたいと考えるはずだ。最終的にその資料を誰に見せるのか、それが決まれば資料の立てつけも決まる。

WHATはその資料を使う「狙い」を意味する。単なる情報共有なのか、相手に意思決定してほしいのか、その違いによって資料の作り方は変わってくる。例えば、情報共有を目的とした資料は、最初に報告要旨(サマリー)を付ける。そこだけ読んでも概要を判断できる構成は、読み手の時間を節約することになるので喜ばれる。

これとは逆の場合もある。大まかな理解ではなく、細部も把握しておきたいと考える相手であれば、Excelを使って明細表を用意しておくと喜ばれる。資料を使って相手に何をしてほしいのかを最初に決めておけば、資料フォーマットと内容構成も自然に決まる。

WHYは相手と狙いが妥当である「理由」を意味する。資料を作るのであれば、狙いに対して最も効果的に行動してくれる相手に向けて作るべきだ。

例えば、営業システムの提案だから営業部長向けに提案書を作ったのに、情報システム部長の判断の方が優先されて不採用となったという失敗談がある。これは設定した「相手」がキーパーソン ではなかったからだ。資料作成を進めるうちに新しいキーパーソンの存在が判明した場合には、WHOにその人物を含め、資料内容に修正を加えよう。

吉澤準特(よしざわ・じゅんとく)
 外資系コンサルティングファームにて専門領域における日本支社の実務責任者を務め、ビジネスからシステムまで幅広くコンサルティングを手掛ける。プロジェクトマネージャーとして、数十~数百億円規模のシステム運用改善、あるいは組織改革、人材育成に携わることも多い。ITサービスマネジメントの世界基準である、ITIL Managerの有資格者。

(日経BPムック『外資系/コンサルの出世する資料作成術』を再構成)

外資系/コンサルの出世する資料作成術 (日経BPムック)

著者:日経BP社
出版:日経BP社
価格:1,480円(税込み)

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