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トヨタ式の住宅部材生産、「多能工」育成で進化

工場内の天井付近につり下げられた緑の看板「よい品(しな)よい考(かんがえ)」。「トヨタ生産方式」のスローガンの一つだが、この看板が掲げられているのは自動車工場ではない。トヨタ自動車グループの住宅部材工場だ。このクルマ工場さながらの自動化が進んだ工場で一つの取り組みが始まっていた。多くの作業を1人でこなせる「多能工」の育成である。

クルマづくりのノウハウ導入 「完全受注生産」を効率化

5月下旬、緑の看板が掲げられたトヨタホーム春日井事業所(愛知県春日井市)を訪ねた。工程の異常を知らせる「アンドン」や混流生産、工程間の品質確保の手法など、トヨタのクルマづくりの要諦を随所に取り入れ、住宅部材のコストと品質の競争力を誇っている。受注した戸建て住宅の約8割までを部材工場でつくっておき、建築現場は据え付けなどに特化する。春日井事業所だけで年間約2000戸分の部材を生産している。

木材の香りが漂うなか、最大で2.5メートル×約6.25メートルの鉄骨で枠組みした直方体の「ユニット」がコンベヤーに載って運ばれていく。仕組みはこうだ。鉄骨を溶接で組み合わせたユニットに、防さび加工を施す。その後は組み立て作業だ。電気や通信向けのケーブルをはわせ、天井をはり、内壁や間仕切りを取り付けてユニットを完成させる。

ユニットの運搬はロボットが担い、極力人の手を介さない。溶接も一部の複雑な作業のみ専門資格を持った従業員が仕上げる。配線は電気工事士の資格保持者が担当する。2年前からは仕様書に応じて「120秒」など目安の作業時間を映し出すモニターを導入。生産効率を落とさない工夫を凝らす。全部で75工程で、1工程当たりにかかる時間は4分36秒~6分30秒。合計6~8時間で1ユニットが完成し、トラックで建築現場に運ばれる。このユニット11個で住宅が1戸できる。

ユニットの基本構造は28種類だが、取り付ける部品は注文者によって仕様が異なるため、完全受注生産だ。トヨタ車で言えば「(小型車の)『ヴィッツ』から(高級車の)『レクサス』まで同じラインで生産しているようなもの」(生産を統括する国島憲雄取締役)という。

春日井事業所が開業したのは1987年。ほかに山梨、栃木両県に生産拠点を持ち、春日井事業所が九州から静岡の住宅をカバーする。現場での作業を最低限に抑えることで均一の品質を保ちながら効率を向上させ、国内の住宅需要を支えてきた。

ただ直近では少子化に加え、消費増税の影響などから住宅販売が減少している。国土交通省によると、14年度の新設住宅着工戸数は13年度比11%減の88万470戸と市場は低迷している。

中長期的に伸びるのは、高齢者が生活しやすいよう改善するといったリフォーム事業だ。そこでトヨタホームも強みの大量生産だけでなく、人の技能の向上と伝承に力を入れている。

 ユニットの生産が進む工場内。中央部の机の周りに人が集まっていた。ゼッケンを付けた若手の従業員がノコギリにノミ、カンナなどの道具を手早く持ち替え、木を削っていく。山科忠社長をはじめ幹部がじっと様子を見守っていた。

競技会で手作業体験 家造りの全体像学ぶ

11年から同社が始めた「技能向上競技会」の一幕だ。事業所での予選を勝ち抜いた21人が参加した。溶接、物流、木工、配線作業をこなす電気、外壁の5部門で競う。例えば木工では、2時間で板を組み合わせ踏み台を完成させる。寸法通り作れているか、がたつかないかなど速さと正確さが問われる。

競技会の参加者は、サッシの組み付けなどに携わるライン従事者だ。過去5回の開催で、のべ約500人に上る。生産ラインに携わる従業員数は3事業所合計で600人弱。8割強が競技を経験したことになる。

板の切断は、普段なら寸法を入力すれば機械が仕上げる。板を隙間なく合わせる作業も自動だ。それでも手作業にこだわる理由について国島氏は「組み付けの仕組みを理解し、家造りに必要な一連の作業をできるようにするため」と話す。

住宅の基本的な生産工程は、春日井事業所の開業以来変わっていない。ただ、家庭用エネルギー管理システム(HEMS)の採用やブロードバンドなど通信環境が進歩するのに伴い、配線の作業量は「ここ8年ほどで2倍に増えた」(国島氏)。実際の現場でも、エアコン用に赤、アース用に緑、など色とりどりのコードが並べられていた。担当する人員も3倍ほどに増員した。

階段やキッチンの取り付けなど1時間以上かかるような手の込んだ作業が要る工程は主要な生産ラインから切り離し、別のラインで生産している。携わるのは作業の熟練者だが、高い生産効率を維持するには「作業者への仕事の割り振りが鍵を握る」(国島氏)。繁閑に応じて工場内、さらに現場の作業まで応援に行ける人材の育成が欠かせない。

トヨタも自動車の生産工場で、部品の溶接の一部を手作業で担う取り組みを始めている。自動車でも住宅でも、最終的に品質を担保するのは人だ。一見遠回りに見える教育が、トヨタ式の家づくりを支えている。

(名古屋支社 大島有美子)

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