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ケレンと王道、互いの本質照らし合う

「KISS JAPAN TOUR 2015」

ももクロ特別出演

奇抜なメークと派手なパフォーマンスで1970年代から活躍する米ロックバンド「キッス」が3月3日、東京・水道橋の東京ドームでアイドルグループ「ももいろクローバーZ」と共演した。来日ツアー最終日の特別ゲストとして迎えた。59.5歳と19.4歳という平均年齢だけでなく、ジャンルも身長もかけ離れたイメージの両グループだが、同じステージに立つことで共通点が浮き彫りになった。ケレン味たっぷりのパフォーマンスを前面に出しながら、実はその道の王道を目指すグループなのだ。

「デトロイト・ロック・シティ」の爆音で幕を開けた。76年のアルバム「地獄の軍団」の冒頭を飾った曲だ。激しいリズムに合わせて、広いステージのあちこちからブオッ、ブオッと火炎が噴射される。彼らの公演を見るのは2013年の日本武道館以来、その前は01年の横浜アリーナだったが、とにかく判で押したように毎度おなじみのパフォーマンスが繰り広げられる。予定調和だが、そこがいいのである。「水戸黄門」を見る楽しみと同じだ。もちろん、この日もそうだった。

その主役はベースのジーン・シモンズ。長い舌をひらひらと動かし、マイクをなめ回す。燃えさかるたいまつを手にして火を噴いたり、おどろおどろしい表情で血のりを吐いてみせたりもする。彼は01年に来日した際にこう明かしてくれた。「子どものころからアメリカンコミックに親しんだ。日本のアストロボーイ(鉄腕アトム)やゴジラも好きだった。それが後の私に反映された」。彼の厚底のブーツはゴジラをかたどっている。

シモンズは歌舞伎の影響を語ってはいないが、彼のメークは歌舞伎十八番「鳴神」の鳴神上人を思わせる。この日も不敵な笑みを浮かべながらワイヤで宙づりになり、はるか上空のサブステージへと移動して、仁王立ちでベースを弾いた。

ボーカルのポール・スタンレーも負けじと宙乗りを披露し、長いワイヤを使って、数十メートル先のアリーナ席中央のサブステージまで飛んでみせた。そろそろやるぞと分かっていても、やっぱり楽しい。もはや様式美と言っていい。こうしたケレン味たっぷりのパフォーマンスの数々は、先代の市川猿之助が始めたスーパー歌舞伎に通じるものがある。

一連のヒット曲や代表曲を演奏したところで、本編が終わって舞台は暗転し、客席からアンコールの拍手が巻き起こった。広い会場のあちこちで赤、黄、ピンク、緑、紫のペンライトが振られている。スクリーンに映し出された「KISS」の文字が「週末ヒロイン ももいろクローバーZ」に切り替わると、怒号のような歓声が沸き上がった。「モノノフ」と呼ばれるももクロのファンたちにとっては、お待ちかねのショータイムである。

スクリーンが再び「KISS」の文字に切り替わるとキッスのファンも負けじと声を上げ、さらに「週末ヒロイン」に変わるとモノノフたちが雄たけびを上げる。

スクリーン上のバトルを何度か繰り返した後、キッスとももクロが同時に登場した。バックには和太鼓奏者もいる。異色の共演として話題になっている新曲「夢の浮世に咲いてみな」である。ももクロは四股を踏むような相撲スタイルのダンスで「地獄の軍団」に立ち向かう。

ももクロの特徴のひとつは、女性アイドルの一般的なイメージとは正反対ともいえるダンスや演出にある。そんなに曲がって大丈夫かと心配になるほど体を反らす「エビ反りジャンプ」をはじめ、アクロバティックな技が次々と飛び出す。コンサートの企画や演出も、たいていはプロレスであったり、かつてのドリフターズのギャグであったりと、オジサン世代が喜びそうな題材をモチーフにしている。

ももクロを初めて生で見たのは3年前の「ももクロ春の一大事2012 横浜アリーナ~まさかの2DAYS~」だったが、彼女たちには面白いスタッフがバックにいるというのが第一印象だった。プロレス興行のパロディーのような、ちょっとレトロなサブカルチャーを意識した演出が続く。今どきの少女ならば、嫌がりそうな。しかし、彼女たちは無邪気な笑顔を見せながら、全力で歌い、踊り続けた。何ともいえないけなげさを感じた。かつてドリフターズの番組で一生懸命コントをしたり、体操をやったりしていたキャンディーズの姿と重なった。

ももクロはメンバーがそれぞれ赤、黄、ピンク、緑、紫と自分のカラーを持っている。ファンも黄色のはちまきをしたり、ピンクのペンライトを持ったりして、誰のファンかをアピールする。かつての「秘密戦隊ゴレンジャー」を思わせるが、そうした少しレトロなサブカルチャーに根ざしたエンターテインメントを前面に出している点は、まさにキッスに通じる。両者の共演を目の当たりにして、改めてそれを感じた。

「夢の浮世に咲いてみな」に続いて始まったのは、キッスの代表曲「ロックンロール・オールナイト」。紙吹雪の舞う中、両グループ入り乱れての熱唱、熱演である。ももクロは決して歌唱力で勝負するグループではないが、そんな彼女たちでも楽しげに、難なく歌っている様子を見て、スタンレーとシモンズが共作したこの曲の良さに改めて感じ入った。

キッスはケレンの部分ばかりクローズアップされがちだが、彼らの曲はロックンロールやハードロックの基本をしっかり押さえつつ、極めて明快で覚えやすいという美点を持っている。音楽的にはロックの王道を行っていると言っていいだろう。

その意味で、ももクロもケレン味たっぷりの見せ方をしてはいるが、素顔の彼女たちは世慣れとか、世間ずれといった言葉とはおよそ縁遠い印象で、今や死語になりつつある清純派という形容を使ってみたくなる。王道を行く正統派のアイドルといえるだろう。

キッスとももクロ。一見すると、木に竹を接ぐような異色の組み合わせだが、互いの本質を照らし合う、実りの多い共演だった。欲を言えば、あと数曲は一緒にやってほしかったのだが。

(編集委員 吉田俊宏)

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