/

ムーアの法則 考案者が語った長期継続の理由と未来

未来を創った男たち(1)

日経テクノロジーオンライン
我々の日常生活からビジネスの在り方まで、劇的に変えてしまったインターネットの本格普及から20年。米国防総省の高等研究計画局(現DARPA)が世界初のパケット通信ネットワークとして運用を開始したインターネットは、現在では世界で約30億人が利用するインフラになった。この普及の裏には、数々の画期的なテクノロジーの開発がある。そこで主導的な役割を果たしたキーパーソンの言葉は、今振り返っても示唆に富み、未来を予見させるものがある。日経電子版創刊5周年企画「『ネット20年』その先へ:未来を創った男たち」の前半では、半導体の「ムーアの法則」で知られる米インテル共同創業者のゴードン・ムーア氏、約8割のスマートフォンに搭載されているOS「Android(アンドロイド)」を生んだ元・米グーグルのアンディ・ルービン氏のインタビュー記事を紹介する。そして後半では、「スマートフォンの原型」ともいえるサービスを世界で初めて開始した、NTTドコモ「iモード」開発に携わった技術者の奮闘物語を掲載する。

2005年。「ムーアの法則40年」に当たるこの年の4月、日経エレクトロニクス誌はゴードン・ムーア氏にインタビューする機会を得た。これまで秘蔵してきた内容を改めて紹介する。今からちょうど10年前、当時76歳だった同氏は「ムーアの法則」について、40年の継続でさえ想定外だったと語った。聞き手は、元同誌記者の枝洋樹氏。

――この40年間の半導体産業において、ムーアの法則はどのような役割を果たしたと考えますか。

インテル共同創業者のゴードン・ムーア氏(2005年5月)

ムーア過去30年間については、(半導体の集積度は)2年ごとに2倍になると予想してきましたが、実際にはそれを少し上回りました。これは私にも驚きでした。このトレンドを維持することは非常に難しいと考えていましたが、業界はこれを少し上回るだけの努力をしたということでしょう。

――半導体技術の進化のスピードには、自分でも驚かれたということですか。最初にこの法則を発見した時は、どの程度の期間にわたって成立すると考えていましたか。

ムーア 当初の予測は10年間についてのみ行ったもので、それでも非常に野心的なつもりでした。当時はIC(集積回路)が登場して3年たったばかりで、参考にすべき歴史というほどのものもなかったからです。結果として、私が思っていたよりもはるかに正確な予想をしたことになりました。

――当初、期間を10年としたのはなぜですか。

ムーア 米Electronics誌から10年間を予想するように依頼されたからです。依頼の内容はその時点から10年間に、テクノロジーの世界で何が起こるかを知りたいというものでした。しかし半導体産業のような動きの速い業界では、10年先というのは予想の対象となり得る限界だと私は思います。当時は10年でも非常に大胆だと思いました。

1965年4月19日付の米技術誌「Electronics」に掲載された論文中の「ムーアの法則」を示す図。1965年までのトレンドに基づき、1975年までに1チップに集積可能となる電子部品の数を予測している(写真:Intel)

――業界が過去40年にわたってムーアの法則に従うことができたのは、何がカギになったと考えますか。

ムーア 莫大な投資が行われてきたことだと思いますが、もう1つ挙げるとすれば、「物を小さくすればするほどその質も良くなる」という、半導体技術に独特の性格もあると思います。

トランジスタでは速度が向上します。より多くのものを単一のチップに詰め込むことができれば、システムとしての信頼性が向上し、同時にコストが下ります。新しい技術へ移行するにあたって大きな犠牲を払わなくても良いという事例は、この分野の他にはほとんど思いつきません。

半導体産業ではすべてのものが同時に改善されます。これが他には見られない独特の性格であり、40年にわたってトレンドを維持することができた理由だと思います。

常に2~3世代先の技術は予想することができた

――その性格は半導体技術に独特のものだと考えますか。

ムーア そう思います。現在では磁気ディスクにも同様のことが言えるかもしれません。磁気ディスクの(記録)密度は大変な速さで向上してきています。しかしこのような性格を備えた技術は、他にはほとんど見当たりません。

