女子プロも納得 体の重さ使って飛距離アップ(上)

北野 今日は飛ばしをテーマに下川めぐみプロと対談することになりました。下川さんは飛距離が出ないために引退も考えるぐらい悩まれて、幸運にも私がコーチを始めた昨年の5月から飛び始め、その後はほとんどの試合で予選を通過、初めてシードを獲得できました。重責を担った私としてはとてもよかったと胸をなで下ろしています。今日は下川プロのキャディーを務められているご主人の下川正さんも、インストラクターでもあり、私の教えをとても理解してくださっていることもあって、対談に加わっていただこうと思います。
■コーチから「飛距離は諦めなさい」
下川めぐみ(以下、下川) 本当に北野さんのおかげで飛ぶようになり、その結果シードを獲得できました。私は2007年にプロになり、ここ数年はレギュラーツアーには全戦出場してはいるものの、シードが取れず、苦しい戦いが続いていました。若い女子プロが下からどんどん上がってきて飛ばすものですから、私の飛距離ではいつまでたってもシードは取れないと思い始めていたのです。
北野 それまでのドライバーの飛距離はどれぐらいだったのでしょうか?

下川 飛んでも220ヤードぐらいでした。ですから、長いパー4になると、セカンドでスプーンを使ってもグリーンに届かない。ランが出ない雨の日などはとても大変で、必死に寄せてパットをねじ込む。自分ではこれ以上はないというプレーをしても予選を突破できないことがあって、もはやこれまでと思ってしまったわけです。
下川正 飛距離があれば、パーオンも増えるし、バーディーも増える。当然スコアは良くなるわけで、下川の問題は飛距離にあることは明白でした。
下川 そこでいろいろな方に習うわけですが、「飛距離よりもショートゲームをもっと磨きなさい」と言われたり、周囲からも「曲がらないんだからいいじゃない」と言われたりして、「でもそれではダメなんです」と訴えてもなかなか理解してもらえませんでした。あるコーチからは「飛距離は諦めなさい。飛距離にこだわるならプロゴルファーをやめなさい」とまで言われたこともありました。
下川正 下川は体が小さいこともあって、見た目で飛ばせないと思うのかもしれませんが、小さくても飛ばせる人はたくさんいます。プロゴルファーを続けていくためには稼がなければなりませんし、それには飛ばしを諦めるわけにはいかないのです。
■予選落ち多く、目の前が真っ暗に
下川 そこで、昨年のオフには何でもいいから飛ばしたいと、ドラコン王の方に教えを請いました。その方は右足体重で飛ばせと言うのですが、これまでの私の打ち方とは真逆という感じでうまく打てず、空振りもするほどでした。でも、それは練習が足りないからだと思って、猛練習を行ってようやくドライバーが打てるようになりました。しかし、今度はアイアンがまったく当たらない。試合が始まるとアプローチがザックリばかりになって、ボギーオンさえできない。当然予選落ちです。それも最下位で予選落ちしてしまいました。
下川正 下川はものすごく練習するプロで、女子ツアーでは誰よりも練習しています。そんな彼女でも根底から違うことをやれば、壊れてしまうということです。スイングを改造するということは一朝一夕にはできないことだといわれますが、それにしてもここまでひどくなると、迷いが出ます。初心者みたいなゴルフになってしまったのですから。

