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ドイツに見たスポーツの価値 日本、付属物の殻破れ

4月5日に開幕した四国サッカーリーグを私がオーナーのFC今治(愛媛)は3連勝で滑り出した。12日の第2節はホームで最初の試合を迎え、880人のお客さんが足を運んでくれた。クラブのトップとしては、とにかく大きなトラブルもなく終えたことにほっとした。

監督時代はチームの勝ち負けのことで頭の中はいっぱいだったけれど、オーナーになるとそれにプラスしてお客さんの入りのことを考えないといけない。12日のホーム開幕戦は、そういう意味では初めて体験する類いの武者震いに襲われた。

努力が結実、クラブ史上最多の入場者

四国リーグの試合でこれまで入場料など取ったことはないから、チケットセールスを基に来場者を予測することはまったくできなかった。となると、試合会場にどれだけの人員を配置し、どんな設備を用意していいかが分からない。うちのホームの「桜井海浜ふれあい広場サッカー場」は500人もお客さんが来たら満杯になる。そこに収容能力を超える人が押し寄せてくれたらすごくうれしいことではあるけれど、お客さんの安全を第一に考えたら恐ろしくもあった。

「大勢のお客さんに見てもらいたいけれど、大勢過ぎても困る」――。そんな相反する感情の間で試合前日から私自身が揺れ続けていた。

せっかく来ていただいたお客さんに「座る場所がないからお引き取りください」では申し訳が立たないのでキャパシティーを可能な限り、広げる対策を立てた。長イスを多めに用意し、仮設のトイレも設営した。プレーに支障がない範囲でピッチ上も開放、ビニールシートを敷いて座ってもらえるようにもした。そういうクラブに携わる人々の全員の努力が900人弱という、FC今治にとってクラブ史上最多の来場者につながったのだと思う。

ありがたかった愛媛FCからの援軍

ただ、もろ手を挙げて喜んでばかりもいられない。警備員や仮設トイレとか、昨シーズンまでなら必要のないものまで手配することになり、1試合で100万円ほど出費がかさんでしまった。ホームゲームは年間7試合。この調子でホームゲームの運営にカネをかけるわけにはいかない。うちのような小所帯のクラブに700万円は間違いなく大金。早急に善後策を講じる必要がある。

初めてのホームゲームを大きなトラブルもなく終えられたのはJ2(Jリーグ2部)の愛媛FCが運営を手伝ってくれたことも大きかった。プロでないと分からない、こまごまとしたところまで目配りをして運営をサポートしてくれた。こちらは四国リーグ、向こうはJ2。番付でいえば月とスッポンとはいえ、同じ県内の競争相手になるかもしれないクラブに塩を送ることはなかなかできることじゃない。

四国の、愛媛のサッカーの発展のために、大所高所から判断してスタッフを貸し出してくれた愛媛FCの関係者の皆さん、特に豊島吉博社長には心からのお礼を述べたい。将来的には衝突のダービーマッチではない、新しい共生のダービーマッチができたらと思う。

試合後、お客さんの数を発表する段になってスタッフからは「900人弱」という報告があった。「末広がりの880人でいいですか」というから「それでいいよ」と答えた。数字の水増しはいけないけれど、縁起を担いでの少なめの発表なら許されるだろう。

奇妙なクラシコにバルサの徹底見る

四国リーグの戦いに突入する前、3月はドイツ、スペインを視察して回った。スペインでは「クラシコ」と呼ばれるFCバルセロナとレアル・マドリードの一戦を中継する放送局の解説をした。

スペインの2大巨頭のダービーマッチは常に熱い戦いになるが、今回はいつもと違う、奇妙なクラシコになった。ボールをポゼッションして攻め込むのはレアルで、バルサはカウンターを狙うという、いつもと逆の構図になったのだ。まあ、そういう戦いになることはバルサがウルグアイ代表のストライカー、スアレスを獲得し、アルゼンチン代表のメッシ、ブラジル代表のネイマールと3トップを組ませる方向性を打ち出した時点である程度、予想がついたことではあるのだが。

ある意味、そこにバルサの徹底を見ることはできる。選手補強のベクトルと実際のピッチでやらせるサッカーのベクトルは一致しているわけだから。従来の、僕らがイメージするバルサのスタイルを貫くなら、それに沿った選手補強をしなければならない。スアレスをリバプールから今季獲得してメッシ、ネイマールと組ませることを決めた時点で、今までと違うやり方でやると決断したわけで、監督のルイスエンリケはその難しい作業を立派に果たしていると思う。

熱きドイツ人、レベルに関係なく応援

ファンも信奉する「バルサ・スタイル」という明確な戦い方がある中で、それからちょっとでも外れるようなことをするには相当な勇気がいる。口で言うほどそれは簡単なことじゃない。

