連覇目指す「なでしこ」 プラスとマイナス材料 - 日本経済新聞
/

連覇目指す「なでしこ」 プラスとマイナス材料

サッカージャーナリスト 大住良之

なでしこジャパン(サッカー日本女子代表)が国際サッカー連盟(FIFA)女子ワールドカップ連覇を目指して第7回大会の開催地カナダに出発する。第7回女子ワールドカップは、これまでより8チーム増えた24チームで開催される。

采配やサポート体制、試される総合力

グループリーグ突破は3位でも可能性があるため容易になったが、優勝するにはそこから4試合を勝ち抜かなければならない。選手の力、コンディショニングだけでなく、采配、サポート体制など、これまで以上に「総合力」が試される大会となる。

グループリーグは、スイス(6月8日=日本時間9日午前11時、バンクーバー)、カメルーン(12日=同13日午前11時、バンクーバー)、そしてエクアドル(16日=同17日午前6時、ウィニペグ)。7大会連続出場の日本を除く3チームが初出場というフレッシュな顔ぶれだが、いずれも侮れない相手だ。

最大の難関は初戦のスイスだろう。スイスは5月27日に優勝候補の一角であるドイツとチューリヒ近郊で親善試合を行い、1-3の敗戦だったが、前半はドイツのフランクフルトでプレーする(なでしこジャパンFW安藤梢とチームメート)FWクルノゴルチェビッチの得点で先制、1-0のリードで折り返した。後半、不運な失点とカウンターで逆転されたが、力のあるチームであることを証明した。

イタリア戦、連続して左サイドから好機

なでしこジャパン自体は、5月18日に香川県丸亀市に集合してキャンプをスタートし、24日にはニュージーランドと、そして28日には長野市でイタリアと親善試合を行った。

丸亀では2部練習をこなしており、コンディションとしては「底」にあった。そのためか、ニュージーランド戦では攻撃がほとんど機能せず、CKからMF澤穂希の得点で得た先制点を守りきって1-0の勝利という形だった。

しかしイタリア戦では左サイドからの攻めで連続的にチャンスをつくった。シュートの思い切りがないために得点はFW大儀見優季の1点にとどまったものの、スイスとの初戦に向け順調に進んでいるように思われた。

イタリア戦の決勝点は52分。左サイドのDF熊谷紗希から始まった攻撃は、MF阪口夢穂を経由して外側からはいってきたMF宮間あやにつながり、宮間、中央前方のFW大儀見とワンタッチパスが2本つながるなか、左タッチライン際に上がったDF宇津木瑠美が受けてクロス。はね返されたところを拾ったMF澤が再び左の宇津木に入れると、宇津木はゴールに向かってドリブル、低いボールをペナルティーエリアに入れた。

2回目に宇津木にボールが渡ったとき、ペナルティーエリアには2人のなでしこジャパンFWがいた。ボールに近いサイドに菅沢優衣香、そして遠いサイドには最初のクロスに対応して競り合っていた大儀見だ。宇津木がドリブルを始めると、DFリナリにマークされていた菅沢はすうっと右に遠ざかり、リナリの視野から消えた。

宮間を左MFに戻し、守備面など安定

そのリナリに向かって低く鋭く宇津木がパスを出す。おそらくリナリは「よかった」と思っただろう。菅沢と入れ替わるように背後に迫った大儀見には気づいていなかったに違いない。リナリがボールに反応しようとしたとき、大儀見が右足をその前にねじ込み、アウトサイドにボールを当てた。シュートはゴール左隅に飛び、GKには止めるチャンスはなかった。見事な得点だった。

強豪相手の連戦、しかも中3日の試合でいずれも1-0。ポジティブな面がいくつもあった。

第1は宮間を昨年までのボランチではなく前回のワールドカップ時と同じ左MFに戻したことで、左サイドの攻撃が格段に良くなったこと。状況に応じて宮間がボランチのラインにはいることで、守備面、中盤支配の安定にもつながった。

第2はGKの安定だ。とくに第1戦に先発した山根恵里奈の圧倒的な空中戦支配力は、今大会のなでしこジャパンの大きな特徴となるだろう。187センチ。男子日本代表の川島永嗣より長身の山根は、この1年間で前に出る動きや足元のプレーが格段に良くなり、不安定な感じはまったくなくなった。

第3は、3月の国際大会(ポルトガル)では外れていた澤がボランチとして復帰し、攻守両面で非常にレベルの高いプレーを見せたことだ。90分間は難しくても、60分まででもあの読みと運動量があることは、なでしこジャパンにとって大きなアドバンテージだ。

不安要素は右サイド、川澄が不調

だが不安な要素も多い。

第1は、左サイドと比較すると、右サイドの攻撃が2試合ともほとんど機能しなかったことだ。2戦とも右MFに川澄奈穂美、右サイドバックに近賀ゆかりが先発したが、川澄はボールを受けても突破の意欲も見られず、近賀はパスミスを繰り返した。

川澄は前回のワールドカップで「シンデレラガール」となったアタッカー。準決勝で初めて先発出場して2得点、決勝戦もフル出場し、優勝に貢献した。そして大会後には攻撃のエース格となった。昨年前半はアメリカのプロリーグでプレー、右MFとしてスピードに乗った突破と見事なシュート力を見せて所属のシアトルにレギュラーシーズン1位の座をもたらし、リーグのベストイレブンにも選ばれた。しかし9月に帰国し、INAC神戸に復帰してから突然不調に陥った。スピード感もプレーのキレもなく、まるで別人のようになってしまったのだ。

5月の親善試合で、佐々木則夫監督は2試合とも川澄を先発の右MFとして送り出したが、いずれも前半だけで交代させている。

第2は守備面の不安だ。

個々の選手の体格やスピードで劣るなでしこジャパンの守備は、チームとして連動することで成り立つ。攻守の切り替えが速く、相手ボールになると前線から素早くプレスをかけ、奪えなくても相手のパスミスを引き出してDFを楽にする。4年前の優勝時の大きな力が、このチームディフェンスだった。

素早いパスに走力、全員一丸を期待

ところがこの4年間で、世界の強豪はこうしたプレスを突破するシンプルなパス回しができるようになり、日本のプレスが以前のようにはきかなくなってしまったのだ。そうなると、日本の守備ゾーンで体格やスピードの差がまともに出てしまう。ニュージーランド戦では、失点にはつながらなかったものの、こうした形から相手にPKを与えている。

素早くパスを回し、相手より多く走って攻め、相手ボールになったら相手より多く走り、集団での守備を実現しなければ、連覇はほど遠い。すなわち、どんな局面でも相手より多く走ることが重要なカギとなる。

そうした「なでしこらしいサッカー」を十二分に発揮し、全員一丸、魂のこもった戦いを期待したい。

春割ですべての記事が読み放題
有料会員が2カ月無料

関連企業・業界

企業:

セレクション

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン

権限不足のため、フォローできません