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「液晶不振」火消し シャープ、脱スマホ依存に自信

黒字予想から一転して2期ぶりの赤字に転落するシャープ。再び苦境に陥ったとの見方が強いなか、次の一手をどう打つのかに注目が集まっている。そんな中13日、2014年4~12月期の決算発表後初となる記者会見を大阪市内で開いた。登壇したのは液晶事業を統括する方志教和専務執行役員。中国市場におけるシャープの影響力は衰えておらず、車載向けなど新規市場の開拓へ着々と手を打っていると、あくまで強気の姿勢を崩さない。

需要がずれただけ、今後も影響力は衰えず

「徹底的な市場調査をさせているが、中国市場でオセロのように(中小型液晶パネルの)シェアが置き換わったなどといった話は一切確認できていない」――。方志専務執行役員はこう語気を強めた。

火消しとも受け取れる発言が飛び出したのも無理はない。シャープの液晶事業は、15年3月期の期初予想では売上高1兆円、営業利益550億円としていた。ところが3日に発表した修正予想では売上高を9700億円、営業利益も400億円に下方修正。投資家やメディア関係者の間で、とりわけ成長著しい中国市場での売れ行きが先細るのではないかとの不安感が広がっているためだ。

方志専務執行役員は、タブレット(多機能携帯端末)やパソコン向け4Kパネルの需要は確かに不振だったが、スマートフォン(スマホ)向けは受注済みパネルの出荷時期が後ろにずれたにすぎない主張する。フルハイビジョン(フルHD、1920×1080ドット)よりさらに高精細な「WQHD」(2560×1440ドット)に対応したパネルが伸び悩んだのは、今年度に3.9~4億台とみていた市場サイズが、実際には3~3.2億台程度だったのが要因。1億台近いスマホが市中に在庫として積み上がり、同社のWQHDパネルを搭載した新機種の発売が3~6カ月遅れてしまった。

予想外の要因が不振を招いたともこぼす。それが台湾タッチパネルメーカー2位のウィンテックの経営破綻だ。14年10月に会社更生手続きを申請。シャープの中国スマホ向け液晶パネルは、ウィンテックの工場でタッチパネルを装着しスマホメーカーに出荷していただけに影響は少なくなかった。破綻後しばらくは工場の操業は続いていたが「12月の初めに工場が突然閉鎖され、月産100万~150万枚分のサプライチェーンが断たれてしまった」(方志専務執行役員)。

韓国サムスン電子がなりふり構わず中国スマホメーカーに対し有機ELパネルの安値攻勢を仕掛けてきたことも響いた。「競合が参入した結果、価格の押し下げ効果が生まれてしまった」と方志専務執行役員。シャープは中国南部のスマホメーカーに対する営業体制が十分でなかったために、他のパネルメーカーが押さえている顧客に入り込めなかった。

だからこそ市場に悲観論が流れても、あくまでシャープの姿勢は強気のままだ。方志専務執行役員は「今の一過性の問題で伸びが落ちるとは思っていない。波を打ちながらも上昇傾向をたどる」と断言する。15年3月期の中国スマホ向けパネルの売上高見通しを2000億円のまま変えず、17年に6億9000万台という中国スマホ市場の中長期的な規模の見通しも据え置いたのはそのためだ。中長期的にみれば中国スマホ市場は成長が鈍化し、そこでのシャープの影響力も低下する――。こうした見方については真っ向から否定する。

台湾の友達光電(AUO)や中国の京東方科技集団(BOE)など台湾・中国勢の猛追に対しても余裕の構えだ。「パネルの試作だけなら彼らはいくらでもできるだろう。しかし当社と同様のきめ細かなインテグレーションをできるとは思えない」(方志専務執行役員)と、脅威論を一蹴する。シャープの中国スマホメーカーとの取引は、十分な打ち合わせをして仕様を決めて納品する「システムインテグレーション」と呼ぶタイプが大半。台湾・中国勢が値引き攻勢を仕掛けてきても、プラスアルファの技術力が評価されている以上、極端な値下げ要求を飲まされることもないとみている。結果、競争優位性は変わらないはずと見立てているわけだ。

安定需要が見込める車載用で先手

一方で、過去に米アップルへの依存度の高さがたたり業績が大きく変動した点については反省。ボラティリティー(市場の変動性)への耐性を高めるべく手を打つ。車載向けや医療向けといった業務用機器市場の開拓だ。同社は売上高ベースで液晶事業の55%程度をスマホ向けに依存しているとみられる。テレビやスマホなど民生用の搭載ディスプレーと比べ業務用は規模が小さいものの「利益率が高いし長期的に安定した需要が見込める」(方志専務執行役員)と期待を寄せる。

切り札になると考えている一つが、14年に発表した四角形以外にも自由な形状で製造できる「フリーフォームディスプレー」だ。複雑な形の液晶が作り出せる独自技術で、自動車のフロントパネルなどでの採用を想定している。こうした加工技術の開発に成功したのは、今のところシャープだけだ。

自動車市場への展開を見越して、さまざまな新しい液晶技術のアイデアも次々と形にしている。液晶より大幅な高輝度・低消費電力化を図れる「MEMS(メムス)ディスプレー」や、氷点下の寒さでも変わらず動作するパネル、手袋を付けたまま操作できるタッチパネルの制御IC、直射日光が当たっても映像を鮮明に読み取れる乱反射低減技術――などの技術を開発した。

市場調査会社ディスプレイサーチによると、車載向けパネル市場におけるシャープのシェアは16.7%でJDIに次ぐ2位。台湾や韓国のメーカーもシェア10%台で拮抗するが「足元では欧州で商談が進み、中国の自動車メーカーも新技術に対する関心は高い。十分巻き返せる」(方志専務執行役員)とみる。液晶事業における車載・業務用の構成比を、現在の15%程度から18年3月期に25%、22年3月期には40%まで高めたい考えだ。

足元の収益悪化にひるまず、自慢の技術力を武器に多角化を粛々と進めるシャープ。投資家や取引先に冷水を浴びせるような下方修正を、これ以上繰り返すわけにいかない。かといって、液晶ビジネスに収益改善策となるウルトラCのサプライズはない。多くの投資家たちの評価をいい意味で覆すには、技術力を過信することなく価格戦略や量産体制、営業力なども含めた総合力でシェアと収益性を地道に回復していくしかない。

(電子報道部 金子寛人)

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