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夏に自動運転機能追加 テスラは「クルマ版iPhone」

宮本和明 米ベンチャークレフ代表

ITpro

「Software-Defined Car」(ソフトウエアが機能を定義するクルマ)――。米Tesla Motors(テスラモーターズ、以下テスラ)の電気自動車(EV)に乗ると、それが既存の自動車ではなく、"走るコンピューター"であることを実感させられる(下の写真)。

実際、搭載されるソフトウエアは恒常的に進化し、アップデートが無線LANなどを経由してクルマにダウンロードされる。2015年夏に予定されているアップデートでは、自動運転機能が追加される予定だ。こうなると、Teslaを「情報通信機器」と区分してもさほど違和感はないだろう。急速に進化するTeslaをレポートする。

iPhoneから多大な影響

今回、筆者が試乗したのは「Tesla Model S 85D」。ユーザーインターフェースはタッチパネルで、クルマの機能をディスプレー上で操作する。iPhoneでアイコンにタッチしてアプリを使うように、Teslaの操作は直観的で、クール(かっこいい)な"アプリ"が揃っている。

iPhoneにOS(基本ソフト)のアップデート版をダウンロードして機能を向上させるように、Teslaでも自動運転など新機能の追加はソフトウエアをダウンロードすればいい。クルマの設計思想がiPhoneから多大な影響を受けており、米国のシリコンバレー文化を感じさせる製品仕立てとなっている。

2系統のコンピューターシステム

Tesla MotorsのOwner AdvisorであるKim氏に操作を教えてもらいながら、テストドライブした。クルマの形状の鍵をポケットに入れたままクルマに近づくと、ドアハンドルがポップアップ。扉を開けることができるようになる。

運転席にはキーを差し込むスロットや、スタートボタンがない。キーをポケットに入れたままで、レバー(ハンドル右側のバー)を上に押してエンジンを始動。このレバーは、シフトレバーを兼ねる。

上の写真はエンジンを始動したところで、インスツルメントパネル(正面)には、速度や走行可能距離(写真では241マイル)が表示される。右手には、大型タッチスクリーンが設置されている(写真右端)。ここに操作や運行に関する情報が表示される。

写真では、電力消費量(上部)とGoogle Mapsの地図(下部)が表示されている様子。インスツルメントパネルとタッチスクリーンは、2系統のコンピューターで稼働する。米NvidiaのVisual Computing Module(車載プロセッサー)が使われ、高速プロセッサー「Tegra K1」が2個搭載されている。2系統の高性能コンピューターが、運転をアシストする。

走る場所に応じて設定を変更

Teslaのユーザーインターフェースは、17インチのタッチスクリーン上でiPhoneを操作するようにクルマを制御する。下の写真は、サンルーフアイコンを指でスライドし、空ける操作をしている様子(スクリーン上部)だ。iPhoneでロックスクリーンを開く感覚で操作できる。スクリーン下部は、ヘッドライトや室内灯の操作画面で、ボタンにタッチして点灯する。

サスペンション設定画面では、車高を設定できる。走行中は速度に応じ、クルマが自動で車高を調節する。位置情報に応じた車高設定機能もある。急な坂やスピードバンプ(車速を減速させるための隆起物)がある道路で車高を高く設定しておくと、クルマはその場所を把握する。搭載しているGPS(全地球測位システム)で位置情報を認識し、その場所を通過する時は設定した車高に変更する。

ステアリングモード画面で、ハンドルの感度を選択できる。スポーツモードを選ぶと、レーシングカーのように機敏なハンドリングを味わえる。興味深いのは「クリープ」と呼ばれる機能で、ブレーキから足を離したときにするすると前に動くモードを設定できる。オートマチック自動車特有の動きで、電気自動車でこれをエミュレーションできる。

つまり、Teslaの機能や特性は、ソフトウエアでいかようにも調整できる。iPhoneと同様、ソフトウエアがクルマの機能を決定する。

ドライバーの運転状況を監視

操作法の説明を受けた後、テストドライブに出た。電気自動車の静かさと、アクセルを踏んだ時のレスポンスの速さには、改めて驚かされる。Kim氏によると、停止状態から時速60マイル(時速96キロ)に達するまでの時間は3.2秒(Model S P85Dのケース)。

これは「Porsche(ポルシェ) 911 GT3」(レースで使われるハイパフォーマンス版のPorsche)と、同じレベル。この加速の俊敏性に惹かれてTeslaを購入する人も少なくないという。但し、Teslaの最高速度は時速120マイル(時速192キロ)に抑えられている。

