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有料イベントで人つなぐ 新興メディア、出会い提供

ブロガー 藤代裕之

小さなウェブメディアながら、IT系スタートアップ業界で存在感がある「THE BRIDGE(ザ・ブリッジ)」。運営するのはテッククランチなどでライターとして活躍したブロガーの平野武士氏。ユニークなのは、取材して、記事を書くだけでなく、起業家と投資家やメディアをつなぐ会員制度を導入したこと。誰もが発信し、無料イベントも多くなったソーシャルメディアの時代に、有料コミュニティーメディアの可能性を模索する。

起業家と投資家をつなぐ

「参った。人が来過ぎてる」。受け付けで来場者と挨拶を交わす平野氏はつぶやいた。4日、東京・秋葉原。ザ・ブリッジが今年から始めた会員制度のメンバーに提供されるデモイベントの第1回が、ハードウエア・スタートアップ向け施設「DMM.make AKIBA Base」で行われた。人の熱気で室温が上昇、一時はすれ違うのもやっとという状況だった。スタートアップ21社に対して、会員やメディアから100名を超える参加者があった。

会員制度は、スタートアップと法人特別の2種類で、合計150社が集まった。会員になれば、年8回のデモイベントへの招待、PDFにまとめられた月刊マガジンの配布、勉強会、などが提供される。

会費はスタートアップ会員は無料、法人特別会員は年15万円。50社限定の枠に対して、すでに30社を超える申し込みがある。広告協賛を追加した60万円のスポンサー会員には、フジ・スタートアップ・ベンチャーズ、インフィニティ・ベンチャー・パートナーズ、ニッセイ・キャピタルといった投資ファンドが並ぶ。

2010年に有志のプロジェクトとして始まり、13年からサイト名をザ・ブリッジとし、法人化した。現在の月間ページビュー(PV)は120万、ユニークユーザー(UU)は35万人で、それほど多くないが、スタートアップの取材を丁寧に続けている。スタートアップの登竜門IVSのLaunch Padで昨年12月に優勝した駐車場シェアサービスの「akippa」は2月に最初の記事が出ている。

編集体制もユニークだ。サイトにクレジットされている編集者・ライターは平野氏を含めて6人。社員ではなく、それぞれブログを運営するなど個別で活動しているフリーランスだ。独自のネットワークを持つ目利きがチームとして取材活動を行っている。

ページビューは死んだ

会員制度を始めた理由は、「何にお金を払うのかというキャッシュポイントが変化した」から。平野氏は、コンテンツは無料だが、検索を有料化した、クックパッドを例にあげて「コンテンツそのものにお金を払うのではなく、検索するという便利さにお金を払うようになった」と説明する。さらに、ウェブメディアの広告単価の低さも要因だ。

「ページビューは死んだ。1億ページビューを稼いでも、やってられないレベル。キャッシュポイントをコンテンツだと思っていたら終わる」

ウェブメディアの多くは、広告ネットワークを利用して収入を得ているが、その単価が安すぎる。収益を上げたければ、刺激的なタイトルや記事、他メディアのコピー、なんでもありでアクセスを稼がねばならない、それがいまのウェブメディアの現実だ。

「メディアビジネスは全然もうからない。特定の人に役に立つ情報でなければ生き残っていけない」

苦しい環境下においてもメディアを経営するのは、取材対象がスタートアップだからだ。「起業家を取材しているのに、事業をやっていない人には聞かれたくないのではないか。自分も金策に苦しんで、等身大になれば、共感できるし、ぽろっと話してくれるし、紡ぎ出せるストーリーがあると思う」と話す。

サービスを立ち上げ、人を雇い、資金を獲得し、組織をつくっていく起業家と伴走し、記録していくことで大手メディアにはない価値を創りだそうとしている。

このような平野氏の起業家マインドはテッククランチとの出会いによって築かれた。

失意のテッククランチ

平野氏は、石川県の芸術系大学を卒業後、広告代理店でウェブ制作などに取り組んでいた。30歳になるのを機にフリーランスとして視野を広げようと東京に出てIT系企業に転職した。その企業はアメリカの著名なIT系ブログサイトのテッククランチの日本展開を担っていた。

デザインのリニューアルがきっかけで、別部門で広告の仕事をしていた平野氏はチームに加わったが、リーマン・ショックで事業はリストラされチームはバラバラになってしまう。だが、テッククランチを読み続けたことで「俺も何かをやらなきゃ。人生1回しかないから何かしないといけない」と盛り上がった。運営に関わっている間にテッククランチのベンチャーマインドに感化されたのだ。

テッククランチはその後、10年にAOL傘下に入り体制も変わった。平野氏も結果的にテッククランチを去ることになった。多くを語らないが「自分が育てたと勘違いしていた」と振り返る。リニューアルで記事の署名も消えた。仕事を失い、なぜ書くのか、考えるきっかけになった。

平野氏は、IT系メディアのCNETJapanでライターとして学ぶことに決めた。「ニュースの書き方を教えてほしいとお願いしにいった」。ライター修行をしながら、個人会社をつくってコンサルティングなどでしのぎ、ザ・ブリッジの前身であるスタートアップ・デイティングを始めた。起業家と技術者をつなげるイベントを行ううちに、人が出会うことに楽しみを見出した。

100万人でなく100人のビジネスを

「ソーシャルメディアがあるからこそ、お金を払ってリアルに会うという動きが起きている」。ツイッターやフェイスブックなどが広く普及して情報は無料になった。コワーキングスペースやシェアハウスも広がり、イベントも各地で行われている。平野氏は有料のコミュニティーに可能性があるとみる。

「1000人と会って名刺交換するよりも、本当に会いたい人を10人集めたほうが結果的に良い。大事なのは真剣勝負ができるかどうか。真剣な人を集めればビジネスがついてくるはずだ」。だからこそ、ザ・ブリッジは10万人、100万人のメディアではなく、100人や200人の本気のつながりをつくろうとしている。「自分たちが取材している起業家がでかくなっていく。自分たちもそれを伝える側として成長していきたい」

藤代裕之(ふじしろ・ひろゆき)
ジャーナリスト・ブロガー。1973年徳島県生まれ、立教大学21世紀社会デザイン研究科修了。徳島新聞記者などを経て、ネット企業で新サービス立ち上げや研究開発支援を行う。法政大学社会学部准教授。2004年からブログ「ガ島通信」(http://gatonews.hatenablog.com/)を執筆、日本のアルファブロガーの一人として知られる。

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