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ギリシャ情勢はロスタイム入り

「5月12日返済期限の国際通貨基金(IMF)からの融資7億5000万ユーロの振り込み手続きを事務方に指示した」

アテネの地元紙によると、ユーロ圏財務相会合でギリシャのバルファキス財務相は「これが当方の誠意」と言わんばかりに語ったという。

アテネ証券取引所。銀行株のボラティリティーが激しく仕手株化している。上向き曲線をかたどった壁面の飾り物が虚しい

地方自治体・公立病院・公立大学などの当座預金の一部をギリシャ中央銀行口座に預託させてなんとかかき集めたカネだ。しかし、その余波で小学校の清掃員など職員数が削減され、怒ったママたちが抗議デモに参加する一幕も。

かろうじてIMFへの返済遅延は回避されたが、EU、IMF、欧州中央銀行(ECB)ら救済団(トロイカ)からの融資再開は見送られた。現行の救済融資資金の未使用残高が使えなければ、ほぼ毎月来るIMFへの返済や公務員給与・年金支払いの見通しが立たない。更に7~8月に来る大量の国債償還を賄うには、新たな救済スキームが必要になる。6月末までの7週間で、現行の救済スキームからの融資再開と新たな救済スキーム交渉の開始、そして合意が果たしてできるのか。参加国、特にドイツ国会の承認を得るだけでも時間がかかるは必定だ。

地元紙の見出しは「救済交渉、ロスタイム入り」。それでも決着がつかねば「延長戦」。試合はギリシャ側がデフォルト(債務不履行)を宣言すれば、とりあえずゲームオーバー。次には「ユーロ離脱」を巡る新たなゲームが始まる。振り返れば、同じメディアが第2次救済合意のときには「粘り勝ち」と書いていた。

借金も身の丈をはるかに超える額まで膨張すると、借りた方は「どうせ返せぬ」と開き直りがち。困るのはむしろ貸した側である。特にドイツのメルケル首相は最近の地方選挙で敗北し、「ギリシャ許すまじ」の批判を受けている。そこでモスクワにおもむき、得意のロシア語を駆使して、プーチン大統領とウクライナ情勢について対話した。ドイツ国民の関心をギリシャから歴史的経済関係の深いロシアに向ける意図が透ける。

救済団もギリシャ経済の見通しについては誤算の連続だった。2010年時点でギリシャ経済が12年までには成長軌道に復帰すると予測。それが、14年後半にやっとプラス成長を達成と思いきや、15年は再びマイナス成長に転落する見通しとなった。失業率も12年には15%程度まで下落するはずが、逆に20%台後半まで上昇している。公的債務の国内総生産(GDP)比は12年の債務削減を経て14年に140%前後まで下がるはずが、おおむね170%程度の水準まで上がってしまった。

民営化・国有資産売却による収入増も、15年までに500億ユーロ調達の目標に対し、実績は30億ユーロ程度にとどまる。足元では、EUの15年ギリシャ経済成長率見通しが2.5%から0.5%に引き下げられた。

IMFはプライマリーバランスを黒字から赤字に下方修正し、ギリシャ債務削減が必要と説く。しかし、EUは依然として黒字予測を変えず、債務削減は回避の方針だ。

チプラス首相就任100日超えで、100日戦争終結か、と伝える最新の地元紙。上昇する債務曲線から飛び降りる若者の彫刻は、急増する自殺者を悼んで制作されアテネ郊外に展示されている

ギリシャはチプラス首相率いる急進左派連合の内部分裂が顕在化している。部分的緊縮受け入れやむなしとの現実的妥協を唱える意見が台頭しているからだ。しかし、そもそも緊縮拒否路線で政権の座についたチプラス首相が容易に受け入れられる話ではない。

国内の政局混迷、救済交渉難航の中で国民の忍耐も切れかかっている。アテネで会った人たちのフェイスブックを見ても「いったい、どうなっているのか、どうなるか、さっぱり分からない」などの書き込みが目立つ。

世論調査票に書き込むときは、あらたまって「ユーロ離脱反対」とするが、ワインの勢いでつい本音がでるときは「ユーロ離脱やむなし」と語ったりする。極度の困難に直面すると、人間は非合理的な行動に走る場合もある。もし、自ら決められないチプラス首相がユーロ離脱の判断を国民投票にゆだねると、世論調査とは異なる結果が出るリスクがある。

少なくとも今夏まではギリシャ債務問題がジワリ市場の頭を押さえる材料となり、早晩、ユーロ離脱の可否を決めざるを得ない状況となりそうだ。

豊島逸夫(としま・いつお)
豊島逸夫事務所(2011年10月3日設立)代表。11年9月末までワールド ゴールド カウンシル(WGC)日本代表を務めた。
 1948年東京生まれ。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラーとなる。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験をもとに金の第一人者として素人にも分かりやすく、独立系の立場からポジショントーク無しで、金市場に限らず国際金融、マクロ経済動向についても説く。
ブログは「豊島逸夫の手帖」http://www.mmc.co.jp/gold/market/toshima_t/index.html
ツイッター(http://mobile.twitter.com/search?q=jefftoshima)ではリアルタイムのマーケット情報に加えスキー、食べ物など趣味の呟きも。日経マネーでは「現場発国際経済の見方」を連載中。日本経済新聞出版社や日経BP社から著書出版。業務窓口は jefftoshima@hyper.ocn.ne.jp

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