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大林組、研究所の全電力を太陽光で 再エネ社会へ前進

建設ITジャーナリスト 家入龍太

ケンプラッツ
大林組技術研究所(東京都清瀬市)は、2014年度に本館ビルで使う年間エネルギーを構内の太陽光発電だけで賄う「ソース・ゼロ・エネルギー・ビル(ソースZEB)」を達成できることがほぼ確実になった。約200人のスタッフが働くオフィスビルにおけるソースZEB化の成功は、再生可能エネルギーだけでの生活を可能にする第一歩と言えそうだ。

大林組技術研究所(敷地面積約6万9400m2(平方メートル)、建物床面積約3万5700m2)では、2010年度に本館「テクノステーション」が竣工して以来、着々とネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)化に取り組んできた。

2011年度には、一般の事務所ビルに比べて57.2%のCO2(二酸化炭素)排出量削減と、再生可能エネルギーで発電した電力を購入する「カーボンクレジット」により、早くも「エミッションZEB」を達成した。

大林組技術研究所本館「テクノステーション」(写真:家入龍太)

太陽光パネルの合計出力は900kW

さらに2014年11月には、省エネ、創エネ、蓄エネの設備を増強する工事が完成。2014年度には1年間に本館が消費する年間の電力すべてを、カーボンクレジットに頼らず、構内の太陽光発電だけでまかなう「ソースZEB」を達成することがほぼ確実になったのだ。

大林組技術研究所のZEB化の歩み(資料:大林組)
省エネ、創エネ、蓄エネのシステム全体イメージ(資料:大林組)

2015年2月13日、技研の構内に設置された様々な省エネ、創エネ、蓄エネの設備が報道陣に公開された。

[左]屋上に所狭しと並んだ太陽光発電パネル [右]シートタイプの太陽光発電パネル(写真:いずれも家入龍太)

まず、目についたのは技研内の各建物の屋上に設置された太陽光パネルだ。本館の建物はもちろん、利用できそうスペースには、所狭しと設置されていた。これらの太陽光パネルの出力は合計約900kWにも及ぶ。

大林組技術研究所の全景。本館や周辺の建物の屋上には太陽光発電パネルがぎっしりと並んでいる(写真:大林組)

商用電力を上回る総合発電効率

技研構内の太陽光発電パネルをフルに使った発電量と、様々な省エネ装置によって基準ビルと比べて半分以下に抑えた本館建物の消費エネルギーを比べると、前者が後者を上回り、2014年度にはついにソースZEBの達成がほぼ確実になった。

さらに、技研にはビル単体でのエネルギー収支だけでなく、構内の建物や実験施設全体を1つの町に見立てて電力使用の最適化を図る「スマートシティー」としての様々な施設が設けられている。

例えば、自家発電装置。本館の裏には200kWのガスエンジン発電機2基と、その排熱で発電する50kWのバイナリー発電機1基からなるマイクロコンバインド発電施設が建設されていた。

[左]200kWのガスエンジン発電機 [右]ガスエンジンの排熱でさらに発電する50kWのバイナリー発電機(写真:いずれも家入龍太)

技研内の電力需要が大きい時間帯に自家発電を行うと、電力の使用ピークを下げることができ、電力会社との契約電力を減らすのに役立つ。

バイナリー発電機とは、ガスエンジンの排熱で低沸点の液体を蒸気にして、タービンを回す発電機だ。その結果、総合的な発電効率は42%となり、商用電力の発電効率を上回っている。

武骨な発電施設は、少しでも景観にマッチさせるためにアーチ状のオブジェで装飾されていた。

プラントのような巨大蓄電池

そして、電力の需給を調整する蓄エネ装置としては、出力500kW、容量3000kWhという大型蓄電池が設置されていた。スマートハウスなどで使う住宅用の蓄電池は容量が10kWhもあればかなり大型になるが、その300倍もの容量だ。

その形を見て驚いた。タンク状の設備が並んだプラントのような外観をしていたからだ。

出力500kW、容量3000kWhの巨大蓄電池。タンクが並んだプラントのような形だ(写真:大林組)

これは「レドックスフロー電池」というもので、住友電工が建設した。電気を蓄えるのはレアメタルのバナジウム(V)の電解液だ。

タンクには大量の電解液がたまっており、「セル」という部品に電解液を出し入れする過程で充電、放電する。

電解液は化学変化を起こさず、バナジウムイオンの電荷数が変わるだけなので物質が非常に安定しており、劣化を起こさないという特徴がある。そのため、数十年使用した後もそのまま再利用できるほどだという。

