那覇空港に滑走路増設 課題解消へ、2000億円投資
日本大改造(3)
少子高齢化や財政難を抱える日本国内では、費用対効果の側面から存在意義を問われている地方の空港が少なくない。そんななか、1993億円もの大規模投資に踏み切った地方の空港がある。那覇空港だ。既設滑走路の約1.3km沖合側に並行して長さ2700mの滑走路を新設する。着工前の事業評価では、投資額と同等の金額の純便益を見込んでいる。
既に海上での工事は始まっており、2014年度は仮設桟橋やケーソン(防波堤などに使われるコンクリート、または鋼鉄製の大型の箱)を用いた護岸などの建設を進めた。東京五輪開催直前の2020年3月の供用開始を目指す。

課題抱える1本のみの滑走路
他の地域との陸上輸送に頼れない沖縄県において、空港は産業と生活を支える生命線だ。にもかかわらず、県内の拠点空港である那覇空港が持つ滑走路は1本だけ。昼間の時間当たり滑走路処理容量は、能力をほぼいっぱいまで使っていた。年間発着回数は、格安航空会社(LCC)の相次ぐ就航といった追い風で増加基調が続き、滑走路の増設ニーズは大きかった。
障害やメンテナンスの面でも1本の滑走路は課題を抱えていた。民間需要の大きい空港でありながら、同空港は自衛隊とも共用している。そのため、民間機だけでなく、自衛隊機の故障などで滑走路が閉鎖される事態が繰り返されていた。
さらに、滑走路などを手入れする時間も十分に確保できない状況にあった。同空港では、全日空が羽田や関西、ソウル、上海、バンコクといった国内外の空港とを結ぶ貨物ハブとして、深夜や早朝の空港活用を始めている。24時間体制で運用される状況下で、1本だけの滑走路では大規模修繕が極めて難しかった。

「前回の大規模補修は約10年前。現在は、24時間運用などによって補修可能な時間が短く、簡易な補修で対処している」(内閣府沖縄総合事務局開発建設部の照屋雅彦・那覇空港プロジェクト室長補佐)。
新滑走路の工期は6年
こうした状況を受けて、新たに建設する滑走路の工期は約6年と短い。ところが、施工場所の制約は大きい。例えば、滑走路増設エリアを埋め立てるうえで、大規模な作業船が近寄れるだけの水深を持つエリアは、南北の2カ所だけ。そこで、水路が得られそうな箇所に新たに仮設桟橋を建設し、ここから埋め立て用の材料を搬入できるようしていく。
埋め立てエリアを囲む護岸は、水深の浅い区間では捨て石を、深い区間ではケーソンを利用する。護岸延長約8.5kmのうち、ケーソンの使用区間は約1.2kmに相当し、使用函数は約60函に達する。

ただし、埋め立てエリア全体を護岸で締め切ってから内部を埋めていては工期に間に合わない。そこで、埋め立てエリアを6区画に分割し、締め切りを終えた区域から埋め立てを前倒しできるようにした。
施工箇所は外海に面していて、台風や冬季の波浪の影響を強く受ける。しかも、海洋工事なので夜間は施工できない。そのため、天候などの良い時期には休日返上で施工を進める。
基地問題が生む土砂調達リスク
工事には新たなリスクが出てきた。資材調達だ。埋め立て工事では、土砂を県内から調達する予定にしている。これまでにも空港の別工事で生じた土砂を保管するなど、事前に準備はしてきた。それでも、必要とする土砂の約3分の1に相当する380万m3(立方メートル)は購入する予定だ。米軍普天間飛行場の辺野古移設の事業が動き始めたために、この土砂に費用増などの調達リスクが出てきた。今後の材料の安定供給は予断を許さない。
工事を終えれば、滑走路の処理容量は深夜の離発着便などを除いて年間約18.5万回に増す。現在の約1.4倍だ。まだ10年ほどは人口増加が見込まれる沖縄県。成長の柱として空港増強への期待は大きい。2008年12月から2009年2月にかけて市民に意見募集したところ、滑走路増設案に肯定的な意見は約8割に及んだ。
空港増強による経済効果を十分に発揮させていくには、周辺の脆弱なインフラの手当てにも目を配る必要がある。例えば道路事情。慢性的な交通渋滞に悩まされている那覇市内では、空港へのアクセス改善を図るための道路整備やモノレール延伸といった事業が動き出している。
(日経コンストラクション 浅野祐一)
[日経コンストラクション2014年10月13日号の記事を基に再構成]