世界6位に貢献 ブラインドサッカー・黒田智成(上)

2015/5/30 6:30
共有
印刷
その他

目の見えない視覚障害者がプレーするブラインドサッカー。昨年11月、日本で開かれた世界選手権で歴史を刻むゴールを決めたのが、日本代表の黒田智成(36、八王子盲学校職)だ。

初戦のパラグアイ戦前半20分、自陣で相手FWからボールを奪い、右サイドを高速ドリブルで駆け上がる。ゴール前で通せんぼしていたDF2人が見えるかのように中へ切り込んで鼻面をかすめ、左足で一閃(せん)、ゴール右隅に蹴り込んだ。相手GKは逆をつかれ、伸ばした手も届かない。「GKを動かして、その動きと逆のコースを狙う。練習していた形だった」

音の情報を頼りにゴールを決める日本代表のエース

音の情報を頼りにゴールを決める日本代表のエース

ルーズボールへの反応、抜群に速く

これが決勝点となって日本が1-0で勝つ。4年に1度の世界選手権出場3回目にして初の1次リーグ勝利であり、しかも8年前には0-3で負けている南米の強国を破る結果。たとえていえば、サッカーの2002年日韓ワールドカップ(W杯)で、日本がW杯初勝利を挙げたロシア戦のような試合だったか。国立代々木競技場フットサルコートに特設されたスタンドを埋めた、千人を超える観客は熱狂した。

日本は勢いに乗り、1勝2分けで1次リーグを突破。準々決勝で中国にPK負けを喫したものの、順位決定戦ではまた黒田の決勝ゴールでドイツに勝利。過去最高の6位となった。

ブラインドサッカーは障害を持つ4人のフィールドプレーヤーに、相手ゴール裏で味方を声で誘導するコーラーとGKの2人の晴眼者でチームを組む。ボールには鈴が入っており、相手ボールに対する守備の際は「ボイ」という声を出すことが義務付けられている。

選手はその音の情報を頼りにボールを扱い、DFの位置を推測、ゴールを目指す。日本代表監督の魚住稿は「黒田はルーズボールへの反応が抜群に速い」と評する。細かいドリブルで鈴がカチャカチャ鳴っているなら対処しやすいが、ひとたび足を離れると、バウンドの間合い、転がる音などから位置を予測するしかない。そんな黒田の"ソナー"の高性能ぶりを、ドイツ戦のゴールが一層印象づけた。

6歳で失明、ボールの心の声に耳傾け

相手ゴール前でタッチが強くなり、ボールが大きく流れた。だが黒田は並走、先回りするように追いついてシュート。GKがはじいたことを察知してこぼれ球を素早く奪い、「GKと球の位置が完全にわかったので、野球の流し打ちの感覚で右へ足を振り抜いた」。

失明したのは6歳の時。それでもテレビで見た「キャプテン翼」のまねをして、普通のボールで実家の倉庫に向かって"壁蹴り"に熱中した。鈴が入っていないので「集中して聞かないと、すぐどこにいったかわからなくなる。遊びの中で無意識に技を身につけたことが、今生かされている」。視覚に頼らず、ボールの心の声に耳を傾けるように絆を結んで、まさに「ボールは友達」を体現した経験が、日本代表のエース誕生につながった。

(敬称略)

〔日本経済新聞夕刊5月25日掲載〕

共有
印刷
その他

コラム「駆ける魂」

サッカーコラム

電子版トップ



[PR]