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メイウェザー対パッキャオ 超高額券が示す興行価値

スポーツライター 杉浦大介

5月2日についに実現するボクシングのドリームマッチ、フロイド・メイウェザー(米国)対マニー・パッキャオ(フィリピン)戦(世界ボクシング協会=WBA、世界ボクシング評議会=WBC、世界ボクシング機構=WBOウエルター級統一戦)の発表記者会見が11日、米ロサンゼルスで行われた。当日は約700人のメディアが集まり、スポーツ専門局のESPNが異例の生中継。全米での盛り上がりは試合直前まで続きそうだ。現代の「世紀の一戦」はいったいどれだけの興行成績をたたき出すのか。そして、この試合がこれほどのビッグビジネスになった理由はどこにあるのか。

「ベストとベスト」の世紀の一戦

「今回の試合よりもオスカー・デラホーヤ(米国)やミゲール・コット(プエルトリコ)との対戦のときの方が心配だったよ。コットの方がハードパンチャーだったからね。メイウェザーのディフェンスはいいけど、プランを用意してある」

11日午前、ESPNの番組に出演したパッキャオがそんな刺激的なコメントを残していただけに、発表会見も荒れ気味になるかと思われた。パッキャオが名前を挙げたデラホーヤ、コットとはメイウェザーも対戦し、勝利を収めている。そうした選手たちと比べられて、プライドの高いメイウェザーは心中穏やかではなかったのでは……。

しかし、会見の壇上に立ったメイウェザーは驚くほど冷静に見えた。「長い道のりだったけれど、僕たちはここにたどり着いた。5月2日は世紀の一戦だ。パッキャオは現代最高のファイターの一人。ベストとベストの戦いだよ」

これまでのメイウェザーは徹底して悪役を果たすことで自身の商品価値を高め、「マネー(金の亡者)」とのニックネームまで自称した。そんな如才ない王者も、自身と人気、評価を二分するパッキャオとの対戦では余計なセールストークは不要だと判断したのだろう。

歴史的なプラチナチケットに

無敗のまま5階級を制覇したメイウェザーと、全8階級にわたって活躍し6階級を制したパッキャオ。全階級を通じて最高レベルと思われる2大ボクサーであり、米フォーブス誌のスポーツ選手長者番付でかつて1位(メイウェザー)、2位を占めたほどの人気者同士でもある。そんな2人の対決が発表されて以降、全米は「フィーバー」と呼んでいいほどの騒ぎに包まれている。

1万6000枚用意されるチケットには、なんと1500~7500ドル(約18万2000~91万円)という値段が付けられた。当初は1000~5000ドルと想定されていたが、爆発的な需要によって値段が跳ね上がったもようだ。

これらのチケットの大半はプロモーター、テレビ局、カジノ業者側に流れるため、一般のボクシングファンの購入はほとんど不可能に近い。著名人への「コンプリメンタリーチケット(無料券)」も今回に限っては「存在しない」と関係者が明言しており、文字通りの歴史的プラチナチケットになりそうな情勢である。

ボクシングにおける過去の入場料収入の最高は、2013年のメイウェザー対サウル・アルバレス(メキシコ)の約2000万ドル。今回はその倍以上の約5000万ドル超となることが確実視され、ブローカーの間で出回るチケットには尋常でない値段が付けられることになりそうだ。

PPV放送売り上げも最高が確実

コンテンツを選んで視聴する課金制のペイパービュー(PPV)放送の売り上げも、途方もないものになることが確実だ。近年のビッグファイトのPPVの価格は60~75ドルくらいが相場だったが、この試合では過去最高の89.95ドル前後、ハイビジョン(HD)では約100ドルになると予想されている。それほどの高額もファンの購買意欲を妨げるとは思えず、入場料収入と同様、PPV売り上げも過去最高(07年のメイウェザー対デラホーヤ戦の約244万件)を更新するのは間違いない。