――ムーアの法則の記事を書かれた時には、その独特の性格を念頭に置いていましたか。

インテル創業直後に工場を視察するムーア氏(左から2人目)

ムーア一般的な傾向としては認識していました。もちろん、当時の人々があまりよく分かっていなかったのは、集積回路によってエレクトロニクス製品が相対的に安価になるだろうということでした。それまでの用途の大半は、コストがほとんど問題にならない軍事向けでした。依頼された記事で伝えようとしたことは、集積回路がより複雑になるのに伴い、エレクトロニクス製品のコストは大きく低下するだろうということでした。

――当時の読者の反応を覚えていますか。

ムーア 反応があったかどうかは、まったく覚えていません。Electronics誌は業界の出版物の1つですが、図書館に備えられるような雑誌ではないため、当時なんらかの反応があったとは思いません。この記事に何か普通ではない内容が含まれていると認識されたのは、人々がそれを振り返ってみてからのことでした。

――法則に関して自信を得たのはいつでしたか。

ムーア 記事の出版後に業界を観察していましたが、当初予想した方向に沿って物事が展開しているのが見えました。それに基づき、私自身もこの予想を大きく進めることができました。私は常に2~3世代先の技術については予想することができ、それらはこのトレンド上にあると言うことができました。しかし、40年にわたってこの方向性が維持されるとは予想しませんでした。

――次に、半導体の未来について伺います。ムーアの法則を今後10年にわたり維持するには何が必要だと考えますか。

ムーア より機能が高くコストの低いエレクトロニクス製品を実現するであろう人々が存在することは、明らかです。これは、業界がこれまで大きな成功を収めてきた方向性が維持されることを意味します。具体的には、物理学的な法則が許す限り微細化が進められるということです。これは少なくとも今後2世代にわたって続くでしょう。

エレクトロニクスの分野では、他の分野からの技術が応用されてきているため、予想するのはより難しくなってきました。残念ながら、もはや業界を密に観察しているわけではないので、重要になる可能性を持つ、どういった新しい技術が導入されているかについては分かりません。

――今後2世代というのは、具体的にはどのような技術ノードを意味しているのですか。

ムーア 0.03μm(30nm)程度です。この程度なら十分、安全に予想できます。これ以上についても技術者が方法を見いだすでしょう。10nmのノードにまで進むかもしれません。

――有機半導体についてはどう思われますか。

ムーア どのような問題を解決しようとしているのかが分かりません。複雑なSi(シリコン)回路と競争しているのでないことは明らかです。チップ上に多数搭載した場合にはトランジスタは非常に安価であり、したがって(有機半導体に)コスト面での利点はありません。ディスプレーなどの用途があるかもしれませんが、有機半導体についても密に観察しているわけではないのでよく分かりません。(有機半導体について)興味を持っている人々は、それによってどのような問題を解決しようとしているのかを明確にすべきです。

――有機半導体は次の大きなトレンドや大産業に成長すると思いますか。

ムーア 知識に基づいて判断できるほど、業界に身を置いていません。有機半導体について詳細に検討したのは10年以上も前ですが、この間に大きな進歩があったとは承知しています。

――それでもディスプレーなどの用途は有機半導体に適していると考えていますか。

ムーア そのような用途になると思いますが、それも明確ではありません。ただし、デジタルエレクトロニクスの主流であるマイクロプロセッサーやシステムLSI(大規模集積回路)、メモリーなどが、有機半導体の用途としてふさわしくないということには確信が持てます。

失敗したプロジェクトから多くを学んだ

――米Intelでの経歴の中で、エンジニアとして最も印象深いプロジェクトはどれですか。

インテル創業初期のムーア氏(左)と後にインテルの3代目CEOとなったアンドリュー・グローブ氏(右)

