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ヤモリに学び、ガをまねる 未来型モノ作りの胎動

眠っていても目的地に着く自動運転車、ヒトが念じれば動く機械――。遠い将来の話ではない。世界に誇る新幹線が開業した1964年、東京五輪が開かれた。2度目の東京五輪を迎える2020年を次のターゲットとする研究者は多い。その頃世の中を変える最先端技術の数々を「技術100選」として、企業や大学の開発現場を追う。

ヒントはヤモリの足の裏にあり

「吸盤のように壁や天井に貼り付き、痕跡を残さずに歩き回る」。映画や漫画の話ではない。

日東電工の前野洋平主任研究員らが開発している新しい原理の粘着テープを通じて、そんなロボットの未来が見える。

このテープ、接着剤なしでツルツルのガラスに貼り付く。1センチメートル四方のテープ片があれば4.6キログラムの重さに耐えられる。強力なのに、端をつまめば簡単にはがせる。

重力に逆らい壁や天井に貼り付く、そんな生き物に心当たりはないだろうか。答えは爬虫(はちゅう)類のヤモリだ。

ヤモリの足の裏には直径数百ナノ(ナノは10億分の1)メートルのたんぱく質の毛がびっしり生えている。粘液も出さないのにどこでも歩く。その姿、かわいい? 気味悪い? 研究者はそこに機能の美しさを感じてきた。

ヤモリだけではない。ガの目の細かい凹凸は光の反射を抑え、天敵から見つかりにくい。ぐるぐる巻いたカタツムリの殻は薄い水の膜に覆われ、いつまでも艶っぽい。

生存競争を勝ち抜いてきた生き物の構造や機能を人間の生活に生かす「生物模倣」。バイオミメティクスとも呼ぶ技術は今、科学の最前線にあって、ものづくりに革命をもたらす力を持つ。

鳥のカワセミは餌の魚を捕らえるため、くちばしが水の抵抗を受けにくい。流線形は空気抵抗を減らしたい新幹線の先頭車両の手本になった。

そして今、生物模倣の技術にナノテクノロジー(超微細技術)の進歩という要素が加わった。

ヤモリテープが05年に開発された頃は樹脂製で、耐熱性や粘着力が足りなかった。研究者たちは、大阪大学が研究していた先端素材「カーボンナノチューブ(筒状炭素分子)」の硬く耐熱性が高い性質がテープにふさわしいと突き止め、06年に共同開発を始めた。

「自動車部品メーカーからは部品を運びながら300度以上で熱処理し、接着剤を残したくないと言われる」(前野主任研究員)。カーボンナノチューブを使った効果などで、セ氏マイナス150~500度まで高い粘着力を保つ試作品ができた。日東電工は16年3月までの製品化を目指す。カメレオンが舌で虫を捕まえるように、部品の汚れを素早く取り除く使い方も想定している。

ガの目をまねた細胞培養シートも

バイオでも生物模倣は力を発揮する。日立製作所はガの目のように、細胞より小さい直径数百ナノメートルの柱を整然と並べ、体内と同様に細胞が成長しやすい構造を作る。そこから生まれたのが、がん細胞を効率よく増やす細胞培養シートだ。新薬の候補物質をたらして、よく効く薬を早く探すのに役立つ。

「体の外で細胞をうまく育てる技術は再生医療にも欠かせない」。宮内昭浩主管研究員は応用範囲の広さに期待する。

LIXILの研究部門、井須紀文センター長らが目をつけたのはカタツムリだ。「殻はなぜいつもきれいなのか」。表面のたんぱく質に油が付着して汚れやすいはずだが、なぜか油をはじく。

調べると、殻の表面に数百ナノメートルサイズの溝が並び、水をとどめて油をはじく膜ができていた。世界各地に生息する汚れのない生物がヒントだ。温度や湿度などが異なる地域ごとに、いつもきれいなタイルを用意することだって夢ではない。

太陽光と二酸化炭素(CO2)などから化学原料や燃料をつくる「人工光合成」も植物をまねる生物模倣の仲間だ。将来は自動車の燃料になる可能性だってある。東芝やパナソニックなどが開発を競う。生物の知恵はエネルギー分野でも革命を起こす威力を秘める。

         ◇              ◇

日本経済新聞で技術取材を続ける記者がチームをつくり、2020年ごろに話題になりそうな100項目超の技術を選んだ。順次取り上げる。

 この連載は黒川卓、尾島島雄、早川麗、高田倫志、小河愛実、名古屋支社 大島有美子、広島支局 篤田聡志が担当します。

[日経産業新聞2015年1月30日付]

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