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二刀流の元祖B・ルース、100年後に偉業追う大谷

スポーツライター 丹羽政善

1915年5月6日――今からちょうど100年前のその日、通算714本塁打を放ったベーブ・ルースがメジャー第1号を記録した。場所はニューヨークのポロ・グラウンズ。今のヤンキースタジアムに近く、ハーレム川を挟んだ西側にあった。

フィールドは馬のひづめの形をしており、センターまでは距離があるものの、当時は左翼までが279フィート(約85メートル)、右翼までが257フィート(約78.3メートル)と両翼が極端に狭い。ルースはその恩恵を受けたのでは、との見方があるかもしれないが、打球はライトの2階席に消えたそうだ。

最初は「打撃の良い投手」の位置づけ

ルースは、プロ2年目の20歳。当時はまだレッドソックスの先発投手で、ヤンキースへ移籍するのはその5年後のことになる。その試合ではサヨナラ負けを喫したが、延長13回を投げ切った。

さてその年、彼がどう起用されていたか。6月までを調べるとざっとこんな感じである。

▽4月
 16日=先発・4回。24日=リリーフ・3回1/3。26日=先発完投。29日=代打
▽5月
 6日=先発完投(延長13回)、初本塁打。11日=先発・5回2/3。16日=代打。19日=リリーフ・3回1/3。21日=代打。22日=先発・1回KO。29日=先発・8回2/3
▽6月
 2日=先発完投、2号本塁打。17日=先発・7回1/3。19日=代打。21日=先発完投。25日=先発完投、3号本塁打。29日=先発完投(延長10回)

先発あり、リリーフあり、代打あり。その後8月19日には代打で出場し、そのままリリーフするということもあった。その年は結局、18勝8敗、打率3割1分5厘、4本塁打。この年を見る限り、あくまでもルースは打撃の良い投手という位置づけか。2000年代、カブスのカルロス・ザンブラーノがまさにそんな投手だった。たびたび代打で登場、06年には6本塁打を記録している。

その後2年間、ルースの出場パターンにさほど変わりはない。翌16年は41回先発(その年のメジャー最多)し、23勝12敗、防御率1.75。打つ方は代打に限られ、打率2割7分2厘、ホームランは3本だった。17年は24勝13敗、防御率2.01。投球回数は326回1/3(キャリア最多)で、リーグトップの35完投(38先発)をマークしている。打撃の方ではホームラン2本に終わったものの、3割2分5厘と高い打率を残した。

二刀流に舵、投打ですさまじい出番

こうして改めて彼のキャリア初期を振り返ると、ホームランバッターというよりむしろ、球界を代表するようなピッチャーといえる。ボールが飛ばず、投手優位の「デッドボール」時代だったとはいえ、16年には9完封をマークし、防御率のタイトルを獲得している。

それほどの投手が、どんな経緯で二刀流に舵(かじ)を切っていくのか。転機は18年に訪れる。その前年、米国が第1次世界大戦に参戦すると、選手の出征、あるいは彼らが軍事工場にかり出されることが相次ぎ、翌年、レッドソックス打線に穴が開いた。このときルースも毎日プレーすることを望み、チームとの思惑が一致。投げない日は野手として出場するようになった。

その年、くしくもメジャー初本塁打をマークしたのと同じ5月6日に初めて野手として出場すると、本塁打を放っている。場所も同じポロ・グラウンズだった。その頃の出場ペースはといえば、今の常識を超える。4月はこれまで通り先発しない日は代打だったが、二刀流が始まった5月からは以下のパターンで出場している。

▽5月
 4日=先発完投。6~8日=一塁。9日=先発完投(延長10回)、5打数5安打。10日=左翼。11日=一塁。15日=先発完投。16~18日=左翼

6、7月は野手中心の出場となったものの、定期的に先発した8月はすさまじい。試合のなかった日、休みだった日も組み入れて出場記録を見てみた。

▽8月
 1日=先発完投。2、3日=左翼。4日=ダブルヘッダー第1試合・先発完投(延長12回)、第2試合・左翼。5日=試合なし。6、7日=左翼。8日=先発完投。9日=試合なし。10日=ダブルヘッダー2試合とも左翼。11日=試合なし。12日=先発完投。13日=試合なし。14日=休み。15、16日=左翼。17日=先発完投。18日=試合なし。19日=左翼。20日=先発・7回。21~23日=左翼。24日=先発完投。25日=試合なし。26~28日=休み。30日=ダブルヘッダー2試合とも左翼(1試合目は途中で交代)。31日=ダブルヘッダー第1試合・先発完投、第2試合・途中出場

試合のなかった日が6日、休んだのが4試合。あとは全試合でほぼフルイニング出場している。4日はダブルヘッダーの第1試合に先発し、2試合目は左翼の守備についた。ともにダブルヘッダーだった30、31日は計4試合に出場。31日の第1試合では先発して完投している。