運転していて印象的だったのは、安全に配慮した機能が充実していることだ。その一つが速度オーバー警告機能で、スピードを出し過ぎると警告アイコンが表示される。下の写真がその様子で、インスツルメントパネルに現行速度(時速44マイル)と法定速度(時速40マイル)アイコンが示され、スピードの出し過ぎに注意を促している。Model Sは搭載しているカメラで道路標識を読み、その意味を理解しているのだ。

この他、運転中に走行レーンを右側にはみ出したときは、ハンドルが震えた。これは、レーンアシスト機能で、カメラがレーンのはみ出しを認識して、ドライバーに注意を促す。コンピュータービジョンの精度が向上し、クルマが自動車学校の先生のように、ドライバーの運転状況を監視できるようになった。

自動でソフトウエアを更新

Tesla車は常に3Gや無線LANに接続されていて、ソフトウエアアップデートを自動で実施する。ダウンロードが完了すると、アップデート画面が表示され、そのままインストールするか、開始時間を指定するかを選べる。インストールする際は、クルマをパーキングモードにする必要がある。

テストドライブで使ったクルマは、最新版のソフトウエア「Version 6.1」で動いている。下の写真はリリースノートで、ここにVersion 6.1の新機能が説明されている。

次のアップデートは「Version 6.2」で、主にバッテリー切れを防止する機能が追加される。具体的には遠出する際は、クルマが充電の必要性を考慮して、専用充電ステーション「Supercharger」を含む最適ルートを計算する。クルマの指示通り走れば、長距離ドライブを楽しめるわけだ。

自動車線変更機能も登場

注目のアップグレードは2015年夏にリリースされる予定の「Version 7.0」で、自動運転機能「Autopilot」が追加される。Autopilotは、ドライバーが設定した一定の距離を保ちながら、道路に沿って自動走行する機能。道路がカーブしていても、Autopilotが自動でハンドルを切る。前のクルマが減速すると、それに従って速度を落とす。

自動で車線を変更する「Lane Changing」も登場する。ドライバーが方向指示器を操作すると、クルマが自動でその方向に車線変更する(下図)。

ドライバーがマニュアルで車線変更する時は、隣のレーンにクルマがいればアラートを出す。前方のクルマに急速に接近すると警報が鳴り、緊急事態ではクルマが自動で停止する。

アグレッシブとリラックス

自動運転時には、インスツルメントパネルのデザインも一新される。下の写真はAutopilotで運転している時のディスプレーで、中心部分にセンサーが捉えた周囲のオブジェクトが表示される。前方のクルマとの車間距離は青色のバーで示され、この距離を保って走行する。

追従モードを選択することも可能だ。「アグレッシブモード」では、前のクルマとの車間距離を詰め、追跡するような勢いで追随する。反対に、「リラックスモード」では車間距離を十分に取り、余裕を持った走りができる。接触の危険性があるクルマは赤色で表示され、ドライバーがハンドル操作で制御をオーバーライドできる。

狭いガレージでも自動駐車

自動駐車機能「Autopilot Parking」も追加される。路上で駐車スポットを見つけると、クルマはそれをドライバーに知らせて自動で駐車する。Teslaの充電ステーション「Supercharger」では、自動で空きスペースを見つけて駐車する。自宅ではクルマが自動でガレージに駐車する。狭いガレージにクルマを出し入れするのに、困ることはない。

私有地であれば、クルマはドライバーのスケジュールを把握し、自動でガレージのドアを開け、外に出て路肩に駐車して搭乗を待つ(下図)。GPS経由でリアルタイム渋滞情報を受信し、自宅から目的地までの所要時間を計算。時間になると、路肩でスタンバイする機能もある。ドライバーは、まるでハイヤーを利用するような気分で玄関前で待っている車に乗り込める。

こうした自動運転の機能は、車載センサーからの情報をベースにしている。カメラは前方と後方に一台ずつ搭載。前方カメラは室内リアビューミラー背後に設置され、道路標識や信号、歩行者を把握する。レーダーはフロントグリル下部に設置され、前方にあるオブジェクト(物体)を把握する。レーダーの認識範囲は長距離で、雨や雪などの悪天候でも使える。

超音波センサーはクルマを取り巻くように、前方と後方に合計12台搭載している(下の写真、ヘッドライト下の小さな円形の部分)。超音波センサーは車両の周囲360度をカバーし、子供や動物なども含めて物体を把握する。

Autopilotは、これらのセンサーからの情報を元に、走行ルートや速度を決定する。車線変更の際は超音波センサーで安全を確認する。Autopilot Parkingは、超音波センサーを使い、周囲の障害物を把握して駐車する。後方カメラは人が運転する時、後方のイメージをタッチスクリーンに表示する。

自動運転中に手を放していいのか?

