全米オープン、勇気あるコース選び 選手は悪評続々 - 日本経済新聞
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全米オープン、勇気あるコース選び 選手は悪評続々

米ゴルフウイーク誌記者 ジム・マッケイブ

今が2015年ではなくて1975年で、ジャック・ニクラウス(米国)が75歳ではなく35歳なら――おそらく帝王と呼ばれる彼こそが、6月18~21日、シアトルから南へ車で1時間ほどのところにあるチェンバーズ・ベイGCで開催される全米オープンゴルフの絶対的な優勝候補ではないか。

来月の大会を前に漂う不穏な空気

かつてニクラウスは、6月に入って他の選手が来るべき全米オープンのコースについて、「フェアウエーが狭すぎる」「ラフが長すぎる」「グリーンが速すぎる」と不安を口にするほど、ほくそ笑んだもの。そして、自信を深めていった。

「そんなもの、気にしなければいいだけの話だ」

ニクラウスは全米オープンで史上最多タイの4勝を挙げている。「気にしなければいい」は、彼の全米オープンに臨む大前提であり、全米オープンを制す上での真理だった。彼はまた、少しでもネガティブなことが頭をよぎると、それがショットに影響することをよく心得ていた。特にメジャー大会では、技術以上にメンタルが試される。一つの不安要素から崩れることも少なくないからだ。

さて、ここからが今回の本題。今年の全米オープンが開催されるチェンバーズ・ベイは、ここにきて74年にウイングド・フットGCで行われた大会以来の悪評を招きかねない状況にある。

その41年前の大会では、前年の全米オープンを制したジョニー・ミラー(米国)らが、「ばかげている!」と膝まで伸びたラフをはじめとしたコースセッティングをこき下ろした。

それを批判したのが、全米オープンで3勝を挙げているヘール・アーウィン(米国)。「別に選手に不満を言わせたくてコースを設定しているわけではないだろうし、そもそも全員が同じ条件じゃないか」。ただ今回に関しては、始まる前から不穏な空気が漂っている。

「グリーンがひどい」「完全に茶番」

まず、米ツアーで通算3勝をマークしているライアン・パーマー(米国)がプレーした感想として、「全米オープンにはふさわしくない」と話した。「グリーンまではまずまずだ。しかし、グリーンがひどい」

チェンバーズ・ベイのグリーンはところどころ強い傾斜があり、小さなマウンドがいくつもある。そういうグリーンはフェアではない、ということのようだ。グリーンの問題は、かつてここでプレーし、ゴルフの世界殿堂入りしているトム・カイト(米国)も疑問視していた。

時期を同じくして、イアン・ポールター(英国)が「何人かの選手らがあそこでプレーした。彼らの感想によれば、(今回のコースは)完全に茶番だ」とツイートした。

茶番? さすがにまだチェンバーズ・ベイでプレーしたことのない選手が使う言葉ではないのではないか。

ただ、彼らが不安を覚えるのも理解はできる。今回のコースは、これまでの全米オープンのイメージとは様相を異にする。

まず、コースの歴史が浅い。全米オープンが開催されるコースというのは100年を超える伝統を持つところも少なくない。しかし、チェンバーズ・ベイは8年――108年ではなく誕生してからわずか8年なのだ。ポールターのように初めてプレーする選手も少なくない。

与えられた状況でプレーするだけ

さらに、全米オープンは中西部から東部で開催されることが多いが、今回は初めて太平洋岸北西部で行われる。そもそも、シアトル・エリアではかつて世界ゴルフ選手権の試合が行われていたこともあったが、今はシニアツアーの試合があるのみで、若い選手には全くなじみがない土地だ。

そして、コースはといえば木が1本あるだけ。全米オープン特有の深いラフ、狭いフェアウエーも少なく、選手のイメージとはかけ離れている。また今回、ティーインググラウンドにも傾斜があるとのこと。そんな設定を聞かされれば、おそらく保守的な選手は一様に戸惑いを覚えるのではないか。

しかし、このコースには地形を生かしたレイアウトの妙がある。優れた戦略性を問うコースセッティングは、確実に選手の技量を高いレベルで問うことになる。もちろん、パットの正確性もそうだ。むしろ今回、これまでとあまりにも状況が違うため、一部から反発されることも覚悟の上で、ここを選んだ全米ゴルフ協会の勇気をたたえたいところである。その勇気はおそらく大会が終わったとき、改めて称賛されるのではないか。

さて、冒頭のニクラウスやアーウィンの話ではないが、選手は結局、与えられた状況でプレーするだけ。条件は誰にとっても平等なのだ。もしポールターやパーマーのようにチェンバーズ・ベイを嫌う選手がいるならば、おとなしく家でテレビでも見ていた方がいいのかもしれない。

おそらく不満を抱えてプレーしても、家にいても、勝つ確率は変わらないのだから。

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