/

被災地復興を後押し NPOと企業の連携広がる

 東日本大震災の被災地復興で、NPOと企業の連携が広がっている。震災から4年。被災者や被災企業などのニーズの変化に応じて生活・雇用などの再建促進をめざす狙い。NPOと企業が双方の強みを生かして相乗効果を高めようとしている。NPOが活動を継続できるよう、事業基盤づくりを企業が支援する動きも目立っている。
経済同友会の加盟企業との研修に臨んだ宮城県女川町の事業者ら(東京)=NPO法人アスヘノキボウ提供

経済同友会と連携して、地域の水産加工業の社員や町の職員の研修を実施したのは、NPO法人アスヘノキボウ(宮城県女川町)。1月下旬と2月上旬、同町から東京の大手企業に計25人を5日間の日程で派遣した。参加者は20~30代が中心。人材育成や人事制度からマーケティング、商品開発までそれぞれが必要なテーマに沿って、受け入れ先の企業で研修に取り組んだ。今回が2回目の試みだ。

受け入れ先はアサヒグループホールディングス、ANAホールディングス、日本政策投資銀行、日本航空、丸紅、三菱地所、ヤマトホールディングスなど11社に及んだ。

アスヘノキボウでこの事業を担当する桑原光平さんは大手銀行の出身。水産業を中心とする地域の企業について「人事制度が整っておらず、モチベーションを高める仕組みづくりもできていない。離職率が高く、採用もうまくいっていない」と指摘する。「水産加工業者などが消費者向けの最終製品を作ろうとする動きが出てきているが、試行錯誤の状況」。今後は研修後にフォローする仕組みとして月1回ペースでの勉強会を検討している。

女性に特化し、人材育成や起業支援に取り組む動きもある。NPO法人・石巻復興支援ネットワーク(宮城県石巻市)が「ランコム」ブランドを展開する日本ロレアル、石巻市と手がける研修プログラム「Eyes for Future by ランコム」だ。

ママカフェ「Cafe butterfly」では講座の受講経験者によるジェルネイルも(宮城県石巻市)

初回の13年度はメイクアップ、パソコン、コミュニケーション講座など全15回で、25人が参加。14年度は同様の「人材育成コース」に23人、新設の「女性起業家サポートコース」(テーマは美容、飲食、ネットビジネス)に11人が参加した。実際、事業を始める人も出ており、15年度は起業家の育成に重点を置いたプログラムを検討している。

講座だけに終わらせず、フォローも重視している。JR石巻駅前のビル2階に開設したママカフェ「Cafe butterfly」を地域の女性たちが気軽に集える場にして、何かを始めたい人の相談に乗ったり、起業家どうしが悩みを共有したりできるスペースにしている。

同ネットワークの兼子佳恵代表理事は「行政には行政、企業には企業、私たちには私たちの強みがある。だれでも一歩踏み出して声を出せば、つながって強みを発揮できる」と強調。地域のニーズをくみ取り、課題解決に向けた「つなぎ役」に徹する考えだ。

「東北の食の魅力を発信したい」と話す東北復興プロジェクトの菊島さん(宮城県名取市)

仙台空港から近い宮城県名取市の新興住宅地近く。パン工房やレストラン、そば店が並ぶ商業施設「ROKU FARM ATALATA」がある。13年9月にオープンした。障害福祉サービス事業所経営者や食品コンサルタントら6人が立ち上げた事業で、一般社団法人東北復興プロジェクト(名取市)が運営する。

農業・漁業生産の6次産業化を通じて地域の再生を後押ししようと開設。従業員84人のうち34人は障害者を雇用している。店舗では地元産の野菜などを採用し、冬場を除きマルシェを月1回程度開いている。一定の来店者もあり、地域に浸透してきたが、東北復興プロジェクトの広報担当、菊島朋子さんは「まだまだコンセプトが浸透・理解されていない」と厳しい自己評価だ。

そこで4月の中旬から下旬をめざして検討中なのが各店舗の名称変更も含めたリニューアル。電通の協力を得て来店者にどうコンセプトや素材の調達先、その魅力などを知ってもらうか、課題の洗い直しを進めている。

実は電通と東北復興プロジェクトとを結んだのはNPO法人のETIC.(東京・渋谷)。震災後、現地で復興に取り組むリーダーを支える仕組みをつくろうと電通のほか味の素、花王、損保ジャパン日本興亜、東芝、ベネッセホールディングス、いすゞ自動車の計7社と組んで連携組織「みちのく復興事業パートナーズ」を設立。企業経営者やNPO法人などのトップの参謀役となる人材を公募・選考のうえ派遣する「右腕派遣プログラム」などに取り組んできた。

