2019年8月17日(土)

為替変動に負けない農業 ヒントは里山資本主義  (加藤百合子氏の経営者ブログ)

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2015/3/16 7:00
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考えてみれば当たり前でして、今は円安だから農家側に有利な風が吹いているように見えますが、当の農家にしてみたら、また円高に振れたときの反動が怖い。局面が変わったら、「中国産と同じ価格で出荷してください。さもなければ契約を打ち切ります」と言われるのではないかと疑っていて、だからこそ信頼できる相手との長期契約を望むわけです。農家と外食、流通が頼りあえる関係を築き、人手不足を解消するための知恵を出し合い、協力しあうことが重要なのではないでしょうか。

もうひとつ、為替変動による深刻な影響が出ているのが酪農業です。円安の影響で飼料が高騰し、コスト増に耐えられなくなった酪農家の廃業が急増。乳牛の頭数も激減しており、その結果としてバターが品薄になっているのはご存じの通りです。

経済がグローバル化する中では、為替変動を織り込むのが経営の常識なのでしょうが、個人経営がほとんどの農業にむき出しの経済原則を当てはめても、どうもうまくいくような気がしません。為替変動のリスクを切り離すまではいかなくても、軽減できないものか。私自身、自問自答を続けておりまして、まだ明確な答えを持っていないのですが、九州地方のある酪農家のケースがヒントになりそうだと感じています。

帰宅すると、いただきものの新鮮野菜が玄関にどっさりあることも

帰宅すると、いただきものの新鮮野菜が玄関にどっさりあることも

どんな酪農家さんかと申しますと、乳牛30頭を放牧して悠々自適に生活していらっしゃるのです。牛たちは自然に生えている草を食べるので、飼料はほとんど使わずに済みますし、牛舎から勝手に出て行って、時間になるときっちり帰ってくるので、手間もあまりかかりません。自然に近い飼育ですから牛乳の品質も良く、チーズやバターに加工すると高級品のカテゴリーで売れていくため、高収益を上げられるそうです。飼育頭数を多くして生産効率を高めるのとは逆の発想。「自己完結」というキーワードが浮かび上がります。

自己完結の幅を少し広げて「地域完結」というのはどうでしょうか。生活に必要なものを地域で採る、育てる、物々交換する。いわゆる「里山資本主義」です。

実は当社も少しだけ里山資本主義を体験済みです。静岡県菊川市の近隣地域の農業振興をお手伝いしたのですが、報酬をもらうというほどの仕事ではなかったので、かわりにおいしいジビエ(野生鳥獣肉)のレストランでごちそうになりました。その時の支払いに使っていたのがそのレストランが発行するランチチケット。そのランチチケットの流通経路が面白くて、もともとは猟師さんが獲物をレストランに納品した際に、代金の代わりにレストランから受け取ったものだそうです。そのチケットは猟師さんの家のまき割りを手伝ってくれた人の手に渡り、そして我々もごちそうにあずかりました。さらに、そのレストランは食材の注文を当社に出してくれて、換金されずにビジネスが回っているのです。

信頼関係で成り立つ物々交換、サービス交換。昔からある持ちつ持たれつの地縁、と言ってしまえばそれまでですが、チケットを介在させることで、もう少し広がりを持たせることができるのではないでしょうか。お金のやりとりは水くさい。かといって、まったくの無償では気が引ける。「あのときの貸しを返してくれ」の「貸し」をチケット化して流通させることで、地縁に付き物の「しがらみ」の色合いを薄めることができると思います。

そしてこの仕組みを市町村単位に広げることができれば、為替変動に強い地域経済が実現できるかも。自己完結できる分野とグローバルな競争をする分野をバランスよく持つことで、農業、そして地域を強くすることができると思います。

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読者からのコメント
ティーさんさん、60歳代男性
農家、特に酪農家の方々が為替の変動(円安)に苦労されていることに対して、自己完結の幅を広げる「里山資本主義」を提唱されていますが、日本の国土と農地をマクロに見て成立するのでしょうか? 牛舎で飼料を与えて牛乳なり生産しているのは、土地効率の観点から必要悪のようなものと考えます。為替の影響を最小限にするには、仕入れと販売に占める外貨分を出来るだけバランスをとるに限ります。グローバルな観点で考えると、当然の帰結です。飼料を輸入に頼るなら、ある程度は生産物を輸出することを考えるべきです。そのためには価格競争ではなく生産物の品質ブランドの確立が不可欠ですが、最近の日本の農産物などのブランド力を考えるとクリアできると思います。
脱サラ果樹園主さん、50歳代男性
私は果樹専業農家です。農業者以外の方のブログということでいつも興味深く読ませていただいています。今円安で日本の農業者には追い風が吹いていますが、為替は常に変化しており、再び円高になれば海外からの輸入農産物は価格競争力を増します。何も対策をせず、無関税で自由貿易にすれば付加価値の高いものは生き残るかもしれませんが、一般消費者対象の作物を作っていれば壊滅的な打撃を受けるのはさけられないのではないでしょうか。抜本的な対策を打たない限り、日本農業の生き残りは難しいような気がしてなりません。私の考える抜本的対策は農業への参入に関するすべての規制を排除し、パイロット事業を導入し、規模拡大することです。海外の国と同じ経営条件を得ることが出れば、工業のように世界と戦えると考えるのは愚かなことでしょうか?
30歳代男性
日本の財政の行く末が怪しい昨今では、農業改革と食糧自給は必須課題と感じます。地域通貨によって国際為替の影響を排除する取引方法は、デフォルトで苦しんだアルゼンチンで行われていると聞きました。私などもいざというときの生活防衛のために自家菜園ぐらいやっておきたいと思ったりします。
嘆きの60歳さん、60歳代男性
農業問題も為替に左右される産業、その上人手不足と言う事で、二重苦、三重苦の日本の他の産業と変わりがありません。やはりグランドデザインを検討しないといけないのでしょうね。地域完結型、その運営に里山資本主義を移植する。この場合それを前提として街つくりができるか、その地域の住民のコンセンサスが得られるか疑問である。日本国内に南北問題が発生しないか危惧します。地球規模では、この問題は解決されていなくて豊かさを求め、活動が展開されています。その上自然を相手に事業をするのですから、改めて困難さを感じ、一筋縄ではいかないと思います。全ての人、事項がいっぺんに解決することはないでしょうから、タイムテーブルに従い、辛抱する時期、発展する期間を見極めて進めるしかないのでしょうか。それには、イノベーションの人と会う事でしょう。知恵を出して方策を考えるのが近道です。
小倉摯門さん、60歳代男性
愚見では、為替変動に応じて海外進出し国内回帰する動きには様々な要因があるが、巨視的に観れば、質的な差別化ができない商品はコモディティ化し価格が唯一の競争要素になり価格競争に巻き込まれ、為替変動の影響をもろに受ける。生産拠点の立地や販売市場について、国境を出るか否かの判断は謂わば執行役員レベルで済む。他方で、商品企画-製造-販売(資金回収)のビジネスサイクルの中で、画期的に付加価値を生むのは技術的R&Dを含む商品企画であり投資リスクも高い。そのリスク投資を広深永な智見でBoldに決断し実行することこそが経営トップの責務でありガバナンスだと思う。農業がそのサイクル全体を担う雲行きにある今、農業者が高付加価値な商品サービスを生み出すべく準備と研鑽が求められているのだと思う。為替変動に負けないビジネスモデルは其処にあるのだと思う。里山資本主義の多様で有機的で活き活きとしたイメージとも重なる。

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