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よみがえった3Dプリンター ソライズの再挑戦

編集委員 大西康之

その会社が設立されたのは今から25年前。当時はまだ「3Dプリンター」という言葉がなく、3D・CADと呼んでいた。「ものづくりの革命」ともてはやされたが、リーマン・ショックで2009年に経営破綻。3年で更生手続きを完了し、社名をインクスからソライズ(東京・千代田、古河建規社長)に変え、自動車メーカーなどから熱い視線を集めている。

更生手続きを完了

トレーの上に微細な金属の粉末を0.01ミリの厚さで敷き、炭酸ガスレーザーを照射すると、レーザーが当たった部分だけが焼結する。その上にまた粉末を敷き、レーザーを照射する。この工程を何度も繰り返すうちに、複雑な形をした自動車部品が姿を現す。

「契約上、お客さんの話はできませんが、自動車メーカー、自動車部品メーカーからの受注が売上高の7割。最近は医療分野からの受注も増えています」。ソライズの主力事業である試作モデル制作事業を担当する100%子会社、ソライズ・プロダクツの後藤文男社長は静かに動くマシンを見つめながら、感慨深げに言う。

ソライズの前身、インクスが設立されたのは1990年。製造業に欠かせない金型を3次元CADを駆使して低コスト・短納期で作るビジネスは脚光を集めた。「ものづくりのフロンティア」を求めて東大、東工大などから優秀なエンジニアが集まった。大手コンサルティング会社から転職してくる者もいた。創業期に20人だった従業員数がわずか数年で1000人規模に膨れあがった。

バブル崩壊後も順調に業容を拡大していったが、2008年9月に訪れたリーマン・ショックで状況は一変する。頼みの綱だった自動車メーカー、自動車部品メーカーからの受注がピタリと止まり、経営難に陥った。背伸びをして高価な最先端設備をそろえていたことがあだになって資金繰りが悪化。09年2月に民事再生法の適用を申請した。

社員の多くは散り散りになったが、後藤社長ら一握りは3D・CADの未来を信じ、地道に開発を続けた。やがて3D・CADは「3Dプリンター」と呼ばれ、製造業の最先端に躍り出た。世界最大の3Dプリンター・ユーザーとされる米ゼネラル・エレクトリック(GE)は1台1億円以上する造形装置を数百台保有し、航空機エンジンやガスタービンの部品を作っている。日本ではトヨタ自動車、ホンダ、日産自動車など自動車メーカーによる利用が盛んだが、製造業全般で見ると、まだ従来型の金型から抜け出し切れていない。

従来型の金型で複雑な部品を作る場合、金型を3つ4つのピースに分けなくてはならない。だが、3Dプリンターなら一体造形できるのでコストと時間を大幅に削減できる。

ソライズが手掛けるのは試作部品の製造だ。設計データを3Dプリンターに入力し、顧客が求める性能の試作部品を、金型を使うより安価・短納期で仕上げる。

3Dプリンターには、紫外線硬化樹脂に紫外線レーザーを照射する「光造形」、粉末状にした樹脂・金属材料に炭酸ガスレーザーを照射して焼結する「粉末造形」、インクジェットで樹脂材料をプラットフォームに直接印刷し、紫外線で硬化させる「インクジェット」、ABSなどの熱可塑性の樹脂材料を溶融し、ノズルの先端から垂らして積層する「熱溶融法」などの方法がある。

自動車メーカーが求める精度

最近、話題になっている安価な個人用の卓上型3Dプリンターは熱溶融法。手軽だが、この方法では自動車メーカーが求める精度や強度は出しにくい。ソライズは光造形、粉末造形、インクジェットの最先端装置をそろえ、顧客が望む性能の部品を、金型を使う場合の5分の1の時間、10分の1のコスト(粉末樹脂の場合)で作り上げる。

例えば数年前、ある自動車メーカーから「中のガスの流れを見たいから、透明のインテークマニホールド(自動車の排気部品)を作ってほしい」と言われ、耐熱性のある透明な樹脂で同部品を作った。文具メーカーからはキャラクターグッズの金型設計の期間短縮を打診された。はやりすたりの激しいキャラクターグッズはタイムリーに製品を出さないと、商機を逃してしまうからだ。ソライズは従来3カ月かかっていた設計完了までの時間を1カ月に短縮し、文具メーカーを喜ばせた。

「米メーカーはすべての種類の3Dプリンターを使い分け、これまでとは次元の違うものづくりを可能にしつつある。日本も活用を急がないと」と後藤社長は警鐘を鳴らす。破綻からよみがえったベンチャーが、日本に3Dプリンターの芽を植えている。

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