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銀盤ファンタジア フィギュア羽生、敗れてなお示した表現力の進化

プロスケーター 太田由希奈

 悔しさは必ず次へのステップの糧となる。3月29日まで行われたフィギュアスケート世界選手権(中国・上海)の男子で、ショートプログラム(SP)1位だった羽生結弦(ANA)は、フリーで逆転を許して合計271.08点で銀メダルだった。日本男子として初の世界選手権連覇という快挙を逃したが、飽くなき向上心を持つ20歳は金メダルを獲得した昨年のソチ五輪からの進化の可能性を示したともいえる。プロスケーターの太田由希奈さんは「表現力が磨かれている」と指摘する。

見応えあった「男子3強」の好勝負

今回の世界選手権は男子が特に見応えがあった。羽生選手、スペインのハビエル・フェルナンデス選手、カザフスタンのデニス・テン選手という現在の男子フィギュア界をけん引する「3強」が、それぞれミスはあったものの、最小限に抑えて演じきった。優勝したフェルナンデス選手が合計273.90点で3位のテン選手が267.72点。その差は6.18点で、誰が勝つのかは分からないという緊張感があって、非常に面白かった。

昨年11月にグランプリ(GP)シリーズの中国杯で他選手と激突、翌月には腹部の手術、年が明けてから右足首の捻挫とアクシデント続きだった今季の羽生選手。世界選手権に向けて練習が十分だったかといえば、決してそうではなかっただろう。そうした状態の中で銀メダルを獲得したというのは、上出来だったのではないか。

首位に立ったSPはコンディションの悪さを全く感じさせなかったし、フリーもミスをした2つの4回転ジャンプ以外は素晴らしかった。特に後半部分に組み込まれたトリプルアクセルからの2つの連続ジャンプは大きく加点がつく出来栄え。今季の前半にミスの出ていた3回転ルッツも落ち着いて決めるなど、一つ一つのジャンプを丁寧に跳んでいる印象を受けた。

羽生、力強さ増したスケーティング

ソチ五輪のときと比べて成長していると感じたのが表現力だ。一口に表現力というが、その根幹にあるものは「足元」だと私は思っている。どれだけ視線が鋭かろうと、どれだけ手の動きがきれいであろうと、そこにスケートの足から伝わるスピード感が伴わないと、本当に心の底から「すてきだな」とは実感できない。つまり、氷上でただ踊るだけでなく、そこにスケーティングの力強さやスキルが加わらないと、真の意味でも表現力とはいえない、と考えている。

羽生選手はソチ五輪のときと比べて、スケーティングの際のエッジが深くなっている印象がある。だから足元の力強さが違うし、スピード感も増している。以前よりも、ひきつけるスケーティングをしているなと感じる。

今回は銀メダルに終わったが、ミスに対して目をそむけずにしっかりと受け止め、負けを認める強さがある。そして、それをさらなる成長につなげる。逆境を力に――。羽生選手を世界の頂点に押し上げたのは、こうした「人間力」とでもいうべきものではないか。今季の経験はさらなる飛躍への大きな糧になったに違いない。

スタミナの壁超えたフェルナンデス

スペインに初の世界選手権の金メダルをもたらしたフェルナンデス選手は、本人にとってもビックリの優勝だっただろう。ブライアン・オーサーコーチが教えているカナダのスケートクラブを私も訪れたことがあるが、そこでのフェルナンデス選手は本当におちゃめ。器具を使った筋力トレーニングがあまり好きではない彼の姿がちょっと見えないなと思ったら、隣接するコートでテニスをするなど……。突然、現れて「ハーイ。さぼってないよ。ちょっとウオーミングアップをしてきた」とケロッとした表情で口にする。そんな性格の彼を周囲のみんなが愛していて、姿が見えないと、「ちょっと探してくる」と誰もがいうような選手だ。

言うならば、オンとオフの使い分けが非常にうまい。プログラムにしても、きっちりとした部分だけでなく、ちょっと抜く部分もあるから、見ていて非常に楽しいものになっている。

かつてのフェルナンデス選手は4分半のフリーを滑ると、後半はバテてしまっているなと感じることがあった。体力があまりないので、難しいジャンプやステップなどはプログラム前半に固めてしまい、後半は最低限の要素で、という印象もあった。だが、今回の世界選手権では最後まで消耗をあまり感じさせなかった。しっかりとした練習を積んできたのだろう。

あれだけきれいに2種類の4回転を跳ぶのだから、その才能は誰しもが認めるところ。コーチ陣の後押しもあって、それがようやく開花したといえそうだ。

出場枠減らした日本、巻き返しに期待

3位となったテン選手は本当に天才的。総合力では一番だと思う。難しいステップやターンをたくさん盛り込んでいるのに、それをまったく感じさせない。本当にスルスルと氷の上を滑っていく。滑った後の氷の溶け方が彼だけは違うのではと思って、思わず観客席から身を乗り出して下をのぞき込んだことがあるぐらいだ。

トリプルアクセルなども、まるで体にバネが入っているかのように跳ぶ。トリプルアクセルは氷をスケートのアウトエッジで抑えて、そこからジャンプするのだが、何の力みもなくフワリと上がる。本当にスケートの力をうまく利用してジャンプする。派手ではないが、スケーティングがうまくて玄人受けするスケーターだ。

今回の世界選手権ではSPで曲の冒頭が流れないアクシデントがあり、曲をかけ直して臨んだ冒頭の4回転で転倒するなどして出遅れたが、フリーではシルクロードをイメージした曲に乗って、軽やかに、そして芸術的に演じた。フリーだけの得点は181.83点で1位だったが、プログラム的にも私は一番すてきだったと感じた。

さて、日本勢に話を戻すと、羽生選手が銀メダル、小塚崇彦選手(トヨタ自動車)が合計222.69点で12位、無良崇人選手(HIROTA)が211.74点で16位と、上位2人の合計順位が14となって来年の世界選手権の出場枠は2に減ってしまった(合計順位が13以内なら3枠)。

昨年末の全日本選手権で2位となった17歳の宇野昌磨選手(愛知・中京大中京高)も台頭してきていて、来年の代表争いは激戦が予想される。誰が代表になるのか、そして日本勢の巻き返しはなるのか。来シーズンが今から楽しみでもある。

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