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「143分の1」であり、それ以上の重みもある開幕戦

目前に迫ったプロ野球の開幕。現役時代、実は不安で不安で仕方なかった。カウントダウンに入ると、良くも悪くもいろいろと考え込んだ。どちらかといえば、「マイナス志向」だった僕は、オープン戦の成績が良ければ「ピークが開幕前に来てしまった。調子が落ち気味でシーズンに入るのか」と悩み、ダメならダメで「あかんな」と単純に頭を抱えた。

山崎武司氏

不安だらけでも結果は出せた開幕戦

いい選手の条件の一つは「自分の気持ちをコントロールできる」ことだろう。今でこそ心理面からのサポートを受けられる「メンタルトレーニング」が球界でも導入されているが、僕らの若い頃にはそんなものもなかった。「験を担ぐ」という習慣にも無縁だった僕の頼みの綱は自分だけ。2月のキャンプインから2カ月近く照準を合わせて練習してきた開幕を前にして、わき上がってくる不安な気持ちを一掃するためには、「調子を良くしなきゃ」「頑張ろう」と自分自身に言い聞かせるしか手段はなかった。

不安だらけで開幕を迎えた僕だが、スタートは毎年良かった方だと思う。2005年の楽天イーグルスの創設初戦でも2安打を放つなど、開幕戦はどちらかというと打ったというイメージが強い。ただ、シーズン最初の安打や1号本塁打が出るまではドキドキだった。「今年は全然打てないんじゃないか」。押しつぶされそうな恐怖感は1本出たことでやっと払拭できた。

今季のプロ野球は交流戦の方式が変更されたため、昨季よりも少ない143試合でペナントレースを争う。その最初の試合の重みは単に「143分の1」ではないように思う。開幕戦は新たなシーズンを迎える、いわばプロ野球の元日。「開幕戦の1勝は2勝分」というくらいの価値を感じながら僕はプレーしていた。

「特別な白星」を心から欲する新監督

そんな「特別な白星」を心から欲しいと思っている人がいる。今季からチームの指揮を執る新監督たちだ。「早く1勝したい」「春先にいいスタートを切りたい」。どの監督もそうだが、新人監督はそんな思いがとりわけ強いだろう。

大リーグからの黒田博樹の復帰、若手の成長といったプラス材料が目立つ広島を率いる緒方孝市監督もその一人だ。現役からカープ一筋28年という、うってつけの人物がいいタイミングで監督に就任したと思う。とにかく「選手がやりやすい」はずだ。現役引退後も指導者として球団に残り、昨年はヘッド格の1軍野手総合コーチを務めたことで、選手の方が緒方監督の性格を知っている。その分、新監督の打ち出した方針を受け入れる土壌はできているともいえる。

ただ、期待が膨らむ分だけプレッシャーも大きいのは事実だ。昨季は3位で「よく頑張った」と褒められたカープだったが、今年は「いい結果をもう出してよ」というチーム。24年ぶりの優勝に向けて、新監督がどのような手綱さばきを見せるのか。僕とは同い年であり、プロ野球でも1986年のドラフトで指名された同期。人柄も知るだけに、期待を込めて見ていきたい。

緒方監督同様、チームをよく知る人物を新たにトップに据えたチームは多い。2軍監督時代に雄平、山田哲人ら今売り出し中の若手を鍛えた真中満監督を起用したのがヤクルト。昨年はシーズン途中から監督代行としてチームを率いた田辺徳雄監督を選んだのが西武。楽天はやはり昨年に星野仙一前監督の病気治療の際に監督代行を一時務めた大久保博元監督に指揮を委ねた。

せめて3~4年、長い目で見る必要

チームを勝たせるためのカギは「いかにしてぶれない采配を振るうか」だ。腕の見せどころは、自らの方針をどのようにわかりやすく選手に示せるかということになる。ただ、これには時間がかかる。今年就任した人はすべて「監督」としては1年生。キャンプから独自路線を打ち出してはいるものの、チーム全体を自分の色に染め上げるのは簡単なことではない。

もちろん白黒がはっきりつくのが勝負の世界。チーム内の事情に詳しい人物を「内部昇格」させたということは、すぐにも成果を出せということとイコールだが、少し長い目で見てほしい気もする。パッパと監督を代えるのではなく、「せめて3~4年は」と思うのは僕だけだろうか。

そして、もう一人、大役を引き受けた人がいる。昨季、日本一となったソフトバンクを引き継いだ工藤公康監督だ。「普通にやれば優勝」「このチームで勝てなかったら即責任問題」……。そんな声も聞こえるほど、戦力が充実したチームの指揮をとる覚悟は相当なものだろう。

パ・リーグは昨季同様にオリックスとのマッチレースが予想される。秋山幸二前監督は「放任」に見えて実は選手の性格や状態を熟知していたからこそチームを頂点に導けた。新監督は前任者のやり方を踏襲しつつも、独自の科学的なアプローチも加味してくるに違いない。僕にとっては愛工大名電高(愛知)の先輩。筑波大大学院で体育学を学ぶくらい研究熱心な理論派監督の采配ぶりを拝見していきたい。

長丁場、大事なのは「ぶれない」姿勢

プロ野球開幕の時期は入学式や入社式といった節目となる季節と重なる。プロ野球の監督のみならず、すべての人が「できることならいいスタートを切りたい」と思っていることだろう。とにかく「はじめを大事に」にしてほしい。でも、いいスタートを切れなくても焦らないことだ。

采配もそうだが、大事なのは「ぶれない」姿勢。ぺナントレースも人生も長丁場、最初はつまずいたとしてもいくらでも取り返しが利く。最終的にはどれだけ勝ち星を積み上げたかで勝負は決まる。どんなに重圧がかかろうと開幕戦も記録の上ではやはり1試合。矛盾することをいうようだが、シーズンが終わってみれば所詮「143分の1」でしかないのだから。

(野球評論家)

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