ムーア難しい質問です。初期のメモリープロジェクトや最初のマイクロプロセッサーが頭に浮かびます。Intelはこれらの製品によって半導体業界に本格的に参入し、これらのプロジェクトについては私も後のプロジェクトよりも密接に関わりました。人目は引いたもののうまくいかなかった、つまり大きなステップを踏み出すことになると思ったが、その方向性が間違ってしまったプロジェクトもいくつかあります。どうも、うまくいかなかったものの方をよく覚えているようです。

――プロジェクトの具体的な名称をいくつか挙げてください。

ムーア 「432」と呼ばれるプロジェクトがありました。これは「8080」がマイクロプロセッサーとして人気を集め出した、1970年代半ばに私が開始したプロジェクトです。エンジニアのグループを集め、互換性などに気を使わなくてもいいよう、基本に戻ったプロジェクトを提案しました。

この結果として、コンピューターサイエンスの研究者たちのアイデアをすべて盛り込んだ、非常に先進的なマイクロプロセッサーを開発できました。しかし独自のソフトウエアを必要とするという点で、ミニコンピューターが採用した開発モデルを繰り返したものでもありました。

このタイプのプロジェクトは、当初の予想よりも長期化することがよくあります。プロジェクトが完了した段階ではすべての機能を持たせたために処理速度が犠牲となり、8080上でのエミュレーションと変わらないほど遅いマイクロプロセッサーとなっていました。ターゲットが間違っており、ミニコンピューターのモデルを採用したことも間違いであり、完成は遅すぎました。新しい機能をすべて備えていたため、世界中のコンピューターサイエンスの授業で使われる教材としては成功しましたが、製品化という点からは大きな失敗でした。

――つまり、432プロジェクトからも多くのことを学んだとおっしゃりたいのですか。

ムーア その通りです。「オブジェクトオリエンテッド」なマイクロプロセッサーでした。言語にはAdaを使用し、透過的なマルチプロセシングを行いました。当時としては早すぎた数々の機能を備えていましたが、目指したビジネスモデルとしては時代に後れていました。結果的には失敗でしたが、興味深いプロジェクトでした。

――「8086」についてはどうですか。

ムーア これは8ビット・アーキテクチャーの延長線上にあるもので、市場から明らかに求められていたものでもあります。「432」という急進的なアプローチではギャップを埋めることはできず、従って8086が必要でした。これは当初予想していたよりもはるかに大きな成功を収めました。特に、米IBMが最初のPC(パソコン)に8ビット・バス・バージョンの8088を採用したことが重要でした。従って、これは我々にとって非常に重要な製品でした。

――最初のマイクロプロセッサーである「4004」についてはどうですか。

ムーア 4004は最初のマイクロプロセッサーであり、歴史的にも極めて重要なものです。この歴史については、既によくご存じのことと思います。このマイクロプロセッサーに関してはビジコンとの共同作業でした。同社は一連の電卓を作りたいと考えていました。多数のカスタム回路を設計して持っており、その製造に関してIntelにアプローチしました。

当時、Intelはまだ小さな会社であり、多数の複雑な回路に対応するだけの数のエンジニアがいませんでした。エンジニアの1人、Ted Hoff氏がそれを見て、汎用のコンピューターアーキテクチャー1つでまかなえると言いました。またこの汎用アーキテクチャーは、当時作っていたメモリー回路よりもそれほど複雑なものではない、とも彼は考えました。

Intelにとって幸いなことに、ビジコンは我々の提案を受け入れ、自社の設計をあきらめて、電卓ではなくマイクロプロセッサーをベースとすることにしました。4004はこうして生まれました。

――(4004の共同開発者の一人である)嶋正利さんを覚えていますか。

ムーア もちろんよく覚えています。嶋さんは当初ビジコンに勤めており、同社の製品開発にあたる主要なエンジニアの1人としてIntelに来ました。

――まだ連絡を取り合っていますか。

ムーア 一昨年(2003年)「C&C賞」を受賞するため日本に行きましたが、そのときに短時間ですが会いました。

半導体産業を退屈と思ったことはない

――エンジニアとして一生をやり直すとすれば、また半導体産業に関わりたいと思いますか。

ムーア そう思います。半導体産業は社会のほぼすべての面に革命をもたらした産業であり、従って極めてエキサイティングでした。あまり何も知られていなかった、ごく初期の段階で参加したことは非常に幸運だったと思います。私は大学で半導体ではなく化学を専攻したのですが、それでもその当時に存在した技術を短期間のうちに身に付けることができました。私はたまたま良い時に、良い場所にいたのだと思います。

