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「1番鳥谷」の理想捨てた阪神、浮上の兆し

開幕から1カ月が経過し、前評判が高かった阪神がつまずいた。7年ぶりに開幕3連勝を飾ったものの、その後は6連敗を喫するなどしてリーグ5位。特に低調な打線が足を引っ張った。首脳陣は開幕当初の方針を転換して打順を組み替えるなど試行錯誤。チーム打率はいまだにリーグワーストの2割3分6厘だが、ここに来て持ち直しの兆しも出てきている。

開幕14試合目で3番鳥谷に戻す

「点を取らないことには活気も出てこない」。11日の広島戦後、6連敗を喫した和田豊監督の表情は険しかった。福留孝介が右越えソロと適時打を放って存在感を示したが、先発・黒田博樹を打ち崩せず2-7の完敗。貧打が投手陣にプレッシャーを与える悪循環に、「点を取れないから投手も踏ん張りきれない。それがずっと続いている」と嘆き節も聞かれた。

連敗中の平均得点はわずか2点。この状況を打破しようと、和田監督が翌日下した決断が、キャンプからこだわってきた「1番鳥谷敬」の見直しだった。「鳥谷の状態は悪くなかったけど点が取れなかった。打順を変えることで動きらしきものを出したかった」。12日の広島戦では西岡剛と入れ替える形で3番に据えた。

開幕から14試合目というタイミングで昨季までの定位置に戻したのは、ほかの選手の調子も考えての相対的な判断だった。実際、この試合は鳥谷が八回に逆転2ランを右翼席にたたき込んで連敗をストップ。打線の組み替えがすぐに実を結び、暗い雰囲気のチームにかすかな光が差し込んだ。

「1番鳥谷」は今季の看板だった。昨季、鳥谷の出塁率は4割6厘。和田監督はポイントゲッターとしてだけでなく、リードオフマンとしての適性を買っていた。指揮官の頭の中では2番上本博紀と2人で好機をつくり、昨季打点王のゴメスと首位打者のマートンで得点するパターンが描かれていただろう。3月27日の開幕戦では八回に上位が機能して同点劇を演出。延長十回のサヨナラ勝ちにつなげていた。理想の展開でシーズンが始まり、首脳陣には手応えもあったはずだ。

1、2番に上本と西岡を指名

ただ、新打線の効果も長くは続かなかった。上本の不振で連動性を欠くと打線は停滞。意外と早く「1番鳥谷」に見切りを付けたのは、このままズルズルいけない、という監督心理が働いたからだろう。

鳥谷本人は「気持ちに変化はない」とそっけないが、チーム全体のことを考えれば、確かに3番の方が収まりはいい。1番に座っていた13試合のチーム打率が2割2分3厘だったのに対して、3番で出場した11試合は同2割5分1厘と大幅に改善。各選手の状態が上がってきたという面もあるが、打線が活性化していることが数字を見てもわかる。

3番が固まると和田監督はさらに打線を組み替え、1、2番に上本と西岡を指名した。西岡の2番起用は阪神移籍後初めての試みだった。「2人でいろいろな攻撃ができる」。初めてコンビを組んだ16日の中日戦では初回にいきなり連打を放ち、一挙4得点の足がかりとなった。西岡は六回にも勝ち越し打。今季最多の13安打と活性化した打線に対して「(上本の1番起用は)兆しが見えていた。久々につながったな」と和田監督。ようやく今季の攻撃の形が見えてきたことにほっと一息ついた。

右打ちを得意とし、とにかく粘り強い1番と勝負強く、何を仕掛けてくるかわからない不気味な2番。ヒットエンドランなど攻撃のバリエーションが増えるという意味でも、新たなコンビは相手にとってなかなかのくせ者だろう。西岡も「監督も攻撃的な2番を求めていたと思う。それを理解して出ているつもり」と新たな役回りにやりがいを感じているようだ。

上位打線固まり、状態上向く

ただ、攻撃的な2番にはリスクも伴う。その一端が垣間見られたのは18日の巨人戦。2-1の七回無死一、二塁でベンチは西岡に送りバントを命じたが、スリーバント失敗で三振に終わった。翌日も同点の八回無死一塁で2球続けて(1球は見逃し)バントを失敗。

このときは追い込まれてから左前打を放って勝ち越し点を呼び込み結果オーライとなったものの、見過ごせないミスだった。積極性はいいが、1点を争う場面では手堅い戦術も必要。状況に応じた攻撃ができれば、さらに2番としての存在感が高まってくるだろう。

とはいえ、ようやく上位が固まったことで打線の状態は着実に上向いている。上本は今の打順に定着してから打率が上昇。西岡にいたっては打率3割台に乗せて好調を維持している。主砲のゴメスも22日に今季初の3安打と自己最長の6戦連続打点を記録。現在は9試合連続安打中と本来の姿を取り戻し、安定感が出てきた。

あとはマートンの復調待ち。打率2割台前半と低迷していたが、26日には先制二塁打を含む3安打。今季初の固め打ちで復調のきっかけをつかみかけている。

昨季リーグ2位から日本シリーズに進出したチームだけに、各選手が額面通りの働きをしてくれれば4つの借金もすぐに返済できるだろう。和田監督は「今は我慢の時」と繰り返してきた。まだシーズン始まったばかり。この苦境を乗り越えれば、おのずと浮上の機運は高まってくる。

(渡辺岳史)

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