2019年8月18日(日)

英大学が「誘電体アンテナの原理」を解明

2015/4/15付
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日経テクノロジーオンライン

試作した超小型アンテナ。緑色の部分がグラウンド。右端のアンテナ素子にSAWフィルターを用いている。(写真:University of Cambridge)

試作した超小型アンテナ。緑色の部分がグラウンド。右端のアンテナ素子にSAWフィルターを用いている。(写真:University of Cambridge)

英University of Cambridge(ケンブリッジ大学)は、誘電体アンテナがアンテナとして電磁波を送受信できる理由を解明したと発表した。その理解を基にすれば、誘電体アンテナをさらに小型化、そして高効率化できると発表した。

実際、1575MHz帯の電波に対する、7×3×1mmの小型アンテナ素子も試作してみせた。入力した電力を電波に変換する際の変換効率は60%前後と高いという。同大学はこの技術を用いれば、3GHz帯の電波に対するアンテナを1mm角にすることもでき、チップ上に集積することさえできるとする。ただし、CMOS(相補性金属酸化膜半導体)技術との互換性はないため、量産性を考慮した場合、Si(シリコン)チップへの貼り合わせ、またはIC(集積回路)パッケージへの実装になりそうだ。

■動作する理由が謎だった誘電体アンテナ

アンテナは、イタリアの技術者だった Guglielmo Marconi氏が19世紀末に開発した技術である。電波を送受信する原理は、基本的にはアンテナ素子に時間的に変化する電界を印加した際に、素子中の電子が加速されて動くこととMaxwell方程式で説明がつく。

ところが、University of Cambridge Department of EngineeringのProfessorであるGehan Amaratunga氏らによれば、誘電体をアンテナ素子として用いる誘電体アンテナで、効率的に電波を送受信できる理由は十分には説明されてこなかったとする。

誘電体アンテナが、導線や金属片を用いた一般的なアンテナと大きく異なるのは、「アンテナ素子には電気が流れない」という点である。誘電体は電界は通す一方で、誘電体材料中の電子は束縛されており大きくは動けない。単純な"電子の加速論"が適用できないのである。

Amaratunga氏らによると、これまでも誘電体アンテナが電波を送受信できることを説明する試みは幾つかあった。例えば、(1)誘電体アンテナは磁界ダイポールアンテナのように機能する、(2)電波を送受信するのは誘電体に接続された給電用電極で、誘電体は電波の導波管として機能している、などだ。

しかし、Amaratunga氏は(1)の磁界ダイポールアンテナ説は、電流の代わりに磁気単極子(モノポール)の流れが実在していなければ説明にならない、(2)の導波管説は、共鳴周波数の存在をうまく説明できない、などと批判する。

■「対称性の破れ」がアンテナの根本原理か

それに対して今回、Amaratunga氏らが提示した仮説は、アンテナが電波の送受信機能を発揮する根本的原理は、電子やモノポールの加速ではそもそもなく、「対称性の破れ」であるというものだ。

一般に物理学では、システムの対称性と物理量の保存則がセットになっている。例えば、エネルギー保存則は、時間的な変化に対してシステムが変化しない、つまり時間発展に対する対称性の存在があって初めて成り立つ。運動量保存則は空間的な並行移動に対して運動方程式が変化しない、並進対称性がある場合に成り立つ、という具合である。このことは「ネーター(Noeter)の定理」として数学的な説明もつけられている。

Amaratunga氏らは、この定理が電気回路やアンテナに対しても成り立つと主張する。そして対称性が破れていない回路はたとえ電子が加速度運動していても電荷の量やエネルギーは保存して、電磁波を送受信しないとする。例えば、直流抵抗値がほぼゼロのLC共振器は半永久的に電荷がキャパシターとインダクターの間を振動するだけで電波をほとんど発しない。電気回路中の多くのフィルター回路も並進対称性を備えており、損失が最小限に抑えられている。

電気回路中で、例外的に対称性を破るように設計されているのがアンテナである。そしてAmaratunga氏らは、対称性が破れていさえすれば、たとえ電流がほぼゼロの誘電体アンテナでもアンテナとして機能することの説明がつくとする。

具体的には、誘電体アンテナがアンテナとして機能するのは、「誘電体がキャパシター、接地(グラウンド)がインダクターとなって、一種のLC回路を形成しているが、グラウンドから電流が一方的に流れ出すことで対称性が破れているから」(論文)だとする。この対称性の破れの大きさは、誘電体に電界を印加する電極の位置なども左右されるという。

アンテナの共振周波数はこのLC回路の共振周波数として得られる。また、Amaratunga氏らは、Maxwell方程式の立場では、このグラウンドに流れ出す電流が、直接の電波源になっていると説明する。

■波長の1/27のアンテナ素子を試作

こうした理解を基にすると、効率的なアンテナを設計するには、アンテナ素子や接地、給電の位置などを、できるだけ対称性がないように設計すればよいことになる。その実証例としてAmaratunga氏らは、ドイツEPCOS製または英Euroquartz製のSAW(表面弾性波)フィルターをアンテナ素子の一部に用いた1575MHz帯向け超小型アンテナを試作した。アンテナ素子は7×3×1mmと、波長の約1/27と小さい。一方、グラウンドは7×3cmと比較的大きい。

このこと自体に驚きはない。このSAWフィルター素子は、比誘電率εrが1000~数千と高い圧電材料から成る。つまり、εrの平方根に比例する屈折率nの値も数十と非常に大きい。屈折率nの材料中の電磁波の実効的な波長は真空中の1/nになる。高誘電率のSAWフィルターを用いている以上、アンテナ素子を小さくできるのは自然なことである。

ただし、高誘電率の材料は一般には誘電損失と呼ばれる損失も大きい。論文では誘電損失への言及はないものの、今回試作したアンテナの効率が約60%と高いことを示した。Amaratunga氏らは、効率が高い理由として、SAWフィルター素子の1点だけに給電する非対称な設計にしたことを挙げる。これは、アンテナの効率を決める要素の1つである電圧定在波比 (VSWR: voltage standing wave ratio)を小さくするなどの効果につながっていると推測できる。

(日経テクノロジーオンライン 野澤哲生)

[日経テクノロジーオンライン 2015年4月14日掲載]

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