重大事故時の放射線測定にドローン 電力各社

電力会社が原子力発電所の安全な稼働を目指し、最新IT(情報技術)の活用を始めている。従来手法では難しかった原子力発電所の周辺海域の調査や設備監視に、ドローン(無人飛行機)やビッグデータ解析の技術などを使う。
中部電力は、浜岡原子力発電所で事故が起きた場合に、周辺海域で放射性物質などを調査する目的でドローンを導入する。2016年9月の運用開始を目指して運用試験を進める。中国電力は、建設中の島根原子力発電所3号機に、ビッグデータ解析技術を使って故障予兆を検知するシステムの導入を決めた(写真1)。
非常事態にドローンが出動して放射線を測定

中部電力は2015年3月、原発で重大事故が発生した事態を想定して、ドローンを使って周辺調査する飛行試験を実施した(写真2)。
同社の狙いは、浜岡原子力発電所が面する海域でドローンを飛行させて、放射性物質の濃度や放射線量を調査することだ。
原子力規制委員会の新規制基準では、原発で重大事故が発生した場合に、流出する放射性物質の濃度や放射線量を監視、測定、記録するための設備を設けることを要求している。
同発電所では現在、放射線を測定する専用の設備を用意している。発電所の敷地内7カ所に設けている「モニタリングポスト」と、敷地外14カ所の「モニタリングステーション」だ。「これらの陸地に設けた設備では、海域の調査ができなかった」(中部電力)。これに対し、ドローンを使えば、発電所が面する海域や周辺地域を、空から調査できる。
使用するドローンはGPS(全地球測位システム)や高度計を内蔵しており、あらかじめ設定した飛行経路や飛行時間に沿って、自動で飛行する。試料採取用の機器や放射線測定器を搭載することで海面上や海水中の試料採取や、放射線測定が可能となる。
中部電力は国内のラジコンメーカーであるエンルートが開発するドローンを使用する。飛行試験を通して、調査に使用するドローンの仕様や効果を確かめ、2016年9月の運用開始を目指す。
2500種のビッグデータから故障の予兆を検知
中国電力は、島根原子力発電所3号機に「故障予兆監視システム」の導入を決めた。各種センサーで収集したデータを基に故障を予兆する。同システムはNECが提供する。島根原発3号機は建設中で、完成には原子力規制委員会の新規制基準に合格することが必要だが、「時期は未定」(中国電力)だ。
同システムは2014年6月、島根原発の2号機に導入されている。原子炉やタービン、発電機、ポンプ、配管などの設備に設置されているセンサーから、温度や圧力、流量、振動など、合計で約2500種類のデータを収集する。蓄積した各種データから相関関係を導き出し、安定稼働状態のモデルを作成する(図)。

安定稼働モデルと、リアルタイムに原発の設備から収集しているデータを比較して、その違いから故障予兆を検知する。原発の設備から収集したデータがモデルから外れた異常な挙動を示せば故障の予兆とみなす。同発電所では、これまでもセンサーで各種データを収集してきたが、一定の値を超えたら異常と判断するという単純な方法に頼っていた。
東日本大震災以降の2011年8月から2012年11月にかけて、中国電力はNECと共同で、蓄積してきた発電設備のデータを使い、異常を検知する実証実験を実施した。2012年10月には、島根原発のポンプや電動機といった訓練用設備で模擬的に故障を発生させ、異常を早期に検証する試験を実施している。
中部電力と中国電力は、センサーやドローンを使ってデータを収集し、原発を安全稼働に利用する計画に積極的だ。原発自体の稼働はまだ未定だが、安全稼働を目指して最新ITを使う取り組みは今後とも加速しそうだ。
(日経コンピュータ 岡田薫)
[ITpro 2015年4月28日掲載]