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巨人・阿部コンバート 仕事減でも負担減とは限らず

今季、一塁手としてスタートした巨人の阿部慎之助が開幕から10試合もたたずに捕手に戻された。後継の正捕手として期待された小林誠司の力量や、故障による相川亮二の離脱といったチーム事情も絡んでいるのだろうが、最も大きな要因は一塁手としての阿部の練習不足、準備不足にあったと思う。

一塁守備への不安、打撃にも悪影響

捕手は確かに重労働だ。守りではひっきりなしにリードのことを考えなければならず、休む暇がない。ファウルチップやクロスプレーなどケガの危険にも多くさらされる。阿部も36歳。今後の選手寿命を考えればコンバートで守備の負担を減らし、打撃に専念させようという発想はよく分かる。しかし捕手から野手になるのは、そう簡単ではないのだ。

僕も入団した時は捕手だった。当時の捕手はとにかく守備が第一で、打撃練習はほとんどしなかった。それでいて相手打線を抑えれば手柄は投手、打たれればすぐに「捕手のリードが悪い」と言われる。僕は打つのが得意だったし、そもそも捕手に不可欠な自己犠牲の精神が薄い。コーチに「早くやめさせてほしい」と訴え続け、入団から7~8年かかってようやく野手になれた。

一塁手の守りは捕手とはかなり違う。阿部の場合、強いゴロが来ると、捕手のときのクセが出て反射的に両膝をついて止めにいってしまっていた。大事に捕りたい場面では特にそうだ。しかしこれでは後逸は防げても、捕球できる確率が減る。実は一塁の守備は、もう少しアバウトにグラブを出した方がいい。それで捕れるようになるまで練習を積むべきで、阿部はそこまで至っていなかった。

記録に残らないものも含め、阿部は痛いところで守りのミスを重ね、一塁守備への不安から打つ方にも悪影響が出ていた。打撃を生かすためのコンバートなのに、これでは本末転倒だ。捕手に戻した途端に打ち始めたのは身体の負担が増えても、心の負担が減ったからだ。長年主婦をしていると、家事をしなくていい旅先でかえって気疲れするという人がいる。捕手も「女房」というではないか。当面は勝手知ったる捕手で阿部を使いつつ、もう少し長い目で一塁へのコンバートと、小林への引き継ぎを考えることになるのだと思う。

DH、打撃専念でも打つのは難しく

捕手は一人前になるまでに時間がかかる。守りだけでなく打撃もそう。ある程度は目をつぶって使い続ける覚悟が必要で、阿部もそうやって使われ、あれだけのすごい選手になった。小林も力はあるのだから経験を積めば、しっかりやれるようになるはずだ。

最近は「打てる捕手」が増えてきた。攻守でチームの中心という彼らだが、捕手としての仕事が負担になるとは限らず、むしろ打撃にプラスに働いた例が多いように思う。捕手をしていれば配球の読みは良くなるし、一流打者の技術を間近で観察して自分の打撃に取り入れることもできる。元ヤクルトの古田敦也さんは好例だ。楽天の嶋基宏も入団当初は情けない打撃をしていたが、今ではかなり打つようになった。

逆に、打撃に専念すればより打てるようになるかというとそう簡単ではない。典型は僕もパ・リーグで経験した指名打者(DH)だ。「守らなくていいから楽だろう」と言う人も多いが、分かってないなぁと思う。普通の野手なら守備に就いて体を動かし、試合の流れに入っていける。

DHは違う。特に楽天では仙台の寒さが難敵だった。ベンチでじっとしていたのでは体が冷える。だからといって厚着をしては動けなくなる。体を暖めた状態でどう打席に入るかに知恵を絞った。

労働時間少ない代打、1打席が重く

ひっきりなしに動くのはもちろん、出番寸前までユニホームのままベンチ裏のサウナに入ってみたこともあった。温度差が大きすぎてかえって寒さが身にしみ、失敗に終わったが。最終的に編み出したのが小さなカイロをわきの下や背中など5~6カ所に貼っておくというやり方だ。これだとスイングの邪魔にもならないし、いい具合に体が暖まる。

こんなささいなノウハウでもそれを探し当て、DHに慣れるまでに3~4年かかった。星野仙一監督には「体がなまるから守れ」と言われ、一塁に入ることも多かった。疲れは増したが、適度に動くと体にキレが出て、よく打てた。

試合への入り方でいえば、オリックス時代のレオン・リー監督代行は前日の試合後に翌日の先発メンバーをホワイトボードに書いておいてくれた。ほとんどの監督は試合当日にメンバーを発表する。どうして前日なのかと聞いたら「前の晩から準備ができるじゃないか」と答えた。助走区間が伸びたようで、とてもありがたかった。

DH以上に労働時間が少ないのは代打だ。1試合に1打席、1週間に2回ほどしか出番がないというのもざらにある。だからといって楽かといえば、とんでもない。打席が少ないということは1打席がそれだけ重いということだ。レギュラーなら4打席立って3打数1安打1四球で十分だが、代打には1打席での成功が求められる。3割打てば上等な打撃でこのハードルは高い。1打席にかける準備はレギュラーの数十倍に及ぶ。しかも失敗すると挽回の機会がしばらく来ないことも多いから、悶々(もんもん)とすごすことになる。

1次試験で最難題課されるプロ野球

代打は若手選手の試験でもある。最初は先発投手が早い回で崩れた場面などで使われる。とりわけチャンスというわけでもなく相手投手には余裕があるから、ここで打つのは簡単ではない。結果を出せば好機での代打、先発出場の機会が与えられ、レギュラー獲得への道が開ける。

1次試験で一番難しいことが求められるのがプロ野球の世界だ。仕事量が減れば負担も減るという単純な比例関係が成り立たないのも、納得してもらえるのではないだろうか。

(野球評論家)

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