「野菜ジュース」でがんに負けない体をつくる

消化器専門の外科医として、がん患者を5000人余り治療し、約2000例のがん手術をしてきた済陽高穂さん。その元気の源が、25年以上毎朝欠かさず飲んでいる「最強ジュース」だ。ある日の1人分の材料はレモン2個、グレープフルーツ1個に季節の野菜と果物を数種類。レモンは無農薬農家と契約し、夫婦2人で1カ月に120個も消費してしまう。毎朝の1杯が、がんに負けない体をつくるという。
日本人の2人に1人ががんにかかり、3人に1人ががんで亡くなる時代。誰もががんと無縁ではいられない。
だからこそ済陽さんは「がんは生活習慣病である」ことを強調する。「がんを予防するにはまずは食生活を改善し、代謝と免疫力を高めることが重要です」。がんを防ぐ食べ方をじっくり聞いた。
がんの芽を早めに摘む食べ方
そもそも、がんは全身の代謝異常によって細胞ががん化し、免疫力の低下によって増殖する病気。
「がんの『芽』は、健康な人でも1日3000~5000個は発生しているといわれます」と済陽さん。ただしすべての「芽」が、がん細胞になるわけではない。がんの成長を抑制してくれる食べ物と、逆にがん細胞の発生・成長を促してしまう食べ物とがあるという。
「がんは、間違った食生活による代謝異常が招く全身病ともいえます」(済陽さん)
がん細胞の発生・成長を促してしまうのは「塩分と牛・豚・羊など4本足の動物の動物性脂肪、動物性たんぱく質。これらの取り過ぎは、がんと明確な因果関係があります」(済陽さん)。
一方、がんを抑制してくれるのが野菜や果物。鍵となるのは、野菜や果物に豊富に含まれるカリウムとポリフェノールだ。カリウムは余分なナトリウム(塩分)を体外に出し、細胞が傷つきにくい状態にする。ポリフェノールは、がんの原因にもなる活性酸素の働きを抑える。この2つが体内の毒を出し、細胞を強化して「がんを寄せつけない体」をつくる。

野菜や果物ががん予防に効くことは、海外の研究でも実証済みだ。食事とがんとの関係を科学的に調べようと、1990年に始まったアメリカの国立がん研究所の「デザイナーフーズ計画」では、野菜や果物、香辛料などが有望ながん予防食品と見なされた(上図参照)。
さらに世界がん研究基金による調査(1997年)では、野菜が、がんのリスクを低下させることが明確になった(下表参照)。「特に食道、肺、胃、大腸のがんには、野菜が効果的とされています」と済陽さん。

最適解はジュース。レモンは必須
では、野菜や果物に含まれる抗酸化物質をどうやって取るか。「ジュースが最も効率が良い」というのが、済陽さんの結論だ。
「大量の野菜・果物は生では食べ切れない。スープは料理に手間と時間がかかるし、塩分の排出を促すカリウムは水に溶けやすいので、スープでは失われやすくなる」(済陽さん)
がん予防のジュースの必須アイテムがレモン。免疫力を高める効果が特に強い。これに旬の野菜と果物を加える。
既にがんに罹患(りかん)した人には1日1.5~2Lと、大量のジュースを飲むよう勧めているが、予防目的なら1日300~500mLで十分という。
「細胞の新陳代謝は100日以内のものが多いから、3カ月から半年間ほど朝のジュースを続ければ、体質改善できますよ」(済陽さん)
お邪魔します、名医の食卓:済陽家の朝は1杯のジュースで始まる
野菜ジュースの有効性を説く済陽さんは、自宅でも夫人お手製のジュースを毎日飲む。朝食に欠かせない野菜ジュース作りに密着した。

(1) ジュース作りは千賀子夫人が担当。材料は毎日替わるが、この日は良い葉物野菜がなかったので野菜はニンジンのみ。表皮の農薬を取り除くため、一晩水につける。
(2) レモンを大量に使う済陽家では、電動のスクイーザーが大活躍。レモン3個、グレープフルーツ1個、 オレンジ1個を搾ったが、驚くほど短時間で果汁が取れた。
(3) ニンジン1本、リンゴ1個は小さく切ってジューサーに。ミキサーだと素材の栄養素が壊れやすく、食物繊維が多過ぎて腸に負担がかかるため、ジューサーを愛用。

(4) 完成! 野菜ジュースの鉄則は、搾りたてをすぐに飲むこと。時間がたつにつれ、栄養素が壊れて効果が低下してしまうからだ。朝食を取る前に、まずは夫婦そろってジュース(200~300mL)で乾杯するのが、済陽家で20年以上続く朝の儀式。
(5)ジュースの後はたっぷりの朝食。食後においしい緑茶を入れるのは済陽先生の担当。

がんができやすい体質を変える、済陽流ジュースの黄金方程式
体に良いと分かっていても、おいしく、手軽でなければ続かない。忙しい朝、あれこれ迷わず、おいしいジュースを作るコツとポイントを、済陽さんに伝授してもらった。

(ライター 大旗規子、日経おとなのOFF 市川礼子・安原ゆかり、写真 吉澤咲子)
[日経おとなのOFF 2014年12月号の記事を基に再構成]