下川 その頃に知人から「北野さんというプロがいるよ、紹介しようか」と言われたわけですが、この時点でコーチを代えるのも怖いし、これまで何人もの方に習ってうまくいかないため、コーチ不信にも陥っていました。
そこで、元のスイングに戻して戦おうと思うのですが、今度はそれさえもままならない。3月の開幕戦から2週連続の予選落ちのあとも、たびたび予選落ちを喫して、目の前が真っ暗になって、とうとう4月末、フジサンケイで予選落ちをした翌週の月曜に北野さんにお会いしたというわけです。
■まず心から、コーチイップスを改善
北野 下川プロに私を紹介した人は私からゴルフを習っているアマチュアの方で、40歳を過ぎてからゴルフを始めて、2年でシングル級の腕前にもなっています。私はこれまでアマチュアの方を教えてきたので、プロを教えることには抵抗がありました。その理由は、プロならば誰もがこれまで自分が信じてやってきたものがあるはずですし、ゴルフが職業なのだから生活がかかっている。ですから、教えるからにはこちらも大きな責任があります。だからやるとなれば、こちらも覚悟を決めなければならないと考えていました。
下川 初めてお会いしたのは、北野さんが月曜だけ教えているという埼玉県にある松原ゴルフガーデンという練習場でした。レッスンが始まる前にお話ししたのですが、そのときに北野さんが「今ここで、レッスンが終わったら、僕に習ってよかったと思うようにしてください」と言うわけです。顔を合わせたばかりで、まだレッスンも始まっていない。それなのに、良くなると思ってほしいと言うのです。これにはびっくりしました。
北野 下川プロは多くのコーチについてうまくいかなかったというトラウマを抱えていて、言ってみればコーチイップスにかかっているわけです。つまりはコーチを信頼できない気持ちがすでにある。だからこそ、うまくなると信じてもらわなければ、良い教えであっても身につきません。半信半疑ではうまくはなれない。そこであえて教える前から「うまくなると思ってくれなければ教えません」と言いました。
下川 北野さんは技術を教えるだけでなく、心を教えてくれる人だと知人から聞いていたので、その言葉に納得して、私も覚悟を決めることができました。こうしてレッスンが始まりました。
■ヘッドスピード上昇だけでは飛ばず
下川正 まずは下川がドライバーで何球か打ちました。それを見て北野さんが言いました。「簡単に飛ばせるようになるよ」と。下川も僕も目が丸くなりました。これまで多くのコーチに教えを請うてうまくいかなかったのに、いきなりそう言われたのですから。でも、もう信じると決めたので、その言葉を信じるしかありません。
北野 下川プロのスイングを見て、飛ばない打ち方をしていることがすぐにわかりました。飛ばすための体の使い方をしていないのです。つまり、飛ばすエネルギーの使い方をするだけで簡単に飛ばせるようになるはずなので、「技術で飛ばせますよ」と言いました。
下川 私自身は飛ばすつもりで振っていたのに、実は飛ばない打ち方だったというわけです。

北野 下川プロは速く腕を振れば飛ぶ、速く体を回転させれば飛ぶと考えているなと思いました。つまりヘッドスピードが速くなれば飛ぶはずだと。でも、そんなことでは飛ぶようにはなりません。実際に私も研修生の頃はまったく飛ばなくて、懸命にクラブを振っているのに200ヤードしか飛ばなかった。しかし、体の使い方がわかってきてから飛ぶようになって、今では270ヤードも飛びます。
下川正 北野さんは全然力を入れていない。軽く振っているように見えて、あの飛距離ですから驚きます。
北野 力を入れたらもっと飛ばなくなります。力感が強いとエネルギーは弱くなり、力感がないほどエネルギーは強くなります。つまり、力感をなくすスイングが大きなエネルギーになるわけで、そのためには体の重さの使い方を知ってもらう必要がありました。そこで、まずはクラブを引っ張ったり、押してもらったりしました。
■体の重さ使い、引く・押すの動作で振る
下川 まずは北野さんがクラブを体の前に突き出して「引っ張ってください」と言うのです。私なりに引っ張っても北野さんはびくともしません。そこで、次は私が同じようにクラブを持って、北野さんが引っ張ります。そのとき、北野さんはクラブを引っ張るというよりも体を後ろに倒します。でも、それだけで私は前のめりになってしまうのです。
北野 つまりはそれが自分の体の重さを使うということです。下川プロは腕でクラブを引っ張ろうとします。するとへっぴり腰になるから余計引っ張れない。それよりも体全体を倒せばいいわけです。綱引き大会などを見ると、強いチームは全員がそうした体勢になっています。体を後ろに倒して引っ張っています。
下川 押す動きも体の重さを使うわけですよね。手の力で押そうとしてもまったく押せない。それを体ごと前に傾ければすごい力が出ます。

北野 手で押そうとすると、肘を曲げておいて、それを伸ばして押そうとします。腕の筋肉を使って押そうとするのです。しかし、それでは大して押せない。筋肉の力なんて大したことはないわけです。それよりも腕を伸ばして、そのまま体ごと前に傾ける。そうすれば体重をヘッドに乗せていくことができます。骨で押す感覚があると思います。筋肉を使うのではなく、骨を使うと言ってもいいです。
下川 つまり、北野さんが言いたかったことは、体の重さを使って、引くと押すの動作でスイングしてみてということでした。
北野 スイングの進行方向に体を傾けるということです。そうすればボールが飛ぶ方向に力を発揮できます。ダウンスイングでは体を後ろに倒すように左に引っ張り、そのまま今度は体を前に倒すように左に押してインパクトするわけです。そうすれば力など使わなくても大きなエネルギーが出ます。
下川正 本当にたったそれだけのことで、下川が打つ球の打球音がまったく変わったんです。当たりに厚みが出て、強く重い音になりました。
下川 私はこんなに突っ込んじゃっていいのかと思いましたが、あとで撮影した動画を見たらごくごく普通なんです。それなのに、打球がこれまでとまったく違うので驚きました。
(次回掲載は5月4日 文:本條強 写真:大森大祐)