レアルはMFのキーマン、クロアチア代表のモドリッチの動きが落ちた中盤以降に生気を失った感じだった。ケガ明けのモドリッチのガス欠から中盤のプレスが緩くなったように思う。動きが落ちて陣形が間延びすれば、バルサの強力3トップが暴れるスペースを与えることになる。日ごろ、チームとしてそこまでフルにプレスをかけ続ける試合をしていないマイナス面がレアルに出たように感じた。

奇妙なクラシコより欧州視察で驚いたのはドイツで受けた衝撃だったかもしれない。3月のドイツは場所によってはまだ寒く、ぶるぶる震えながら試合を見たが、それに負けない熱気がスタジアムに充満していた。

正直、つまらない試合も中にはあった。「こんな相手なら日本のJクラブだって負けないぞ」と思うチームもあった。しかし、満員のお客さんは試合のレベルに関係なく大きな声をあげて応援し、最後まで帰り支度を急ぐこともなかった。私なんか「寒いし、つまらないし、途中で帰ってやろうか」と何度も思ったのに。

どうしてこんなに熱いのか。

男臭さ排し家族共通のスタジアムに

基本的に社会の構造が違うというのはある。キリスト教のドイツでは安息日である週末は、いろんな店舗が閉まっている。暇な週末をどこで過ごすかとなったとき、スポーツ施設、特にサッカー場は最高の受け皿になる。その点、日本はディズニーランドとか大きなショッピングモールとかプロ野球のような他のプロスポーツの興行とか、集客の競争相手が多すぎるくらいある。

昔のドイツのサッカー場は時に暴力沙汰が発生する危険な場所だった。今は2006年のワールドカップ開催を機にスタジアムがきれいに新設、改装されて、女性や子供も安心して足を運べる場所になった。男臭い場所からファミリーで楽しめる場所へ。ブンデスリーガが欧州で屈指の集客を誇るようになった一番の理由だろう。

そういう風景を見せつけられたとき、我が方はどうすべきなのか。

家の外に内にさまざまなエンターテインメントが選択肢として存在し、家の外に引っ張り出すだけでも一苦労という環境の中で、どうやってサッカーを選ばせるのか。

試合のない日でもにぎわいの場所に

私が思うのは、単なるエンターテインメントとは異なる価値観や意味を持たせないと難しいのではないか、ということ。同じおカネをスポンサーから出してもらうのでも、タニマチ的な感覚で出してもらうのではなく、それ相応の価値を認めて出してもらえるようにならないとダメになってしまうと思うのだ。

例えば、まだ構想というか、夢の段階ではあるけれど、私はFC今治をいずれ、健康を保つノウハウに関心がある人たちが日本中から集まる拠点にしたいと考えている。ショッピングセンターや医療施設とドッキングした複合施設の一部としてサッカースタジアムは存在し、試合がない日でもにぎわいのある場所として稼働させたいと思っている。

建設コストより運営コストの方が高くつくスポーツ施設は往々にして造った後にお荷物になりがちだ。そういう事態を避けるには試合がある日以外の300日をどう稼働させるかが大事になる。ショッピング施設や医療関係の施設とスタジアムがコラボレーションするのはそのためであり、それこそトップアスリートから地域に暮らすおじいちゃんやおばあちゃんまで「あそこにいけばリハビリがうまくいく」「あそこにいけば体にいい体操を教えてもらえる」と喜んでもらえるような場所になれたらと思う。

勝利とは別のメリットでも還元を

逆にいうと、そういうコラボが実現しないと、日本のスポーツビジネスはいつまでたってもタニマチ頼みの脆弱性から抜け出せないように思う。

もし、私がJ1のトップ集団にいるクラブのオーナーなら、そんなことは考えなくてもいいのかもしれない。しかし、FC今治は四国リーグのクラブ。四国リーグを制し、全国地域リーグ決勝大会を勝ち抜いて昇格を果たしてもやっと日本フットボールリーグ(JFL)である。その上にはさらにJ3、J2、J1があるわけで、広告効果だけを考えたら、強くなること、勝つこと以上のプラスアルファのメリットをスポンサーやお客さんに提供できるようにならないと、寄せてもらった金額に見合わないと思うのだ。

私はそのプラスアルファのメリットとして、先に述べた新しいスポーツのビジネスモデルを世に提示したいと思っている。

そのモデルが今治で成功すれば、別の競技や別の地域でも可能になるかもしれない。東京五輪後の日本のスポーツの在り方に一石を投じられるかもしれない。

スポーツを地域戦略の一環で位置付け

何かそういう、聞き手が思わず身を乗り出すような、スポーツのポテンシャルが実感できるような提案ができないと、日本のスポーツはいつまでたっても、誰かや何かにすがる付属物的な存在から抜け出せないように思う。

己の分を知ることは大切だと思う。知足という言葉があるように、過度の競争に踏み込むリスクも承知している。それでも私は一つの地域戦略として、地域が生き残る活路をスポーツに見いだしたいと真剣に考えている。

(FC今治オーナー、サッカー元日本代表監督)

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