ロボットは東大に入れなくても、人間の仕事を奪う

2015/3/14付
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ITpro

「ロボットがもし東大に入れなかったとしても、コンピューターがホワイトカラーの仕事を奪っていくのは間違いない。(東大合格を目指す)『東ロボ君』の大学入試偏差値が『55』になるか『60』になるかで、失われる仕事のタイプを予見することが可能だ」――。

国立情報学研究所(NII)の新井紀子教授(写真:井上裕康)

国立情報学研究所(NII)の新井紀子教授(写真:井上裕康)

「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトを指揮する国立情報学研究所(NII)の新井紀子教授は2015年3月12日、「Cloud Days Tokyo/ビッグデータEXPO/スマートフォン(スマホ)&タブレット/Security/IoT Japan」の講演でこのように語り、「東ロボプロジェクト」の意義について説明した。

コンピューターや人工知能がホワイトカラーの仕事を奪うことになるという問題意識は、『Race Against The Machine(邦題:機械との競争)』が2011年(日本では2013年)に発行されてベストセラーになることで、一般的になったとされる。しかし新井教授はそれより1年前の2010年末に『コンピュータが仕事を奪う』という著書を発行し、社会に警鐘を鳴らしていた。

ところが新井教授の著書は、全く売れなかったのだという。「当時は人工知能に対する期待が最も低い時期で、『コンピュータが仕事を奪う』は書店でもコンピューター書の場所に置かれていて、注目を浴びなかった。これは必ず起こる未来なのに、政治家もビジネスマンも誰もそのことを認識していないことに強い危機感を覚えた」。新井教授は当時をそう振り返る。

新井教授によれば、2010年におけるこうした人工知能に対する無関心こそが、NIIが「東ロボプロジェクト」を開始した動機だったのだという。「人工知能が2021年までに東大に入れるかと言えば、きっと入れないだろう。しかし2011年のプロジェクト開始から2年がたって、『東ロボ君』はかなりの数の大学に入れる水準になった。東大でなくても、最終的に国民の皆さんがショックを感じるような大学に入れるようになれば、プロジェクトは十分役割を果たしたことになる」(新井教授)。

■東ロボ君の成績が社会のこれからを左右

「ロボットが東大に入れれば、あらゆる人の仕事が脅かされ、誰もが失業するということになる。しかしロボットが入れる大学がある程度のレベルに留まるのであれば、『高度な知識処理ができる人は失業しないで済み、残りの人たちは今とは違うタイプの職種に移らなければならなくなる』ということが分かる。つまり東ロボ君の成績は、多くの人の仕事の未来を示す目安になる」(新井教授)。

実際に、どのような仕事が無くなる可能性が高いのか。新井教授はホワイトカラーの仕事の中でも、銀行の融資担当者の仕事が無くなる可能性が高い、と指摘した。融資担当者と言えば、ドラマ「半沢直樹」で話題になった職種だ。「お金の出入りが全て分かれば、融資リスクは全て数式で判断できるようになる」(新井教授)ため、人が関与する必要が無くなるというのがその理由だ。

新井教授は「東ロボプロジェクトは、『ビッグデータ』や『機械学習』によって実現されるものではない」とも説明した。「大学入試に関連するデータは、全て合わせても2Gバイトしかなく、ビッグデータではない。また機械学習で成果を挙げるには、100万個の問題を使ってトレーニングする必要がある。トレーニングは『英語の発音問題』など分野ごとに必要で、そういった問題を100万個も集めるのは不可能」(新井教授)。

新井教授は、「ビッグデータや機械学習は、コンピューターパワーやデータの量のような物量がものを言う世界であり、参入するうまみのないレッドオーシャン」だと説明する。それに対して「東ロボプロジェクト」は、「スモールデータと統計的な手法をミックスした、誰もやっていないブルーオーシャン」(新井教授)だと語り、プロジェクトの意義を力説した。

(日経コンピュータ 中田敦)

[ITpro 2015年3月13日掲載]

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