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スポーツを科学する 視力検査で再認識 スポーツ選手は「目が命」

編集委員 鉄村和之

スポーツに必要な能力はパワーやスピードだけではない。「目の力」も重要だ。特に野球やサッカーなど動くボールを扱う球技スポーツでは、選手のパフォーマンスに大きな影響を与えるという。プロ野球の巨人もこの能力に注目し、新人選手の合同自主トレ―ニングで動体視力などスポーツビジョンの検査を取り入れている。それはどんなものなのか。スポーツと目の関係性を研究している「スポーツビジョン研究会」(東京・中央)を訪ねて、実際に体験してみた。

巨人、09年からトレーニング実施

「座学で栄養学やビジョントレーニングをしたことが、一番印象に残っている。必ず野球につながることだと思うので継続してやっていきたい」。巨人の新人選手による合同自主トレを打ち上げた1月26日、ドラフト1位の岡本和真(奈良・智弁学園高)は一番勉強になったことを問われると、こう答えた。

巨人は2009年から新人選手のスポーツビジョントレーニングを行っていて、今年は1月17日に実施。各選手の詳しい検査結果は非公表だったものの、スポーツビジョン研究会代表の真下一策医師からトレーニング方法などを学んだそうだ。

巨人の将来の大砲と期待を集める18歳の言葉に興味をかき立てられ、スポーツビジョン研究会を訪ねた。すると、真下医師が「野球だけでなく、サッカーや卓球などいろいろな競技の3000人以上の選手をこれまで検査してきたが、大成する選手はだいたいこのスポーツビジョンの結果が良い傾向にある」と笑顔で迎えてくれた。

卓越していれば有利、重要な要素

人間は、まず目によって情報をインプットし、その情報を脳で判断してから、神経回路を通じて指令を出して手足を動かす。「インプットする段階で(選手の能力に)差があるのではないかと考えてこの研究を始めたが、それを否定する材料はほとんど出てこない。かなりの相関関係があることが分かってきた」と話す。もちろん、スポーツビジョンが優れているだけで一流選手になれるわけではない。だが、卓越していれば、かなり有利となる重要な要素なのである。

同研究会が実施しているスポーツビジョンの検査項目は表にある8項目(それぞれの項目は5段階評価で、すべてが満点だと40点)。かつては別の検査もしていたが、試行錯誤の結果、この方法に落ち着いた。「いろいろ解説するよりも、実際に検査をやってみたらどうか」と促され、いざ体験となった。

まずは通常の視力検査。ところが、ここで大失態に気がついた。度が弱い古い眼鏡をかけてきたため、両目の矯正視力が0.1。「ここまで悪いと、このあとの検査にも影響が出てしまう」という説明に大きく動揺。いきなり5段階評価で最低の1点がついてしまった。

機械も想定外の近眼があだに

気を取り直して、次の「KVA(Kinetic Visual Ability)検査」へ。測定機械をのぞいて、自分に近づいてくるランドル環(視力検査で使われる「C」のようなマーク)の輪が切れているところを確認したところでボタンを押す検査だが、視力が悪いために全く見えず。一番近づいた場所で、ようやく確認できるありさまだ。「スポーツ選手が対象で、矯正視力で0.3以上くらいの人しか想定していないので……」。機械も想定外の近眼のために、またまた最低の1点だ。

ちなみに動いている物体を見ると、人間の視力は落ちる傾向にある。個人差はあるものの、時速30キロで近づいてくる物体を見るとき、1.0の視力の人は0.6~0.7程度になるそうだ。時速100キロ以上になると、視力は半分以下に低下するという。野球の打者は自分に向かってくるボールをバットで打ち返さなければならない。この能力は選手にとって重要な要素の一つだ。

続く「コントラスト検査」は少し離れた位置から壁に張られた円内の白黒模様を見分ける検査だが、これも視力が悪いために確認できず。3つの検査が連続で最低の1点になってしまった。「デーゲームだと、高く上がったフライは白い雲と同化してしまって見えにくくなる。ドームの天井も白っぽければ同様。だから、こうしたコントラストの感度を調べる検査もしている」と真下医師。

6桁の数字、現れたと思った瞬間に…

続いて「瞬間視」の検査へ。測定機械をのぞいて、いざスタート。「なんだ、この速さは……」。6桁の数字が現れたと思った瞬間に消えていく。その間、10分の1秒。「6、7、1、2。あとは……分かりません」。6桁のうち、4つの数字を口にするのがやっと。5回テストしたが、ほとんどが4つほどしか分からなかった。「一つ、一つ数字を読んで確認している人には6つの数字をなかなか正確にいえない。瞬間的に、情報を頭の中にたたき込む能力が必要」と真下医師。ちなみに100分の1秒という超ハイスピードのものにも挑戦。こちらは、なんとか3つの数字を言い当てた。6桁すべての数字を正確にいえなかったとはいえ、瞬間視の評価は3点。ようやく最低点から脱出できた。

