2018年5月26日(土)

目先より失敗を積み重ねてこそ 起業成功の秘訣
インテカー社長 斉藤ウィリアム浩幸

2015/2/10 7:00
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 ベンチャー成功の秘訣に「フェイルファスト(fail fast)」があります。つまり「誰よりも早く、多く失敗しなさい」という意味です。新しい事業を立ち上げるときや前例がないことに取り組む際、どんな天才や秀才であろうと、つまずき続けるのは当然です。マンガ的な表現で、薬品が爆発して髪の毛がチリチリになる発明家のイメージは万国共通ですが、それは成功に至る人間ほど愚直な失敗を何度も何度も繰り返している現実の反映に他なりません。

 日本でベンチャー支援の活動をしていると「日本人は失敗に慣れていない」と実感するときがあります。目の前に問題があると、すぐに諦め、身を引いてしまうのです。

 自社で開発したビジネスに大手企業が参入してくると「資本力が違うし…」などと言って逃げ腰になる人がいます。私に言わせれば、腰の重い大手さえ参入したくなるくらいに魅力的なビジネスであれば、ベンチャーの目の付けどころとしては大成功です。大手が宣伝力を発揮して市場全体が拡大すれば、その道の第一人者としてビジネスチャンスを大きく広げることができるのに、と非常にもったいなく感じます。

 あるいは、日本国内である程度の顧客がついてくると、すぐ海外展開に乗り出そうとする人がいます。シリコンバレーの空気さえ吸えば、個人も企業も自然と成長できるのだと勘違いしているのです。しかし、それは「隣の芝は青い」と感じているだけのこと。起業して間もないベンチャーが、顧客が100%満足するサービスを提供できるはずがありません。

 「海外に行こうと思うのですが…」と相談を受ける場合、多くが目の前の顧客からの厳しい要望に向き合えず、自分の失敗や至らないところを見つめ直す過程を丸ごと避けようとしているように感じられます。こんな姿勢では、どこに行ってもサービスの質は向上せず、それこそ競合においしいところを取られてしまうだけです。

 ビジネスの成長には時間がかかることを忘れてはいけません。日本人のベンチャー起業家によく見られる傾向は「せっかち」です。行動すれば直ちに成果がついてくると考えているか、さもなければすぐに落ち込み、諦め、ゼロベースで別のことを始めようとします。よく言えば「潔い」のかもしれませんが、悪く言うと継続性がありません。

 そういえば、ジョブローテーションの名の下に担当者がすぐに入れ替わったり、不祥事が起きると担当者が謝罪会見の後に辞任したりする習慣も「誰が責任者なのかわからない」「誰が最後まで責任を果たしてくれるのかわからない」という理由で、海外では多くの場合、批判的に語られます。

 フェイルファストのフェイルとは、問題を特定して改善を導く手段のことです。思った通りに行かないからといって、諦め、逃げ出し、最初から別のことをやり直すのはフェイルではありません。大切なのはフェイルは積み重ねであること。手痛い失敗をしたときほど、その後の対応にベンチャー起業家としての資質が現れます。

 なかなか日本に既存の大企業にも肩を並べるような、米アップルやグーグルクラスのベンチャー企業が育ってこない理由は「フェイルファスト」というシンプルな原則が、決まり言葉として認知されていないからかもしれません。

(インテカー社長 斉藤ウィリアム浩幸〈ツイッターアカウント @whsaito〉)

〔日経産業新聞2015年2月6日付〕

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