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空中で2種の大技 15歳が描く「5年後に金」の夢

トランポリン・森ひかる

五輪種目は数あれども、14歳の若さで日本の頂点に立った選手がいる。偉業を達成したのはトランポリン女子の森ひかる(15、フリーエアースポーツクラブ)だ。2013年の全日本選手権で、並みいる有力選手を押しのけて大会史上最年少で制覇。「まさか優勝できるとは思っていなかった」と振り返り、屈託のない笑みを浮かべる。

13年に森は14歳の若さで全日本選手権を制した(東京都足立区のフリーエアースポーツクラブ)

やると決めたら必ずやり遂げる

弾みをつけて大きく空中に伸び上がったかと思うと、クルクルと宙返り。美しくもあり、アクロバティックでもある。それがトランポリンという競技の魅力だろう。森はこう表現する。「よく言われていることだが、やっぱり地面とは違った感覚を味わえる。空を飛んでいるみたいな感じ。トランポリンって上がるときに、『ビュン』って風を切る音が聞こえてくるんです。それでフワッと上がる感じ。そうした感覚が好き」

3回転宙返り2分の1ひねり。通称「トリフィス」といわれる大技が、森の最大の持ち味だ。トランポリンは異なる宙返りを10本連続で跳んで「演技点」「難度点」「Tスコア(跳躍時間点)」の3つの合計得点で競う競技だが、演技の中に2種類のトリフィスを組み込んでいるのは、世界の女子選手を見渡してもあまりいない。

「遊び感覚でやったら、あれっできそうだってなって。それから練習したら、できるようになった」。それは小学6年生のときだった。補助器具をつけて挑戦してみたら、もう一歩。「最初にタック(抱え込み)ができるようになって、それからパイク(伸身)も……」。2種類の大技を瞬く間にものにした。

「本人がやると決めたら、必ずやり遂げる。やる気になったときのパワーはものすごいものがある」。フリーエアークラブの田中栄一コーチは、森の長所についてこう語る。1日に開かれた東京都足立区の競技会で、森はこれまでの最高難度の技を披露したが、そのプログラム構成を決めてから、わずか1週間でやり遂げたそうだ。「今まで(10本の合計が)14.2の難度だったが、それを14.6に。森ぐらいのレベルになると、難度を0.4上げるのは大変だが、きっちりと仕上げてきた」。何事も有言実行、目標をやり抜く心の強さが森にはある。

2人の兄から受けた影響大きく

練習前に兄の晴太郎(右)と柔軟体操をする森

森がトランポリンと出合ったのは4歳のとき。スーパーの屋上にトランポリンがあって、それで遊んだのがきっかけだ。「やってみたら面白くて。それから始めた。ただ、単純に跳ぶことが楽しかった」

4歳違いの2人の兄(双子)とともに、トランポリン教室に通い始める。だが、当初は体格の違いもあって兄たちはどんどん高いレベルのクラスにいってしまった。「なんとか追いつこうと思って」と森。持ち前の負けじ魂がむくむくと頭をもたげる。「2人の兄がいなかったら、今の森はなかったかもしれない。彼らから受けた影響、刺激は大きかったと思う」。田中コーチもそう断言する。

森は失敗を成功の糧にし、成長を続ける

次兄はすでに競技をやめてしまったが、現在、大学1年生の長兄・晴太郎は昨年、日本のジュニア強化選手に選ばれている有力選手。その晴太郎は妹の性格についてこう話す。「負けず嫌いですね。特に試合前になるとスイッチが入る。顔つきが変わってキリッとして、集中しているのが分かる」

「着地でのミスは2度としない」

13年の全日本選手権は予選を8位で通過。無欲で決勝の舞台に臨んだことが、初の栄冠につながった。「もっとうまい子が、そのときはみんな失敗してくれた。全日本はトップクラスの選手たちがみんな目の色を変えて挑む大会。彼女は決勝に残ってラッキーといった感覚だったので、普段通りの演技ができたことがいい結果につながった」と田中コーチは話す。

