脱・百貨店 六本木の「ミニ新宿伊勢丹」はネタの宝庫
2015年4月3日、東京ミッドタウンに、"ファッションの伊勢丹"を象徴する伊勢丹新宿本店を凝縮した新業態のセレクトストア「イセタンサローネ」がオープンした。同店のコンセプトは「商品とアートの融合」。日本的な美意識を重視した実験的な空間設計となっているのが大きなウリだという。いったいどんなショップなのか。

内装デザインはネタが満載
イセタンサローネは1階と2階の2層からなり、1階ではオリジナルのウエアや雑貨、ハンドバッグ、宝飾、時計など、2階では婦人服、婦人靴、コスメ、フレグランス、服飾雑貨などを取り扱っている。


注目は、その内装デザイン。写真家・現代美術家としても有名な杉本博司氏、建築家の榊田倫之氏が、このプロジェクトのために新素材研究所を設立して設計を担当した。
屋久杉や十和田石、敷瓦といった日本の伝統的素材を用い、さまざまな実験的手法を取り入れて空間を作り上げた。女性が美しく見えるよう、自然光をふんだんに取り込んだ光環境を重視し、職人の技術が必要なディテールにもこだわったという。






まるで"建築実験室"のような凝りに凝った空間だが、気になったのは百貨店にしては商品構成が偏っていて、メンズアイテムやリビング雑貨などが見当たらないこと。約900平方メートルという売り場面積ではある程度、商品を絞らざるを得なかったのだろう。
三越伊勢丹ホールディングスの大西洋社長によると、同ショップは「ファッションの伊勢丹」を象徴する要素だけを取り出して凝縮した商品構成で、伊勢丹本館3階のモードフロアに近いブランドセレクトとのこと。



狙いは港区在住の高感度層
では、なぜ"とがった商品"をそろえたショップを六本木に出店したのか。実は伊勢丹新宿店の来店客属性を調査したところ、港区民が意外に少ないことが分かったという。「港区は自分のライフスタイルを持っている高感度層が多く、本来であれば伊勢丹のコンセプトに共感してもらえるはずの層。伊勢丹の美意識を凝縮した空間デザインと、旬の流行を取り入れたとがった商品構成で、感度の高いの顧客と接点を持つ拠点にしたい」(大西社長)と言う。
何でもそろっているのが百貨店としての本来の姿だが、今やネットで何でも手に入る時代。百貨店の存在意義も薄れてきている。イセタンサローネは、そうした時代に生き残るための「脱・百貨店スタイル」の表れなのかもしれない。
(ライター 桑原恵美子)
[日経トレンディネット 2015年4月9日付の記事を基に再構成]関連企業・業界