本番前に淘汰開始、太陽光バブルが生んだ「新電力バブル」
電力小売り全面自由化を1年後に控え、新電力(特定規模電気事業者、PPS)の届け出が急増している。とりわけ、ここにきてペースは加速しており、月間で数十社ずつ増える勢いを見せる。2015年3月半ばの時点で届け出企業数は600社に手が届くところまできた。
それでも、電力の需要家の立場から見たとき、新電力から電力が購入しやすくなったという実感は薄いだろう。それもそのはずで、経済産業省の電力調査統計によると、2014年12月時点で電力小売りのための送電や受電の実績があった新電力は60数社にとどまり、多くは小売り事業に着手できていない。増え続ける新電力は今後、どのような展開を見せるのかに注目が集まっている。
約7割が「発電所をすでに持っている」
日経BP社のエネルギー専門誌「日経エネルギーNext」が2015年3月号で、新電力を対象に事業の現状や計画を聞いた「第1回 新電力実態調査」の結果を報じた。そこから浮かんできたのは、"新規参入検討組"の太陽光発電依存だ。
新電力実態調査では回答企業のうち、「送受電実績がある」と回答した38社と、「これまで送受電実績はない」と回答した84社を分けて集計した。「送受電実績あり」の多くはすでに電力小売りに参入している新電力、「送受電実績なし」は新規参入を検討している新電力と見ていい。
調査で、小売りのための電力を確保する手段として自社で発電所を持っているかどうかを聞いたところ、送受電実績がない新電力でも70.2%が「すでに持っている」と回答している。これは、送受電実績のある新電力の81.6%と比べても大きな遜色はない。発電所を持っていることが、電力小売りへの参入を検討する大きな根拠になっていることをうかがわせるものだ。
ほとんどが火力系発電所持たず
だが、自社発電所の中身は「実績あり」と「実績なし」では大きく異なる。「実績あり」の新電力の場合、55.3%が太陽光発電を持っている一方で、石炭火力(10.5%)や石油火力(10.5%)、ガス火力(23.7%)、バイオマス発電(15.8%)、廃棄物発電(10.5%)といった火力系の発電所を併せ持っているケースが多い。
これに対して、「実績なし」の新電力は67.9%が太陽光発電を持っているものの、火力系の発電所はほとんど持っていない(図)。つまり、電力市場に新たに参入を検討している新電力の多くは、極端な太陽光依存の状態にある。

再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)の導入で、全国に太陽光発電所が急拡大した。つまり、新電力が急増している背景にFITがある。現在は太陽光で発電している電力を大手電力会社に買い取ってもらっているが、全面自由化を契機に自社での販売を検討する太陽光発電事業者が増えているのだ。
"作り置き"できない電力
しかし、太陽光発電頼りの電力小売りには大きな課題がある。電力小売り事業者には「同時同量」と呼ばれる需給調整が課される。"作り置き"ができない電力は、常に発電量と需要量を一致させる需給調整が必要になる。
30分単位で需要量と発電量のズレを3%以内に抑える作業を同時同量といい、ズレが3%を超えるとペナルティー料金を支払わなければならない。同時同量の巧拙は新電力の収益を大きく左右する。
太陽光発電は天候などで発電量が左右される変動性電源である。需要に応じた発電量の調節はできず、同時同量を達成することはきわめて難しい。大手電力会社の場合は低コストで安定した発電が可能な石炭火力などと、出力調整がしやすいガス火力などを組み合わせることで、変動する需要に合わせた電力供給を実現している。新電力も電力小売りに参入するには、ガス火力などの調整電源を併せ持つ必要がある。
早くも始まる新電力の淘汰
実は、いまの制度で新電力になっても2016年4月の全面自由化を機に電力小売りに参入することはできない。同時に「小売り事業者登録」という新しい制度に切り替わるためだ。これまでは簡単な届け出さえすれば新電力として電力を小売りする"資格"が得られたが、新たな登録制度では国が定めた要件を満たさなければならない。その要件の大きなものが「供給力確保」だ。
電力の小売りに参入する事業者は、小売りの計画(需要計画)を提出し、計画を確実に達成する裏付けとしての電力の確保が求められる。電力の供給力として太陽光発電を用いるケースでは、天候の急な変化で発電量が落ちても、その穴を埋めて顧客の需要を満たすバックアップ用の電力を用意することなどが求められる。太陽光発電だけに頼る場合、需給調整をどうするかの問題以前に、小売事業者の登録審査に合格しない恐れがある。
小売り事業者の事前登録は2015年後半にも始まる。そして、急増する新電力の淘汰が始まる可能性が高い。
(日経BPクリーンテック研究所 中西清隆)