血液検査で分かる認知症リスク 約100施設が実施
「MCIスクリーニング検査」は、血液を調べてMCIである可能性を判定する。筑波大学発のベンチャー企業MCBIと、同大学病院精神神経科の朝田隆教授らとの共同研究で生まれた。
認知症の一つであるアルツハイマー病は、アミロイドβという物質が20年ほどかけて徐々に脳内にたまって発症する。これは誰の脳にも発生するが、本来はそれを排出したり毒性を弱めたりする仕組みが備わっている。
血液検査では、この仕組みにかかわる3つのたんぱく質を調べ、ごく初期の段階からMCIの兆候を捉える。「435例を対象にした臨床研究の結果、約8割の精度でリスクが判定できた」とMCBIの内田和彦社長は話す。検査に必要な血液は、10ml程度とごくわずかだ。


結果は4段階で示される(下表)。費用の目安は問診・相談も含め、2万~3万円。現在、全国100近い医療機関で検査を受けられる(MCIスクリーニング検査導入医療機関はhttp://mcbi.jp/initiative/checkup/checkup.htmlで検索可能)。リスクが高いと判断された人は、早めに医師の診断を受けた方がいいだろう。

専門デイケアで認知機能が向上
ではMCIと診断されたら、どうすればいいのだろうか。例えば、朝田教授が協力医師を務める「オリーブクリニックお茶の水」では、2013年からMCIや軽度の認知症患者を対象に、「認知力アップデイケア」を実施している。運動や脳トレ、音楽、絵画、料理などのプログラムを1回6時間程度、毎週行っている。「認知症への不安を抱えて悩んでいるのは自分だけではないと勇気づけられる人が多い」と朝田教授。

認知機能の向上も認められている。何もしないと認知機能テストの点数は低下していくが、デイケア参加者は平均で2ポイント上昇した(下グラフ)。「例えば、抗認知症薬のアリセプトを服用すると、半年で2ポイント上がるが、その後は低下していく。参加者はこの薬も服用しているが、1年半後もなお高い点数を維持している。デイケアの効果は確かにある」(朝田教授)。
認知症はいったん発症すると治すのが困難。だからこそ、早く見つけて手を打つことが大切だ。「少し、もの忘れが気になるくらいのMCI初期で発見して、認知力を上げるトレーニングを続ければ、以前の正常な状態に引き戻せると期待している。早期発見が早期絶望ではなく、希望につながるような体制づくりが急務」と朝田教授は話す。


この人たちに聞きました

筑波大学附属病院精神神経科教授。東京医科歯科大学医科同窓会館にある「オリーブクリニックお茶の水」でも、認知力アップデイケアに携わる。「有酸素運動は認知機能向上に良い。知的活動との組み合わせは、さらに効果的」

MCBI(茨城県つくば市)社長。奈良県立医科大学医学部卒業。2003年にMCBIを設立。「症状が出るずっと前から認知症は始まっている。病気になる前に見つけて治療する"先制医療"が重要です」
(ライター 佐田節子)
[日経ヘルス2015年4月号の記事を基に再構成]
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