Teslaは「Autopilotはハイウェーと主要幹線道路で利用できる」と公表している。ドライバーはAutopilotをオンにすると、ハンドルから手を離し、アクセルから足を外せる。ただし、Autopilotは完全な自動運転機能ではなく、あくまで運転支援機能という位置付けである。このためドライバーは走行中、路上から目を離すことは許されない。

緊急事態には、ドライバーがハンドルやブレーキ操作をする必要がある。運転の全責任はドライバーにある。この意味で、米Google(グーグル)の自動運転車とは異なるコンセプトのデザインとなっている。Autopilotは、完全自動運転を目指すための"一里塚"という位置づけだ。

道路交通法の観点からは、Autopilotはグレーゾンであることも事実だ。現行法がこの機能をカバーして、明確にそれを認めている訳ではない。つまり、現時点ではAutopilot機能を使ったドライバーは、違法行為で検挙される危険性がある。道路交通法が、技術の進化に追随できていない状態が続いているのだ。

ドイツMercedes-Benzなども同様の機能を提供しているが、ドライバーにハンドルを握ることを求めている。これに対してTeslaは、Autopilotは現行の道路交通法と矛盾するものではないとし、「問題は無い」との見解を示している。

事実、Teslaはサンフランシスコからシアトルまで、Autopilotの試験を展開中である(下の写真、イメージ)。Tesla車のオーナーとしては、Autopilotで手を離してもいいのかどうか気になるところで、2015年夏までに明確な法令が示されるのかどうかに、注目が集まっている。

「人間の運転を禁止すべき」とMusk氏

Tesla CEO(最高経営責任者)であるElon Musk(イーロン・マスク)氏は、自動運転技術に対する法令整備の遅れに対し、建設的な提言をしている。自動運転車を"Shadow Mode"で稼働させ、法令整備を進める案だ。

実際に路上で運転するのではなく、自動運転車をソフトウエアでシミュレーションし、様々な状況を作り出す。ここで自動車運転車の特性を科学的に理解する。事故の起こる統計情報を得て、客観的なデータに基づき、自動運転車の関連法令を定める、という提案である。これは、市場のムードに影響されるべきでないという主張でもある。

米国では自動運転車に対し、ある種の恐怖感を抱いている人が少なくない。無人のクルマが街を走り回るのは薄気味悪いという感覚である。これらの意見に押され、政府は自動運転車への対応について保守的な姿勢を保っている。

Musk氏は、自動運転車は人間が運転するよりもはるかに安全で、将来は人間が自動車を運転することを禁止すべきと主張している。自動運転車はエレベーターで、ボタンを押すとその階まで連れて行ってくれる。「エレベーターガールは不要だ」という主張である。運転という苦痛から解放され、自動運転車の登場を待ち望んでいる人は少なくない。

その一方で、運転が好きな人も多い。ドライブの楽しみを奪うことに対し、反対意見が出ることは必至である。特に、米国人は自動車の運転を憲法で保障された権利と認識し、自由に移動する権利をことのほか重要と考える。

ただ、自動運転車の登場で社会通念は大きく変わる可能性がある。自動運転車が運行を始め、格段に安全に走行できれば、社会の評価が大きく向上する。同時に、人間のドライバーに対しても、同等の安全水準が求められる。

つまり、運転免許証取得の基準を強化するというアプローチも、一つの選択肢となる。日本ではもともと運転免許書の取得に関して厳しい試験が課されるが、車社会の米国では、ほぼ誰でも合格できる。Musk氏の発言は、交通事故を減らす手段を提言したもので、技術の役割が改めて問われている。

自動車製造はもはやソフトウエア産業

TeslaのKim氏は説明の中で、Tesla車の特徴はそのシンプリシティ(単純さ)だと繰り返し強調した。下の写真はTeslaのスケルトンで、赤色の部分がモーターを示す。バッテリーは銀色のパネルの下に配置される。トランスミッションやドライブシャフトなどはなく、シンプルな構造となっているのが視覚的に分かる。

ハードウエアの複雑性を排除する一方で、ソフトウエアの比重がぐんと増している。Teslaは車体という標準プラットフォームで、ソフトウエアを開発しているというイメージに近い。試乗を通じて、Software-Defined Carと言われる理由をはっきりと理解できた。

宮本和明(みやもと・かずあき)
米ベンチャークレフ代表 1955年広島県生まれ。1985年、富士通より米国アムダールに赴任。北米でのスーパーコンピューター事業を推進。2003年、シリコンバレーでベンチャークレフを設立。ベンチャー企業を中心とする、ソフトウエア先端技術の研究を行う。20年に及ぶシリコンバレーでのキャリアを背景に、ブログ「Emerging Technology Review」で技術トレンドをレポートしている。

[ITpro 2015年4月9日付の記事を基に再構成]

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