森も「全日本の決勝は、本当に独特の雰囲気があった。会場がシーンとしていて。でも、チャレンジャー精神でいったのがよかった。トランポリンは真ん中で跳ぶほどいいが、本当にこのときは10本全部真ん中でピタリと跳べた。当時の自分のマックスの演技、いい10本が跳べたと思う」と満足感を口にした。

だが、連覇を狙った昨年の全日本選手権では7位に沈んだ。10本の演技をした後、もう1本跳んでフィニッシュを決めるはずが、その最後のところで肩から落下してしまったのだ。「そこでミスしたことがなかったので、自分でもびっくりした。10本目までは会心の演技ができていたので、そのままいけば優勝できたかもしれない。でも、それがあったからこそ、今では着地までが演技なんだ、と考えるようになった。もう、着地でのミスは2度としないと思う」と言い切る。

森は「着地でのミスは2度としないと思う」と語っている

「次につながる失敗ならばしてもいいよ、とよく選手にはいっている。でも、次につながらない失敗ならダメだよ、と。失敗を繰り返さないためにどうするかを考えて練習することが大事だが、彼女は失敗を成功の糧にしてくれている。失敗しても、それをプラスに変えていってくれている」と田中コーチも目を細める。

年齢制限、リオ五輪に出場できず

同コーチの言葉を借りれば「子供はみんな天才」。だが、その後に伸びるか、伸びないかの違いは、行動や考え方によって決まる。「森にはそうしたことを、きちっとできる力がある」

トランポリンには年齢制限があるため、来年のリオデジャネイロ五輪には出場できない(16年12月31日までに18歳になること)。このため、目指すのは20年の東京五輪だ。開幕したときには21歳と、メダルを狙うにはちょうどいい年齢となる。「東京で、日本で(五輪を)やることになって本当にうれしい。こんなチャンスはないと思う。やるからには目標を高く持って、金メダルがほしい」と森は目を輝かす。

もちろん、世界を見渡せば有力選手はたくさんいる。中でも同種目の個人女子で08年北京五輪で金、12年ロンドン五輪では銀、銅メダルを取っている中国勢は強敵だ。「中国の選手はすごいと思う。1本1本の技の完成度が高くて、中断(連続10本のジャンプが跳べずに演技をストップしてしまうこと)もほとんどしない。ちょっと小耳にはさんだのだが、10本を何回も繰り返して跳ぶ練習をしたり、10分間ずっと跳び続ける練習をしたりしているみたい」

東京五輪では「やるからには目標を高く持ち、金メダルがほしい」と目を輝かせる

「できる」を3回、心の中でおまじない

そうした練習法をまねようとはしないのかと聞くと、「今はとても無理。10本のジャンプを連続すると300メートルを全力疾走したのと同じくらいの体力を使うらしい。(外から見るよりも)ずっとハードな競技」と森。それでも、これからどんどん筋肉もついてくる時期なので、「跳ぶ練習だけではなく、トレーニングも積んで体幹を鍛えていきたい」と課題を見据えた。

トランポリンで大切なことは「自信を持ってやること」だという。それを深めるために、こんな"おまじない"をかけている。「『できる、できる、できる』って、『できる』を心の中で3回。それがクラブではやっているので。いつもではないが、私もたまに自分に言い聞かせてから演技に臨んでいる」

00年シドニー五輪から正式種目となったトランポリン。日本勢はまだ男女とも五輪でメダルを獲得したことがないが、その「壁」を突破できるのか。5年後の夢舞台へ。さらなる高みを目指し、ジャンプする。

(鉄村和之)

(次回は28日にボクシングの松本圭佑を掲載します)

 森ひかる(もり・ひかる) 1999年東京都出身。4歳のときにトランポリンの教室に通い始める。2011年世界選手権11~12歳の部で優勝。13年全日本選手権優勝。14年都道府県対抗大会で優勝。同年の全日本選手権は7位。

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