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銀盤ファンタジア 華やかな芸術 アイスショーも奥深い

プロスケーター 太田由希奈

 昨年12月にはグランプリ(GP)ファイナルや全日本選手権が開催されたフィギュアスケートだが、1月は大きな大会がなくミニブレークといった感じだ。そうした中で今季の休養を表明し、去就が注目されている浅田真央(中京大)が、年末から年始にかけてアイスショーに出演して話題となった。競技とは違った選手の表情に接することができるアイスショー。プロスケーターの太田由希奈さんにショーの魅力について語ってもらった。

ファンの方たちは久々に浅田選手の姿を見ることができて、うれしかったのではないか。昨年3月の世界選手権女子シングルで4年ぶり3度目の優勝を果たした後、1年間の競技生活の休養を表明していた浅田選手が、昨年末の「クリスマス・オン・アイス」(新横浜スケートセンター)と年明けの「スターズ・オン・アイス」(大阪・なみはやドームなど)に参加。クリスマス・オン・アイスでは昨年10月に引退を表明したバンクーバー五輪銅メダリストの高橋大輔選手と一緒に演技するなど、本当に伸び伸びと、そして楽しそうに滑っていた。

氷上で生き生き、心も弾む

年末年始は風邪をひいていたというが、「スターズ・オン・アイス」でも軽快なステップやジャンプを披露。演技後のインタビューで「やっぱりスケートが好きということを実感した」と話していたが、5歳からスケートをやっているだけに滑ることが生活の一部のようになっているのだろう。氷の上にいると生き生きとするし、自然と心も弾む。浅田選手も滑る喜びを改めて感じたに違いない。

こうしたアイスショーの魅力は、なんといっても華やかなことだ。フィギュアスケートは芸術的なスポーツだといわれるが、やはり競技ではジャンプの要素などスポーティーな部分に重きが置かれる。一方、ショーはまさに芸術を追求した夢の世界。照明もピンスポットで演技者を浮かび上がらせたり、いろいろな色で照らすことで氷の上にアートを描いたり。衣装も豪華になるし、きらびやかなアクセサリーも身につけられる。長いスカートの衣装を着てスピンをすると、観客席から見るとまるで花びらが回っているように見えるかもしれない。

今では競技大会も多少の演出をするようになったが、やはり選手たちがメダルをかけて戦っているので、そうしたことには限度がある。衣装にしても試合ではあまり滑っているときに風圧を感じないようなデザインになるし、アクセサリーにしてもやはり重いので身につけられない。ショーは本当に華やかで、私も出始めたころ「こんな世界もあるのか」と驚いたものだ。

もちろん、試合のときのようなピーンと張り詰めた緊張感とは無縁で、出演者たちもリラックスムードで表情も自然となごむ。みんなで一緒に食事に行ったり、今度はこうしようと話し合ったり。出演者だけでなく、ディレクターや照明の方、裏方のスタッフの方を含めてみんなで一緒にこの舞台を成功させようという一体感がある。

得点にとらわれない演技構成

プログラムにしても、競技だとどうしてもこのジャンプやスピンは何点の加点になるかといったことを考えながら演技構成を考える。たとえば体をそらすレイバックスピンをするときにしても、ただ反って回るだけでなく、体幹をひねって、足を頭に近づけ、最後はビールマンスピンのポジションにしないとなかなか高いレベルの得点は取れないので本当にせわしない。

トリノ五輪で金メダルに輝いた荒川静香さんが演技に組み込んだことで有名になったイナバウアーも、それ自体では点数がつかないから(出来栄え点であるGEOでは多少の加点があるかもしれないが)、もっとほかの加点がつくような要素を演じようということになる。

だが、ショーの場合はこうした縛りがないので、本当に美しいな、すてきだなと思う演技を中心に演技構成を組み立てられる。たとえば、複雑なスピンよりもシンプルなスピンの方がすてきに演じられる選手がいたとすると、その得意なシンプルなスピンをじっくりと観客の方々に見せることができる。

エキシビションとの違い、物語性

大会の後に開かれるエキシビションとの違いを挙げるとすれば、ストーリー性ということだろう。エキシビションは選手たちがそれぞれプログラムを持ち寄って演じるので、どうしてもプログラム全体の統一性というものは感じにくい。だが、ショーの場合はなんらかのテーマに沿って演じられることが多い。私が出演した2013年のプリンスアイスワールドでは、ショーの一部がビィクトル・ユーゴーの有名な小説である「レ・ミゼラブル」をテーマにしていた。

著名な音楽家のコラボといったこともある。昨シーズン、チェコで開かれたショーに出演したが、リンク上に舞台が作られ、そこで欧州で人気のあるチェリストのデュオ「2CELLOS」が演奏。フィギュアスケートのファンにも、音楽ファンにも楽しめるプログラムになっていた。日本でもバイオリニストの古沢巌さんとのコラボが行われるなどしている。アイスショーは「アートな世界」をより楽しめる。それが、競技とはひと味違った魅力なのだと思う。

私は30日から3日間、ミュンヘンで「Rock the Ice!」というアイスショーに、トリノ五輪男子シングル銅メダリストのジェフリー・バトルさん(カナダ)らと一緒に出演する。このショーは少し面白くて、リンクが10メートル×15メートルしかない。試合が行われるリンクは30メートル×60メートルなので、面積からいうと12分の1の大きさだ。

アイデア次第で様々な見せ方

だから、一般的なショーはお客さんが座る観客席はリンクを360度ぐるりと取り囲んで見下ろせるようになっているが、この「Rock the Ice!」は前方にしか観客を入れない。本当に小劇場の舞台といった感じだ。こう考えてみると、アイスショーはアイデア次第で様々な見せ方ができ、本当に奥深い。

欧米では規模の大小を含めてこうしたショーが各地で頻繁に開かれていて、演劇やバレエのように文化としてしっかりと根付いている。ショースケーターも憧れの的で、「このショーに出演している」と話すと、称賛されたり尊敬されたりする。

日本でも最近、こうしたショーが増えつつある。しかし、欧米に比べると、まだまだ。日本にはリンクが少ないということもあるのかもしれない。現役を引退したら、もう滑る場がなくなってしまうのは本当に残念。また、選手としては大成できなかったが、滑りは非常に美しいので、ショーでは一段と映えるスケーターもいる。そうした人たちに活躍の場を与える意味でも、日本でもっとショーが頻繁に開かれるようになれば……。

様々なショーの機会増えれば

日本のスケーターの中には、出演の機会を求めて欧州で開かれているホリデー・オン・アイスや米国の豪華客船の中で行われるショーなどに出かける人もいるくらいだ。華やかな夢の世界であるアイスショー。ファンの方々に喜んでもらうためにも、大規模なショーだけではなく、小規模なものも含めて、もっともっと増えてほしいと思っている。

 おおた・ゆきな 1986年11月生まれ、京都市出身。2003年世界ジュニア選手権の女子シングルを日本勢で10年ぶりに制し、シニアデビューとなった04年四大陸選手権で優勝。その後、右足首のケガで試合に出場できない日々が続いたが06年に復活。同年、拠点を東京に移し、樋口豊氏の指導を受ける。08年に引退後、プロスケーターとしてアイスショーなどで活躍。明治神宮外苑フィギュアスケートクラブでノービス(小学生)世代の子供を指導し、解説者としても活躍。

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