キャンナス東北で看護師ボランティアらからヒアリングする損保ジャパン日本興亜の社員(中央の男性ら)=宮城県石巻市、同社提供

同パートナーズでは、現地の団体が継続して活動していけるような基盤整備も手がけている。仮設住宅などに暮らす人たちの健康づくりに取り組む看護師らのボランティア団体が設立した一般社団法人キャンナス東北(神奈川県藤沢市)を支援するのは損保ジャパン日本興亜だ。12年7~9月に2人1組の社員を2週間ずつ、計10人派遣。15年2月も計4人をそれぞれ数日間派遣した。

キャンナス東北は当初、宮城県石巻市から気仙沼市のエリアにある避難所での医療活動にかかわった。石巻市に拠点を設けて法人化し、仮設を巡回する医師の補助や健康づくりの事業などに取り組んでいる。全国各地から受け入れたボランティア看護師らは延べ約1万8000人(1月末時点)に達している。

当初は被災者の健康状態を管理するカルテの管理など、事務部門にまで十分に手が回らないのが実情。情報の共有や必要な情報の抽出・整理が難しく、助成を得るのに必要な行政への報告書作成にも支障が出る状況だった。損保ジャパン日本興亜の社員はデータ管理の改善などに協力。再度の派遣となったこの2月も、震災から4年を迎える状況の変化に対応したニーズの把握に努め、助成金以外の資金調達の手段として、賛助会員制の導入や企業視察の有償化といった手法をともに練り、提案した。

同社CSR部の市川アダム博康特命課長は「現地で活動する団体の活動は"思い"が先行して成り立っている。生産性、効率性を度外視している部分があるが、企業はそうした分野の改善に役立てる」とみる。

地元のNPOなどと組み、若者の就労支援に取り組んできたのは日本マイクロソフトだ。12年1月から13年3月にかけ、岩手、宮城、福島の被災3県と東京都内の避難者向けに実施した。パートナーは、岩手がNPO法人のいわてNPO-NETサポート(北上市)、@リアスサポートセンター(釜石市)など、宮城が認定NPO法人BHNテレコム支援協議会(東京・上野)、福島がNPO法人・寺子屋方丈舎(会津若松市)など。マイクロソフトはソフトウエアとカリキュラムを提供。計851人が受講した。期間後は地元団体が継続して同様の講座を開けるようノウハウも伝授した。実際、地元の団体が各地で継続して講座を開き、参加者の就業に役立っている。

龍治玲奈渉外・社会貢献課長は「現地の団体と組み、現地だけで回る仕組みづくりをする必要がある。間接的かもしれないが、10~20年かかる復興の中で生きてくれれば」と期待する。同社は復旧・復興のフェーズに対応してニーズを把握し、その時々に必要な支援をしていく考え。現在は仮設住宅の住民の見守りの際、情報管理に必要なシステムの構築や、NPO法人など民間団体のデータベースづくりといった面で新たな支援に取り組んでいる。

岩手県が開いた県内のNPOと東京の企業との交流会(2月20日、東京・大手町)

こうした個別の連携だけでなく、NPOと企業との連携スキームづくりを行政が後押しする動きもある。

岩手県は2月下旬、パソナグループ本部ビル(東京・大手町)で、県内のNPO法人などと東京の企業との交流会を開いた。運営は農業活性化やIT(情報技術)を活用した人材育成などに取り組む一般社団法人SAVE TAKATA(同県陸前高田市)が担当。県内から11団体、企業側は人材派遣会社や食品メーカー、広告会社、印刷会社など23社が参加し、共同事業や連携の可能性などを探った。

「ボランティア元年」といわれた20年前の阪神大震災を起点に本格化したNPOなどの市民活動。被災地支援の取り組みは社会に着実に根付き、信頼感も高まった。行政や企業とのパートナーシップを築き、東日本大震災ではさらに次のステージに進んだ感が強い。それぞれの役割を果たし、被災地復興に取り組むことは、取りも直さず、課題が山積する地域社会の再生の処方箋を見いだす作業に直結するのではなかろうか。

(編集局産業地域研究所主任研究員 川上寿敏)

春割ですべての記事が読み放題
今なら2カ月無料!

セレクション

トレンドウオッチ

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
春割で申し込むログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で申し込むログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
春割で申し込むログイン