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田中2戦目、直球に走り 不安と様子見の米メディア

スポーツライター 杉浦大介

米大リーグで今季開幕から2試合を投げたヤンキースの田中将大が、依然として様々な話題を呼んでいる。日本人4人目となる開幕投手を任された6日のブルージェイズ戦は、4回5失点で敗戦投手になった。12日のレッドソックス戦では今季初勝利を挙げたものの、2試合の内容がもうひとつなこと、速球のスピードが低下していることが議論の種になっている。右肘靱帯の部分断裂からの完全復活を目指す26歳は、今後どんなシーズンをすごしていくのだろうか。

「投げ続けられるとは思わない」

 開幕戦の前後、地元ニューヨークのメディアを中心に田中に関する報道合戦はかなりヒートアップした。

初戦で好投できなかった後、ニューヨーク・デイリーニューズ紙は「この男は誰だ?(昨季前半に支配的な投球を見せた投手とは違うという意味)」の見出しを掲げ、コラムニストが「トミー・ジョン手術(靱帯修復手術の通称)は不可避」という記事を書いた。

さらに、ペドロ・マルティネス氏、カート・シリング氏といった元名投手たちも「右肘は完調ではない。今季を通じて投げ続けられるとは思わない」と公言。総じて、故障明けの右腕の今後に否定的な見方が目についた。

騒ぎの発端になったのが、開幕直前に田中が米メディアに「今季はある投球を確立しようとしている。だから球速に関しては聞かないでください」という趣旨のコメントを残したこと。これが「故障明けゆえに腕に負担の大きい真っすぐを避けようとしている」と解釈されてしまった。しかも開幕戦では全82球のうち56球が変化球だったために、論議の火に油が注がれた感がある。

球速は昨季と大差なく

そんな中でも、ESPN.comのバスター・オルニー氏のように「まだ田中に関する結論を出そうとするな」という冷静なコラムを発表した記者もいる。

「速球系が少なかったのは、ブルージェイズが強力打者をそろえているためか、捕手の(ブライアン・)マキャンが変化球を中心に要求したためか、田中が変化球の方が出来がよいと思ったためかもしれない」

オルニー記者によると、昨季の田中は速球系の割合が全投球の47%だったが、今季の開幕戦では35%(直球32.9%、カットボール2.4%)に下がったことは事実だったという。その一方で、昨年も5月31日のツインズ戦では直球29.3%、カットボール6.6 %、6月17日のブルージェイズ戦では直球34.6%、カットボール1.9%と、割合がほとんど変わらない登板もあった。

大きな話題となった球速も、直球の平均が昨季の91.1マイル(約147キロ)に対して開幕戦では90.9マイルで、そこまで大きな違いはない。実は昨年も直球の平均球速が92マイルを超えた試合が一つもないなど、メジャー入り後の田中を純粋な「速球派」とは考えるべきではないことを示すデータは多い。

もともと故障上がりであることが懸念されていたとはいえ、たった1試合の登板の内容、結果だけで騒ぎ過ぎの感は否めなかった。その背景には、2015年のヤンキースが話題不足という事情もあったのだろう。

マリアーノ・リベラ、デレク・ジーターという重鎮たちが抜け、今季のチームはスター性のある選手に欠ける。注目選手と呼べるのは、禁止薬物使用の出場停止から復帰したアレックス・ロドリゲス、そして右肘靱帯の部分断裂を患いながら手術を回避して今季に臨んだ田中くらいのものだった。

直球系の割合増える

しかも、開幕シリーズのブルージェイズ戦、続くレッドソックス戦はどちらも1勝2敗で負け越し。前評判通り、今季のヤンキースは厳しいスタートを切っている。エース役が期待された田中は、その象徴的存在として取りあげられてしまった感もある。

では、実際には現在の田中はいったいどういった状態なのか。

12日のヤンキースタジアムでのレッドソックス戦では、初回に大量7点を挙げた味方打線の援護を受け今季初勝利を挙げた。ただ、5回を投げて4安打4失点(自責点3)、4三振、3四球、1本塁打、2暴投と内容的には最上とはいえず、今後への不安も消えずに残った。

もっともこの日は全97球中、フォーシームが25球、ツーシームが23球、カットボールが4球と、いわゆる直球系が計52球。その割合が増えたことで、「速球を投げるのをためらっている」という見方は早くも否定されている。

変化球でストライクとれず

「(真っすぐが多かったのは)いろいろな理由がある。日によって割合は違う。今日はそういう日だったということだと思う。ボールの調子によって変わるだろうし、バッターによっても変わるだろうし」。試合後の本人のそんな言葉は、前記のオルニー記者の推測どおり、配球はその日の状況、調子、流れ次第であることを示している。

ジラルディ監督は「真っすぐは前より良かったけれど、変化球で多くのストライクが取れなかった。その点では前回とは反対だったね。次のステップは両立させること。それができれば"(真の)タナカ"になる」。

今季2戦目では直球が走っていた一方、変化球の精度がいまひとつだった。それが球数の多さ、中盤の失点につながり、結果として5回でマウンドを下りることになった。結局、まだ最高の調子ではないことは確かで、すべてを磨き上げる途上にいるということなのだろう。

現在はESPNのアナリストを務めるシリング氏は、レッドソックス戦の中継の際、前の試合と比べて田中の要求内容が向上していることを指摘していた。それと同時に、日本人右腕は春季キャンプを通じてややスローペースで調整し、まだ腕を強くしている最中なのではないかとも語っていた。この「Building his arm strength(腕の力をつけていく)」という言葉は、これまでにジラルディ監督も何度か使っている。

投球フォームに課題

昨年7月に右肘に異常を訴えて以降、田中は2カ月にわたる休養を余儀なくされた。9月に復帰して2試合に投げたものの、まだ手探りの状態だったとしても不思議はない。今春もより慎重に調整を進めたのは当然で、だとすれば、開幕の時点で全快ではなかったとしても驚くべきではない。

「課題というのは毎試合あるけれど、少しずつ状態を上げていければよい。決してそこまで悪いものではない。細かいところですね。四球が多いし、そのへんが徐々に良くなってくればというところです」

「一番は投球フォームですね。開幕戦よりは良くなったけれど、そこまで一気に完璧になるものじゃない。自分の中で少しずつ良くなっているという感覚はある。継続してどんどん上げていけたらなと思う」

ポジティブな兆し

レッドソックス戦の後には、本人もまだ向上途上であることを自覚したような発言を数多く残していた。

厳しいスタートを切ったチームの中で、しかも7年総額1億5500万ドルという超大型契約を結んだ選手であれば、ファン、地元メディアから与えられる時間的な猶予が少ないのは仕方ない。今後も一戦一戦、あるいは一球ごとに、期待と好奇の視線が注がれ続けることになるのだろう。

ただ、現時点でまだ完調ではなくとも、最初の2度の登板の中でポジティブな兆しが見えているのも事実だ。昨季前半の「支配的な姿」に今後近づいていけるかどうか。それが可能だとして、どれくらい時間がかかるのか。不透明な要素も多い中で始まった田中のメジャー2年目は、その2点がポイントとなっていきそうだ。

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