投手として13勝、打撃では本塁打王

後ほど日本ハムの大谷翔平の出場パターンを紹介するが、これでは比較にならない。おそらく栗山英樹監督が大谷の二刀流を認めたとき、最大限に生かせる起用を模索したはずだが、ルースの出場パターンなど参考にならなかったのではないか。

その18年、ルースは結局、投手として13勝7敗、防御率2.22という成績を残し、打者としては317打数95安打で打率は3割ちょうど。11本塁打はリーグ最多で、投手がタイトルを取ってしまった。

この年の2桁勝利、2桁本塁打がいかに特殊だったかは、今もメジャーでは並ぶものが現れないことでも分かる。ただ、そもそも今の大リーグは二刀流に否定的で、そうした選手が絶滅してしまった。大学ぐらいまではそんな選手がいるが、メジャーのチームにドラフトされると、投打のどちらかに絞る。高いレベルで二刀流を続けることは失われた概念だ。

だからこそ昨年、96年ぶりに大谷が2桁勝利、2桁本塁打を記録すると、米国でも話題になったわけだ。日米野球にも出場すると、米メディアだけでなく大リーガーらも注目。残念ながら打席に立つことはなかったものの、11月というシーズンオフに100マイル近い速さの球を投げたことでインパクトを残した。

その大谷はどうやって2桁勝利、2桁本塁打を記録したか。昨年の起用法の一端を開幕から2週間と7月の2週間を選んで紹介する。

▽3月
 28、29日=右翼。30日=指名打者
▽4月
 1、2日=休み。3日=先発投手。4日=休み。5、6日=指名打者。7日=試合なし。8日=指名打者。9日=代打。10、11日=休み。12日=先発投手
▽7月
 1日=休み。2日=先発投手。3日=休み。4日=試合なし。5、6日=指名打者。7日=試合なし。8日=休み。9日=先発投手。10日=休み。11日=代打。12、13日=左翼。14日=試合なし

こうして見ていると、起用法には一定のパターンがあって、先発の前後には試合のない月曜日なども利用し、2日ほど休みを設けている。登板の間の野手としての起用は3日間。指名打者が多く、昨年の場合、守ったのは8試合にとどまった。

二刀流は「長く続けられると思わない」

よく計算されていると思う。先ほども触れたように、前例があればそれを基に選手の状態も加味しながらアレンジすればよい。ただ、前例が同じ日の1試合目に完投して(しかも延長!)、2試合目は野手としてフルイニング出場するようなルースだったのである。選択肢として検討さえされなかったのではないか。おそらく日本ハムとしては今後も同様の起用法を継承していくのだろう。今年のパターンを見れば、それが分かる。

さてこうなってくると、誰もが気になるのは大谷の今後である。二刀流を続けるのか、どちらかに絞るのか。1年目から二刀流を続けている大谷に対し、ルースの場合は投手から徐々に打者にシフトしていった。19年には投手として9勝をマークしているものの、実際には打者としての比重が勝った。いくつか背景がある。

まずはルースが毎日プレーすることを望んだ。彼は先発しない日、じっとベンチに座っているのが耐えられなかったという。2つ目はチーム事情。戦争に選手を取られ、打線の穴を埋めるため18年から野手としての出場機会が増えたことにはすでに触れたが、19年はチームがシーズン序盤で優勝争いから脱落。球場に客を呼ぶには、ルースを毎日出場させる必要があった。

3つ目。ルース自身のこんなコメントが残っている。「人間が定期的に先発登板して、投げない日は野手として出場することを何年も続けることはできないと思う。1年ならよい。今は若いし、力がある。練習も苦にならない。でも、長く続けられるとは思わない」(ベースボールマガジン=18年10月)

左腕に痛み、自然な成りゆきで打者に

18年の6月と7月に、合わせて5回しか先発登板していないのは、左腕の痛みもあったとされる。その年、13勝にとどまっているのはその影響だろう。いずれにしてもルースは、将来的に両方を続けていくことは体力的に限界があると判断。19年に29本塁打を放つなど、打者としての実績を築いた半面、左腕の状態が以前と同じではなかったこともあり、そこからの打者転向は自然な成りゆきだったのかもしれない。

大谷にも今後、どこかでそんな分岐点が訪れるのかどうか。ルースのように限界を感じるときがあるのかもしれないし、あるいは選択を迫られるのかもしれない。

現時点でメジャーに挑戦するとしたら、おそらく投手に専念してくれといわれるはず。ただ例えば5年後、メジャーのスカウトらも投手か打者に絞れず、両方をやらせてみたいという誘惑に駆られるほどの選手になっていたら……。

間もなく米大手スポーツサイト「ESPN.COM」にもルースに絡めた大谷の記事が出る。米メディアが大谷の二刀流をどう捉えるのかも興味深い。

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