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アジア投資銀「日本は参加すべきではない」71%

第219回 編集委員 木村恭子

成長を続けるアジアの発展途上の国々のインフラ事業を投資や出資によって支援しよう――との中国の呼びかけで、新たな国際金融機関、アジアインフラ投資銀行(AIIB)が誕生しようとしています。

現在のところ、創設メンバーへの参加申請をした国と地域は、アジア諸国のほか英国やフランス、ドイツ、イタリアといった主要7カ国(G7)の一部も加わり50を超えています。日本は不透明な組織運営などを問題点として指摘し「参加はきわめて慎重な態度をとらざるを得ない」(麻生太郎副総理・財務相)と参加を見合わせ慎重な姿勢で見守っています。

日本のAIIBへ参加の是非についての電子版の読者のみなさんからの回答は、日本政府に呼応するかのように、参加したほうがいいと「思わない」と答えた人が71.0%と、参加したほうがいいと「思う」の21.4%を大きく上回りました。

参加に否定的な人々から寄せられたコメントの内容は、2つの見方に分けることができます。1つは、AIIBを主導している中国そのものへの警戒感です。

「中国という国自体が信用できない」(73歳、男性)

「共産党独裁体制の国が主導する地域投資銀行など、とても信頼できない」(66歳、男性)

中国政府が参加申請した台湾を創設メンバーから除外する方針を明らかにしたことを疑問視する意見もありました。

「手を上げた台湾を切りましたよね。中国の一存でいろいろ画策されそうな危機感がいっぱいだから」(56歳、男性)

中国は台湾を自国の一部だとする「1つの中国」の原則を掲げています。こうした中国の都合をAIIBに持ち込む姿勢に、中立性への疑念を抱いたのでしょう。

もう1つの見方は、世界銀行や国際通貨基金(IMF)、アジア開発銀行(ADB)といった国際金融機関がすでに存在していることからのAIIB不要論です。特にアジアの経済発展を支えてきたADBでは日本が長年にわたって中心的な役割を果たしてきました。

「日本は単独でもインフラ投資を支援してきているのだから、それで十分だと思う。他国と協調するメリットはないし、ADBを活用すれば十分」(35歳、男性)

ただ、既存の国際金融機関への反感は多かれ少なかれアジアに共通して存在するとの指摘があります。1997年のアジア通貨危機でIMFから緊縮策を強いられたタイでは農村部の経済が疲弊しました。インドネシアでも不満がくすぶり続けています。

年間100兆円投資の需要があると試算されるアジアのインフラ整備をまかなうにあたり、既存の国際金融機関以外にも組織があることは、アジア諸国にとっては選択肢が広がり好ましいことでしょう。中国がAIIB構想を打ち出したのは、こうしたアジア諸国の既存の機関への空気をくみ取った結果ともいえます。

AIIBへの参加肯定派からのコメントも中国の出方を警戒していることは参加否定派と共通していますが、「ダメなら脱退」と柔軟な姿勢でのぞむことを提唱しています。

回答者の内訳
回答総数910
男性94%
女性6%
20代2%
30代13%
40代18%
50代22%
60代29%
70代14%
80代以上2%

「中国の思いのままにさせないためにも参加して意見を言ったほうがよい」(37歳、男性)

「今後ともアジアをけん引するわが国としては参加すべきと考えます。中国との調整はその後で十分でしょう」(62歳、男性)

「AIIBへ参加して交渉に加わり、日本の利益にならないと判断すれば脱退すればいいだけ」(58歳、男性)

AIIBのイメージについては、最も多かったのが「中国の言いなりになりそう」の61.0%でした。

「理事会の開催も不定期で総裁の権限が極めて強力。日米が参加したところで中国が主導権を握り続けるだろう」(54歳、男性)

中国側の説明では、AIIBの最終的な資本金は1千億ドル(約12兆円)。出資比率は国内総生産(GDP)の大きさに応じて決め、中国が5割まで出資できるとしています。本部を北京に置き、中国人がトップとなる総裁をつとめるとみられています。具体的な銀行の枠組みは今後の交渉次第ですが、設立を提唱している中国が大きな影響力を持つのは間違いありません。

日本の財務省の副財務官やADB研究所長もつとめた東京大学公共政策大学院の河合正弘特任教授に、AIIBにおける中国の影響力について聞いてみました。

「日本が参加すれば、欧州諸国とあわせた発言権は中国を上回り、中国に対して日本と欧州がチェックすることができます。逆に日本が参加しなければ、中国が欧州の発言権を上回り中国の言いなりになる可能性が高くなってしまうのです」

成長著しいアジアのインフラ整備に対しては、日本の産業界からも熱い視線が注がれています。経済同友会の長谷川閑史代表幹事は「AIIBに参加しないことによって、(日本の)インフラビジネスが不利になることだけは避けてほしい」と語っています。

今回のアンケートでも、AIIBのイメージについて「日本のビジネスに役立つ」と答えた人が8.0%いました。

ASEAN諸国の立ち位置で考えれば、必然的に日本へのビジネスチャンスも増えるはず」(62歳、男性)

AIIBによるアジアのインフラ整備についても河合特任教授は警鐘を鳴らしています。

「日本がAIIBに入らずに、中国とアジア諸国で新しいインフラ整備のためのルールを作ることは決して望ましいことではありません。低いレベルでビジネスの競争がなされることになりかねません」

世銀やIMF、ADBといった現在の国際金融機関は第2次大戦後に米主導で構築されたものだといわれています。そこに中国主導のAIIB構想が台頭し、しかも欧州を中心に多くの国々が参加を表明していることで、「米国主導の戦後の国際金融体制の崩壊か」などと早くも危機感を強める声もあります。

現在、日本は米国とともに慎重な姿勢を示しています。もちろん、欧州勢は日本と異なり、地政学的にも中国に対する安全保障上の警戒感が薄いという面もあります。G7のほかの国々も入ったから――などという横並びの対応を良しとはしませんが、好むと好まざるとに関わらず、AIIBは年内に発足します。

日本は、米国との関係とともに中国ともバランスをとりながら外交的な戦略を考えていく必要があります。その文脈でAIIBへの参加を考えていくべきではないでしょうか。

安倍内閣の支持率は76.9%でした。先週(4月4日~7日)はお休みでしたので、前回(3月28日~31日)の62.0%と比較し、14.9ポイント上がりました。支持率が7割を超えたのは、1月24日から27日調査の70.9%以来でした。

今回から、このコラムを担当することになりました。ちまたで話題になっている身近なテーマから今後の日本の進路を左右するかもしれないテーマまで、みなさんと一緒に考えていきたいと思っています。「今すぐ(クイック)投票したい(Vote)!」とお考えになるテーマ案もお待ちしています。

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