また、電池の出力はセルの数、蓄電容量はタンクの容量で決まるので、自由に出力と容量を設計することができる。タンクの部分は、鉄筋コンクリート構造物としても作ることができる。

レドックスフロー電池の仕組み(資料:大林組)

3Dでエネルギーを見える化する「SCIM」

研究所には、構内のあちこちで消費される電力と、創エネ、蓄エネ装置から供給される電力を見える化し、最適に制御する「スマートエネルギーシステム」が構築されている。

EMSとSCIMからなる「スマートエネルギーシステム」のイメージ(資料:大林組)

そのうち、エネルギーの「見える化」を担うのが「SCIM(スマートシティー・インフォメーション・モデリング)」だ。

どこかBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)と似た響きの言葉だが、それもそのはず、SCIMとは技研全体を3D(3次元)モデルで表現し、各建物や施設の属性情報として電力やエネルギーの需給をリアルタイムに表すものだからだ。

ちなみに、SCIMは大林組の登録商標となっている。

SCIMの画面。3Dモデルの属性情報として電力やエネルギーの需給をリアルタイムで表示する

そして、SCIMと連動して電力使用量を制御するのが「EMS(エネルギー・マネジメント・システム)」だ。住宅用のHEMSやビル用のBEMSを、研究所全体に拡張した大型システムと言うべきシステムだ。

太陽光による発電量や建物の消費エネルギーは天気や気温、日射などの条件によって変わる。EMSにはこうした情報に過去の運用実績を加えたものを「ビッグデータ」として活用し、高精度の電力需給予測を行う機能もある。

研究所には照明や空調など一般のオフィスとして使用する設備のほか、大きな電力を消費する実験設備もある。複数の実験設備を同じ時間帯に稼働させると、技研全体の消費電力が契約電力を上回ってしまう恐れもある。

そのため研究員は、モニターで表示される時間ごとの電力消費量を見ながら、電力を使う時間を"予約"して、ピークを抑える努力をしているのだ。

EMSによる電力需給制御のフロー(資料:大林組)

今後は巨大蓄電池の建設が課題に

「再生可能エネルギーの活用を推進するのは非現実的だ」という意見も多いが、いずれ石油や石炭などの化石燃料や原子力発電のウランは枯渇する運命にある。

大林組技術研究所の本館は、他の建物の屋上スペースを借りて太陽光発電パネルを設置しているとはいえ、これだけの規模のオフィスビルで消費する以上の電力を、敷地内の太陽光発電だけでまかなえるようになったという事実には大きな意味がある。

超長期的に見て、太陽光エネルギーに由来する再生可能エネルギーだけで動く社会を実現するための大きな一歩と、筆者は前向きにとらえたい。

しかし、ここ数年、メガソーラー(大規模太陽光発電所)の建設が各地で進んでいるが、一部の地域では電力の需給調整が難しくなるという理由で、商用電源への売電を断られる例も出ている。せっかく太陽光発電をしても、それを100%有効利用することができないのだ。

このネックを解消するために求められているのは、余った電力をためておく大容量の蓄電池を安価に多数、"建設"することだ。大林組技術研究所では、3000kWhの巨大蓄電池を設置しているが、電力を蓄えるタンクの部分は、建設業が持つ技術で建設が可能だ。

今後、巨大蓄電池のニーズはますます高まるだろう。そして価格が下がれば、天候などによって出力が不安定な再生エネルギーによる電力を蓄え、安定させるためのインフラとして、急速に普及していくに違いない。

家入龍太(いえいり・りょうた)
1985年、京都大学大学院を修了し日本鋼管(現・JFE)入社。1989年、日経BP社に入社。日経コンストラクション副編集長やケンプラッツ初代編集長などを務め、2006年、ケンプラッツ上にブログサイト「イエイリ建設ITラボ」を開設。2010年、フリーランスの建設ITジャーナリストに。IT活用による建設産業の成長戦略を追求している。家入龍太の公式ブログ「建設ITワールド」は、http://www.ieiri-lab.jp/。ツイッターやFacebookでも発言している。
[ケンプラッツ2015年3月4日付の記事を基に再構成]

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