注目される両選手のファイトマネーがいくらになるかは、このPPVの結果次第だ。通常はPPV売上高のうち10%をテレビ局が受け取り(今回は共同で番組をつくる2局が折半)、45%はプロバイダーとなるケーブルネットワーク企業に流れる。残った45%に入場料収入、海外の放映権、グッズ売り上げなどが加えられ、そこから前座ファイト料やもろもろの経費を差し引いた金額がメーンイベントに関わる人たちの取り分になる。

最終的なPPV売り上げは300万件以上、総興行収入は4億ドルに及ぶとの見方から、メイウェザーは1億2000万ドル、パッキャオは8000万ドル程度のファイトマネーを受け取ると予想されていた。しかし、試合決定以降の騒ぎを体感したトップランク社(パッキャオのプロモーター)のボブ・アラム氏や他の関係者は、「PPV売り上げは500万件に近づくかもしれない」と語り始めている。

ファイト料、共に1億ドル超えも

本当にそうなった場合には、メイウェザーのファイトマネーは約1億8000万ドル、パッキャオは1億2000万ドルに達する計算になる。これらのとてつもなく巨大な数字にどれだけの現実性があるかは微妙だが、そんな概算がなされること自体、今回の試合のスケールの大きさを物語っているといえよう。

さて、それではこの一戦がビジネス的にここまで大きくなった要因はどこにあるのか。

メイウェザーとパッキャオの対戦は、パッキャオがウエルター級に階級を上げた08年あたりから何度も話題に上ってきた。しかし、最強王者同士の決戦が必ずしも簡単には実現しないのが興行の世界。報酬分配、薬物検査の方法、契約テレビ局と所属プロモーターの違いといった様々な要因で、2人の対決はしばらく幻のスーパーファイトであり続けてきた。

長らく現代のトップボクサーの地位にあるメイウェザーだが、2月で38歳を迎え、パッキャオも36歳になった。実力的には全盛期をすぎたことは明白だけに、今春ようやく対戦が決まった後でも、「5年遅かった」と揶揄(やゆ)するような声が少なからず聞かれる。しかし、こうして長く待たされたことが、ついに実現する一戦の爆発的な話題性につながっているのも事実である。

「派手なプロモーションは必要ない。メイウェザーとパッキャオは過去5年にわたって、対決に向けての壮大なプロモーション活動を行ってきたのも同然だからね」

ある関係者のそんなコメントが、実は的を射ているのだろう。この試合に関しては、全米を巡回するような会見ツアーも、メイウェザー得意の営業目的のトラッシュトーク(汚い言葉や挑発)も必要ない。

全米巻き込む「大パーティー」続く

ともに衰えが目立つとはいえ、依然として全階級を通じてトップ5に入るボクサー同士である。直接対決の"賞味期限"をここまで保たせたのは、業界の世代交代の遅れよりも、2人の王者の偉大さによるのだろう。メイウェザーとパッキャオを知らないスポーツファンは米国には存在せず、決戦へのボルテージは当日が近づくにつれて高まり続けるはずだ。

「モハメド・アリ対ジョー・フレージャー、レイ・レナード(いずれも米国)対ロベルト・デュラン(パナマ)、レナード対マービン・ハグラー(米国)……。そしてパッキャオ対メイウェザーだ。現代最高の試合であり、偉大なイベント。世界中の人々がこの試合に興味を持っているよ」

大言壮語も多いアラム氏だが、過去のビッグファイトを引き合いに出した発言も今回ばかりは大げさに聞こえない。試合がどんな内容になるのかは別の話。ただ、興行面、ビジネスの大きさでは、現代のスーパーファイトは紛れもなく米スポーツの歴史に刻まれ、永遠に語り継がれていくことになる。

現代の私たちが歴史の生き証人になるまで、あと1カ月半。今後も多くのメディアが「世紀の一戦」を様々な形で伝え続けるはずで、ビッグマネー絡みのエピソードもまだまだ出てくるに違いない。全米を巻き込む"大パーティー"は、まだ始まったばかりである。

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