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イチローへの憧れ・遠慮 残る若き同僚のファン目線

スポーツライター 丹羽政善

米国で今、ちょっとした話題になっているテレビコマーシャルがある。

男子ゴルフの世界ランク1位のロリー・マキロイ(英国)が子供の頃、タイガー・ウッズ(米国)に憧れてゴルフを始め、ウッズのようになりたいと練習に励む。ついには同じ舞台でプレーするようになり、ドライバーを打った後、ウッズから「グッドショットだ」と声を掛けられ、フェアウエーを一緒に歩くシーンで、2分もの長いコマーシャルは終わる。マキロイの実体験が元になっているそうだ。

2人には別の接点もあり、「ニューヨーク・タイムズ・マガジン」によれば、マキロイはかつて、ウッズにこんな手紙を書いたことがあるという。「いつか、追いつくからね」

マキロイは9歳。マイアミで行われた9~10歳の世界大会を制覇した頃だという。そのとき、ウッズは20代初め。マスターズを初制覇した翌年のことになる。

息子世代に「かわいくてしょうがない」

話は変わるが、マーリンズにクリスチャン・イエリチという左翼手がいる。今年のキャンプが始まった頃だろうか。こんな話をしていた。

「僕は、イチローを見て育ったんだ。そんな選手とチームメートになれて、彼がどうシーズンに向けて、そして試合に向けて準備するのか、頭の中をのぞくことができるなんて、クールだ」

イエリチは子供の頃、イチローに手紙を書いたわけでも、その後、イチローに憧れてプロになったわけでもないが、「見て育った」という表現が気になって調べてみると、彼は、1991年12月5日生まれの23歳だった。イチローが2001年にマリナーズでデビューしたときは9歳。イチローとイエリチの年の差はなんと18歳もある。

マーリンズの場合、イエリチが特別ではなく、レギュラーの野手8人の内、6人が20代。二塁手のディー・ゴードンは26歳だが、イチローは彼の父親(トム・ゴードン)と対戦している。デレク・ジーター、アンディ・ペティット、マリアーノ・リベラら、同世代の選手が多かったヤンキース時代と比べて、41歳のイチローとチームメートとの世代の開きは、それぐらい大きい。

そこまで開くと、野球観だけでなく、一般的なものの考え方にも差があり、やりにくい部分があるかと思うが、イチローはこんなふうに話している。「かわいくてしょうがない感じ」。まるで親子のような感覚なのだろうか。

運び込まれた専用器具、正体聞けず

ただ、一方でマーリンズのチームメートらはどうかと言えば、まだイチローは、気安く話しかけられる存在ではないよう。キャンプの半ば、突如練習場の脇にコンテナが設置され、その中に、イチロー専用のトレーニング器具が運び込まれた。チームメートらは、誰もが興味津々だったが、「あれはなんだい?」とは、なかなか本人には聞けなかったという。

28歳のスティーブ・シシェックという投手が、マイアミ・ヘラルド紙のスペンサー・クラーク記者にこんな話をしたそうだ。「中に入って、ちょっとあのトレーニングマシンを使ってみたい気もするけど、そんなことお願いできないよ」

シシェックにとってイチローは、中学の頃のアイドルだったとのこと。同じユニホームを着ているのに、どうしても遠慮してしまう。チームの20代の選手には、キャンプ初日から、ところ構わずイチローに話しかけたマーセル・オズナを除けば、多かれ少なかれ、そういう感覚があるように映る。イチローにしてみれば、そんな謙虚さが、かわいく思えるのかもしれない。

WBCでは世代超えチームが一つに

これまで似たようなチーム構成だったのは、09年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)日本代表チームか。06年のチームは、イチローと同じ70年代生まれの選手がほとんどだったが、第2回のチームは28人中、19人が80年代に生まれた選手だった。あのときイチローは、「今回は、(年の差が)10年の選手もいる」と世代の違いを口にし、否が応でもチームリーダーとしての役割を意識させられたが、大会を終えて、「向上心があった」と、世代を超えて、チームに共通するものがあったことに安堵した。「よくチームにはリーダーが必要だという安易な発想があるが、今回のチームにはまったく必要なかった。それぞれが向上心を持って、何かをやろうとする気持ちがあれば、そういう形はいらない。むしろないほうがいいと思った」

マーリンズでもイチローは、ベテランのリーダーシップを求められているわけだが、やはり、それは必要ないと感じているのだろうか。その答えが見えるとしたら、もう少し先のことかもしれないが。

鮮烈な印象残した「レーザービーム」

ところでイエリチは、イチローのどんなプレーを覚えているかと聞かれて、「ライト前ヒットで一塁から三塁を狙ったランナーを、サードで刺したプレー」と答えた。

日本人のファンにとってもそれは有名なプレー。01年4月11日、アスレチックス戦の八回1死一塁。代打のラモン・ヘルナンデスがライトにヒットを放ち、このとき、一塁走者のテレンス・ロングが、二塁を蹴って三塁へ。そのロングの三進をイチローの正確な送球が封じたのだった。マリナーズの実況を務めるリック・リーズ氏が、「レーザービーム」と名付けたことでも知られる。

「今でもはっきりと覚えている」と話したイエリチは、「日本からやって来た選手が、メジャーリーグを支配するようになった」と続けた。

ロサンゼルス郊外の街で育った彼にしてみれば、マリナーズという同じ西海岸のチームを見る機会は少なくない。試合を見ていて、野球を理解できるようにもなる年齢。パワー全盛の時代に、違う野球を持ち込んだそのイチローが今、チームメートになった。キャンプも半ばに差し掛かった頃、イチローと同じユニホームを着ていることに慣れたかと聞けば、「まだ、変な感じだよ」と苦笑した。「イチローを見ている自分がいるんだ。ファンみたいに」

10日のレイズ戦、そのイエリチがサヨナラヒットを放つと、イチローもダッグアウトを飛び出し、手荒く祝福した。

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