次は「深視力」の検査。機械に顔を固定して前方を見ると、3つの黒い棒のうち真ん中の棒だけが前後に動いている。そして3つの棒が平行に並んだと思った瞬間にボタンを押すというもの。何回目かのトライの時に「これはいいですね」という声が聞かれて気をよくしたが、結局、褒められたのはその1回のみ。前方から遠ざかっていくときはまだましだったものの、遠くから近づいてくるときはまったくダメ。「この能力はバッティングのタイミングを計るのに関係するほか、サッカーなどでは空いているスペースを感じ取る際に重要」と真下医師。深視力の評価は2点に終わった。

目と手の協応動作の検査。点灯するボタンが画面の左右に大きく振られると、まったくついていけず

最低評価の1点続出、心穏やかならず

6番目が目と手の協応動作の検査。縦90センチ、横120センチのスクリーン上の各所で点滅するボタンを点灯した瞬間に押すテストで、まるでゲームのような感覚だ。「これならできるかもしれない」と思い、早速トライ。右上、左上、真ん中付近。点灯してから1.13秒以内にボタンを押すとブザーが鳴るが、押せないと鳴らない。「どこだ、どこだ」。真ん中付近から右や左へ振られたときはまだいいが、右端から左端などといった具合に大きく振られると見失ってしまい、全くついていけない。

日ごろの運動不足もたたってか、点灯に気づいても、手を伸ばしてボタンを押したときには遅すぎる。悪戦苦闘の結果、この検査の結果も最低の1点。「画面全体が見えるようにして、目だけを動かして点滅するボタンを探すといい。顔を動かしてしまうと、高得点は難しい」と終わった後に説明を受けたが後の祭り。

7番目が眼球運動の検査。これはパソコン上の画面に緑色の点と黄色の点が不規則に現れ、黄色のときにその点の上にカーソルを合わせてクリックするというもの。「画面が狭いから、今度こそ」と思って挑んだが、ミスばかり。これまた最低の1点に……。

最後のDVA動体視力検査も最低ランクの1点

一流選手は時速300キロで横切る速さも見える

最後が「DVA(Dynamic Visual Ability)」の検査で、顔を固定して80センチ先のスクリーンを横切るランドル環の切れ目を見極めるもの。最初のスピードは10メートル先を時速300キロで物体が横切る速さと同じだったが、あっという間に横切ってしまい、見極められない。徐々にスピードを落としてもらったが、だめ。「眼球を動かして追ってください」とアドバイスされたものの、対応できずにギブアップ。最後もまた最低の1点と、さんざんな結果に終わった。

「野球の選手なら、これぐらいのスピードは簡単に見極められる。一流打者なら、10メートル先を時速300キロで横切る速さも見える」という言葉を聞いて、改めてプロ野球の選手のすごさに驚かされた。

最高得点はある卓球選手の39点

結局、8項目の総合点は11点。「運動経験がない人だと、10点台の後半が普通。また20代以降では加齢とともに低下する」との説明を受けてガクリ。「ただ、あまりにも視力が悪かったので、矯正視力をきちんとすれば、静止視力とKVA動体視力、コントラスト感度はもう少しいい点数が取れると思う。10点台の後半に近いところまではいくかもしれない」とフォローされて、何とか気持ちが落ち着いた。

「プロ野球の選手になるには、トータルで32~33点ぐらいはほしい」と真下医師。こうしたトレーニングは巨人のほか、かつて広島でも実施したことがあり、Jリーグのクラブや卓球など各種競技で取り入れられているという。ちなみに、これまで満点の40点を取った選手はまだおらず、最高はある卓球選手(すでに引退)がマークした39点だそうだ。「いずれにしても、球技スポーツのプロになろうと思うのはやめた方がいい」と笑顔でいわれたのだった。

ちなみに、スポーツビジョンを高める簡単なトレーニング方法を聞いたところ、両手の親指を立てて腕を前方に突き出し、顔を動かさずに親指のつめを左右交互に見るといいと教えてくれた。「1日に5~10分、それを何カ月か行うと効果が出る」と真下医師。

子ども時代のトレーニングは効果大

スポーツビジョンは子どものときからトレーニングすると効果が大きいという話を聞き、今年米大リーグのマーリンズに移籍したイチローが子ども時代、すれ違う車のナンバーを読み取って動体視力を鍛えていたエピソードを思い出した。「親指の爪を見るトレーニングなどは単純すぎて子どもは飽きてしまうので、いろいろなスポーツで工夫しながら体力と一緒に鍛える工夫をしてほしい」と真下医師は話している。

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