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脳波で消費者のココロ丸見え 電通が探る商機の芽

電通が「脳波」に注目している。脳波のパターンを細かい感情に分解して「見える化」できる技術を利用し、企業がつかみあぐねている消費者のココロをとらえた新製品やサービスを提案しようというのだ。このほど、脳波とIT(情報技術)をからめて斬新なビジネスアイデアを競い合う2日間のハッカソンを開催。顧客企業にそこでの成果を早くも提案し始めているという。その現場を追った。

初のハッカソンに多数の応募者

3月中旬。インターネット企業、デジタルガレージの本社にある大部屋で「電通テクノジャム」と呼ぶハッカソンが繰り広げられた。9つのテーブルごとに、何やら頭にヘッドホンのような装置をつけた人を取り囲んでにぎやかに議論を交わしている。

参加者46人のうち22人は電通社員。残りはデジタルガレージのほか、大学に所属するプログラミング技能を持った人材だ。5~6人のチームごとに、脳波をいかしたビジネスを考え出し、顧客企業に提案できるプランを組み立てて2日目に発表する――というのが骨子だ。各チームには3万円を上限とする費用が支給され、デモンストレーション用に動くハードウエアを作ってもよいし、考え出したサービスが有用かどうかを検証するための材料費に充ててもよい。

電通がこうしたハッカソンを行うのは初めて。「研修の一環」として参加者を募ったところ、募集定員を大きく上回る人が手を挙げたという。選ばれた参加者は20~30代の社員が中心で、企画・制作から企業へのコンサルティングまで様々な部署から集まった。

各チームに配られたのは米社製の簡易型脳波計と、「感性アナライザ」と呼ぶ解析ソフト。脳波計はおでこと耳に電極があるヘッドセットで、電位差から脳波を測定する。感性アナライザは慶応義塾大学理工学部の満倉靖恵准教授が開発したもので、脳波の動きをもとに複数の感情を0から100の値で表す。

具体的には「興味」「好き」「ストレス」「眠気」「集中」の5種類で、カギはリアルタイムで見える化できることだ。データは無線でタブレット端末やパソコンに送信。画面上のグラフでは1秒ごとに数値をプロットしていくが、感情が小刻みに移ろっているのがわかる。満倉准教授によると、約17年で集めた実際の脳波信号データをもとにアルゴリズムを設計。人が無意識下で感じている思いを7~8割の精度で類推できるという。

 ではいったいなぜ、広告代理店が脳波に着目するのか。イベントの仕掛け人で、電通でCDC局長職を務める細金正隆氏はこう話す。「最近では顧客企業と単純に広告のお付き合いをしているだけでは不十分。デジタル技術を使ったイノベーションを起こしながら、企業が抱えている課題を解決する能力が求められている」。

細金氏は「脳波はひとつの例。脈拍や呼吸なども含めた生体情報を客観的に数値化して把握できれば、『その人にとって気持ちよいもの』をさりげなく提供できるかもしれない」といい、マーケティングや新製品開発の武器として生体データを有力視する。

「明日にでも営業に」

電通などが開催したハッカソンでは脳波から気持ちを読み取り、新たな製品やサービスをつくるお題が出された

今回のハッカソンは「明日にでも顧客企業に提案に行ける」ことを主眼に、実現可能性に重きが置かれた。事業計画や収益見通しが妥当かや、ハードウエアの場合なら試作機が有望かといった点が評価の重要なポイントになるとあって、電通社員の目も真剣そのものだ。

各チームからは、ユニークな案が続出した。「アイドルの脳波を可視化し、その深層心理をファンに伝える。『握手会』などとは違ったファンサービスでアイドルグループの収益化向上に役立てる」「寿司にはおまかせの文化がある。脳波を測れば、個々人にぴったりな寿司ネタを順序よく出せる」――。

ほかにも「気持ちよさを感じていればそのポイントを長くもみほぐし、痛みを感じていれば力を弱めて別のポイントに移動できるマッサージ機」を考え出したチームは、回路図を起こしてプリント基板を設計し、2日目には動くモノを作り上げていた。

最優秀賞に選ばれたのは「眠らず得する損保」と名付けた保険商品のアイデア。脳波計を内蔵した制帽をドライバーにかぶらせ、眠気を感じているときに警告して休息をとらせて保険料を下げるという事業モデルで、「ビジネスとしての市場性を感じさせる」(審査員の一人、慶応大の満倉准教授)点が評価された。

脳波ビジネス、世界的にも脚光

電通はすでに脳波を応用したマーケティングや広告キャンペーンに着手。例えばフォルクスワーゲングループジャパンと連携し、運転手の脳波を測って電気自動車とガソリン車の乗り心地を科学的に比べる試乗キャンペーンを実施した。

脳波を実際にビジネスに応用するには、解析の精度をいかに上げられるかや、データの取り扱いでの配慮などいくつかの課題もある。とはいえ、世界的にも熱い研究領域であることは確か。米国ではオバマ大統領が脳の働きの全容解明を目指す大型研究計画を2013年に立ち上げ、関連産業が育つ引き金となった。

喜怒哀楽も突き詰めるとすべては脳の電気信号で説明がつく、と聞くと味気ないような気もする。ただ、本人さえも気づいていない思いを察し、かゆいところに手が届く製品やサービスが実現すれば究極のおもてなしにつながる可能性も秘める。普及しつつあるウエアラブル端末には睡眠や歩数などの測定機能を備えたものが多いが、いずれ脳波を日常的に読み取るような日が来るのだろうか。(映像報道部 杉本晶子)

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