原子炉内部、宇宙線で透視 福島第1廃炉へ一歩 - 日本経済新聞
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原子炉内部、宇宙線で透視 福島第1廃炉へ一歩

東芝、装置開発

 東芝が東京電力福島第1原子力発電所の炉心溶融(メルトダウン)で溶け落ちた核燃料(デブリ)の位置を測定する装置を開発した。宇宙から絶え間なく降り注ぐ小さな素粒子(ミュー粒子)の特性を活用し、デブリの位置を30センチメートル単位で特定できるという。今年10月以降に同原発2号機で測定を始める。原子炉内部のデブリを把握できれば、廃炉作業へ一歩前進する。

「人が直接見れないものをミュー粒子で外側から見る」。東芝原子力福島復旧・サイクル技術部の四柳端氏は27日、生産技術センター(横浜市)で開いた測定装置の見学会で力を込めた。ミュー粒子は物体を透過する能力の高い宇宙線だ。地上には1平方センチメートルあたり1分間に1個降り注いでいるという。ピラミッドの内部調査や火山内部の測定などに利用されている。

レントゲン写真のように原子炉内部を透視してデブリの状況を把握できないか――。2011年3月、東日本大震災の翌週には米国のロスアラモス国立研究所がミュー粒子を使ったデブリ測定の検討に入った。同年8月には原子炉模型で実証実験を実施した。東芝は同研究所と13年から共同開発を始めた。今回の装置開発には技術研究組合国際廃炉研究開発機構(IRID)も加わった。

福島第1原発の廃炉作業の課題の一つが溶け落ちた核燃料が、どこにどれだけあるか分からないことだ。デブリの場所や量を把握できれば、取り出す手順や工法を具体的に検討できるようになる。廃炉作業が一歩前進する。国や東電は21年12月以降にデブリの取り出しを始める計画だ。

今回開発した測定装置はミュー粒子が物質を透過する際に方向を変える特性を活用する。8メートル四方もの大きな装置に直径5センチメートル、長さ7メートルのチューブ状のセンサー3360本を備える。原子炉を挟みこむ形で設置し、原子炉内部を通過した後、ミュー粒子の角度がどう変わったかを分析すれば、デブリの場所が分かる。核燃料のウランと鉄やコンクリートではそれぞれ曲がり具合が違うという。場所だけでなく何があるかも分かるのが特徴だ。空港で核物質の持ち込みを防ぐなど、テロ対策にも応用できるという。

東芝の手法は散乱法と呼ばれる。ミュー粒子を使うデブリ測定では透過法という別の手法もある。ミュー粒子が物質に吸収される特性を使ったもので場所の特定は1メートル範囲にとどまる。東芝の技術なら30センチメートルで把握でき、内部の様子がより詳細に分かる。

2号機をモデルにしたシミュレーションでは30日間、60日間と測定を続けるほど、原子炉内部のデブリの様子が鮮明になるという結果を得た。ただ実際の現場は放射線量の高い過酷な環境だ。ガンマ線が測定に影響しないように電気回路を工夫したという。

もっとも装置は完成したが課題も残る。27日の見学会ではソフトウエアの不具合で測定デモを取りやめた。巨大装置だけに設置作業は難しそうだ。10月以降に実際の測定作業が始まる。どのくらいの期間で内部が分かるのか。「30日なのか60日なのか、やってみないと分からない」(東芝)。廃炉へ向けた手探りの努力が続く。

(企業報道部 川上宗馬、伊藤大輔)

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