この業界を退屈だと思ったことはありません。退屈するには動きが速すぎます。技術の進化に伴って、製品の機能も変わり続けています。これは素晴らしい業界でした。今までのこの期間において、これ以上エキサイティングだった分野を想像することは困難です。

――半導体産業以外で、今興味を持っているのはどの分野ですか。

ムーア 小さな医薬品会社の取締役を務めています。成長を続けているため、もはやそれほど小さくはありませんが。取締役になったのは何年か前です。この会社は新薬に関するいくつかのアイデアを基にスタートしましたが、今ではHIV(ヒト免疫不全ウイルス)やC型肝炎用の医薬品の主要生産者の一つになっています。

これは(半導体産業とは)まったく異なった業界です。エレクトロニクス産業とは特徴がまったく異なります。そのコントラストが面白く、取締役としてわずかながら貢献したいと思っています。バイオテクノロジー産業は当分の間、非常に面白いと思います。この分野で行われている研究開発は、さらに多くのテクノロジーの発達を促すものです。許認可の取得などには長い時間がかかりますが、この分野も将来の人々の生活には大きな影響を持っていると思います。

――最新のテクノロジーを学ぶことは続けていますか。

ムーア それほど熱心とは言えません。どのようなことが行われているかは見ています。Intelに関しては主に取締役会に出ることによって、バイオ・医薬品産業については前述の小さな企業を通じて見ています。しかし、広い範囲のテクノロジーを追うことは不可能です。追いかけるために時間を費やすには範囲が広すぎます。

――最新情報を得るために多くの本を読んでいますか。

ムーア かなりの量を読んでいます。最新テクノロジーに関するものよりも、基礎科学的な書籍を手にする傾向があるように思います。科学全般の出来事に興味を失ったことはありませんが、生物科学のペースには付いていけていません。生物科学では何についても独特の用語が使用されており、広く追いかけることは不可能です。

――今読んでいる本のタイトルは何ですか。

ムーア 量子力学に関する「Entanglements」という本を読み終えたばかりです。今は資源保護に関する「In a Perfect Ocean」という本を読んでいるところです。Jared Diamondの新著「Collapse」も読みましたが、これはいくつかの文明の歴史に関するものです。最近読んだのはこんなところです。

――興味の範囲が非常に広いですね。

ムーア そのようです。興味の範囲が広くて困るのは、何についても深く踏み込めないことです。両方を行う時間はありません。

――次の質問でインタビューを終えたいと思います。日経エレクトロニクスはエンジニアを対象とする雑誌です。半導体やその他の分野のエンジニアを勇気づけるようなメッセージを頂ければと思います。

ムーア 私のメッセージは、テクノロジーにはまだまだ将来があるということです。社会への応用はますます進み、重要な影響を及ぼすようになります。社会にとって重要な結果を生む、技術的にやりがいのある面白い分野です。もし関心があるなら、キャリアを築くには素晴らしい場になると思います。

[日経テクノロジーオンライン2015年3月9日付の記事を基に再構成]

[参考]「ムーアの法則」が発表後50年を迎える2015年、日経エレクトロニクスは4月号で「さらばムーアの法則」と題した特集記事を掲載した。ムーアの法則を支えてきた半導体の微細化が限界に達するなか、「ポスト・ムーア時代」を支える新技術や半導体の使い手である機器メーカーなどに与える影響をまとめた。詳細は、http://techon.nikkeibp.co.jp/article/MAG/20150306/407701/

春割ですべての記事が読み放題
今なら2カ月無料!

関連企業・業界

企業:

セレクション

トレンドウオッチ

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
春割で申し込むログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で申し込むログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
春割で申し込むログイン